どすこいジャパンカップ(芝2000m/両国)(第4話/終)
(第3コーナーのおさらい)
全世界が注目する今年最後のG1レース。
「ジャパンカップ」
両国の街そのものを利用した世界最重量の市街地レースだ。
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どすこいジャパンカップ(芝2000m/両国)
第4話「最終コーナー」
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01. 泥土竜 【脱落】
02. 酸鼻 【脱落】
03. 穴昆蛇(あなこんだ) 【脱落】
04. 潮測(しおはかり)
05. 聴海(ちょうかい)【脱落】
06. 模写櫓(もしゃやぐら)
07. 押井守(おしいのかみ)
08. 福の胆【脱落】
09. 渡鴉(れいぶん)
10. 塩の海【脱落】
11. 力魑(りっち)【脱落】
12. 自我海(えごのうみ)【脱落】
13. 久地裂袈(くちさけ)
14. 露出強(ろでつよし) 【脱落】
15. 円出(まるだし) 【脱落】
16. ロマノフ・シコルスキー(ろまのふ・しこるすきい) 【脱落】
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「最終コーナーに4名が突っ込んだ!! 久地裂袈、渡鴉、潮測、模写櫓!」
久地裂袈。身長2mを超える痩身の都市伝説力士。
渡鴉。可変機構を備えた傭兵力士。
潮測。正確に塩の粒数を把握する塩相撲力士。
模写櫓。正体不明、自在に他人の顔を奪う無貌力士。
「やはり久地裂袈が早いですな」
「久地裂袈が再加速!はやいはやい!」
「ぬう。模写櫓の姿が……?」
「おーっと、模写櫓がいつの間にか変身!! あの独特のヘアースタイルは!?」
「伝説横綱、橋龍!!」
コーナー上で模写櫓がポマード横綱と呼ばれた橋龍に変身して久地裂袈に密着していた。
「うぎゃーーーポマードーーー!!」
久地裂袈はポマードに弱い!優勝候補筆頭が転倒して外壁に衝突!!
「模写櫓が先頭に踊り出る! そこに追いすがる潮測!!」
「む、まずいですな」
「コーナーを曲がり切れずアウトコースに膨らんだのは渡鴉!!」
目の前には誰もいない!
最終直線で模写櫓が勝利を確信した時!!
キュルンキュルンルンルンルンルン
スバラタタタタタタタタタタタタタタ
あえてアウトコースへ膨らみ、十分な変形時間を確保した「航空形態」の渡鴉のガトリング張り手が模写櫓を背中から撃ち抜いた!!
模写櫓は同様に兵器形態に変身しようとするが……
「オ前ノハ物真似ダ、人体ノ域ヲ出ナイ」
ドゥン!ドゥン!
「渡鴉のミサイル張り手が命中!模写櫓は変形しきれずにダウン!!」
「こうなると思っていました」
「このままゴールか!!」
「間違いないでしょう」
「速い!速いぞ!コースレコードで渡鴉が一着……」
「まずいですな!?」
「渡鴉が突然足を止めてしまったー!?」
渡鴉はゴール目前でUターン。加速をつけて場外へ飛び立った。
そこに姿を現したのは押井守。立方体部屋のハッカー力士だ。
彼はステルス機構のフード付きパーカーをかぶったままレースに参加して序盤から渡鴉に乗り込み、ハッキングによって渡鴉の強制自我書換し命令系統を乱しゴール直前で乗り捨てたのだ。
押井守、フードに手を突っ込みながら悠々と一着ゴールイン。
一着は押井守。
二着は潮測。
三着は模写櫓。(脱落地点順)
四着は久地裂袈。(脱落地点順)
「一着は、押井、押井? 押井まもる……?」
「そんな力士はいましたかな?」
「ちょっと待ってくださいね、たしかにこの目でゴールの瞬間を」
「(パチパチッ ピボッ)そのような力士は協会に所属していませんぞ」
一着は 010井0101
二着は潮測。
三着は模写櫓。(脱落地点順)
四着は久地裂袈。(脱落地点順)
「え? いますよ、そんな」
「この相撲名鑑に載っている力士は誰です?」
「ほら、確かに……いない?」
一着01
二着は潮測。
三着は模写櫓。(脱落地点順)
四着は久地裂袈。(脱落地点順)
「恋人は?年収は?」
「し、調べてみます」
「とにかく映像を巻き戻してみましょう」
(画面には西へ飛ぶ渡鴉と懸命に走り抜ける潮測の姿だけが映し出されている)
「これは????」
「まあ、とにかく表彰式です」
こうして大相撲ジャパンカップは幕を閉じた。
全員が「押井守」という力士を見ていながら実在を肯定できない。不思議な印象を残して。
最終成績(完走者1名、脱落者14名)
二着は潮測。
三着は模写櫓。(脱落地点順)
四着は久地裂袈。(脱落地点順)
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両国郊外。
商店街から離れた人気のない路地をフード付きパーカーの若い男が歩いている。まぎれもない押井守だ。
「傑作だったな、表彰台の頂上に誰もいない」
おしるこ自動販売機の陰から押井守を呼び止めたのは、ロマノフ・シコルスキーである。
「ありがとう、あなたのおかげで映像ハッキングが楽になりました」
「どうだった、首尾は?」
「今回の出場者の中に《第三帝国》の手のものはいませんでした」
「ふん、ハーキュリーズの取り越し苦労だったか」
「でも」
「ん?」
「きっと、彼らは《第三帝国》との戦いで頼りになると思います」
「同感だ、これからは私も加わる」
「頼りにしています」
二人はニヤリと笑みを交わし別れた。
押井守はステルス機構をアクティベートしてパーカーに手を突っ込みながら人混みを歩く。
(《第三帝国》を目覚めさせ世界を崩壊に導こうとする八極弾の……兄の野望を止めなくては)
見上げた師走の空を渡鴉の飛行機雲が翔けていった。
『どすこいジャパンカップ(芝2000m/両国)』
完
謝辞
本作品に登場する非実在力士達は読者投稿のオリジナル力士を再構成したものです。キャラクターや言動は本作独自のものでありオリジナル設定に影響を与えるものではなく、どのような狼藉も力士発案者に影響を及ぼしません。