「必殺スペシャル大老殺し 下田港の殺し技珍プレー好プレー」(1987年のTV時代劇)
よくきたな。お望月さんだ。
俺は毎日時代劇専門チャンネルで子連れ狼とかを見ながら拝一刀の顔色から健康状態を心配したりしているが誰にも伝えるつもりはない。今日は「暗殺野球」という用語を日本中に知らしめた「必殺スペシャル大老殺し 下田港の殺し技珍プレー好プレー」の話をする。
この物語はシリアスな「大老殺し」を主題に添えており桜田門外の変に隠された仕事人の暗躍を描いている。トンチキな野球編やロケットパンチ編はそこから逆算されて創出されたものと思われるがシリアスにやりたい製作者側とキャッチーなコピーで視聴率だけどドカドカ稼ぎたいテレビ局側の思惑がせめぎあっており、そこもまた見どころである。なお、CMアイキャッチは常に「大老殺し」と書かれており「珍プレー好プレー」はどこにもない。
とフォローしてみたけど、ロケットパンチ編ってなんだよ。《殺し技ロケットパンチ》ちょっとおかしいだろ。という行き場のない感情と終盤のカンパとキーノと合流した後のドシリアスの落差を楽しんでほしい作品だ。
第一幕「暗殺野球編」
ベースボールの本質は殺しだ。
舞台は江戸末期。通商マンであるハリスが来日して下田に在留しているが長引く交渉に疲れ果てホームシックを患ってしまった。通訳のジョン万次郎(江夏豊)がベースボールをして気を紛らわせてやろうと幕府へ進言をしたことにより日米親善ベースボール大会の開催が決定する。
一方江戸では幕末さながらの大忙しでありベースボールの監督をするような暇人は……一人しかいない。そう、我らが昼行燈 中村主水(藤田まこと)だ。主水は口入れ屋の伝手を頼りベースボールに向いた人材をスカウトするトライアウトを開催する。
当時のベースボールは「野球」という言葉も存在しない未開の地であり、ベースボール選手にどのような能力が向いているか不明な時代である。このため選手は各分野のスペシャリストを集めた個性派球団となった。
切り込み役は居合の達人(どう見ても蛾次郎)。
俊足を誇る飛脚。(飛脚スタイルでしか走れない)
ひとり相撲の達人は足腰が強いのでキャッチャー。
空中戦が得意な山伏、軽業師を守備的に配置。
試合中に傘を回して催眠術を放つ女。
ピッチャー草履投げ(旅籠の玄関に草履を投げ込むアンダースローの達人)
そして、プレイングマネージャーの中村主水。*1
素人ながらそれぞれが野球で得意分野を発揮して活躍するという、ちょっとした青春ドラマの匂いがしてくる。「おはようKジロー」みたいな。*2
しかし、彼らには裏の目的があった。チームメイト全員が暗殺者であり幕府からの密命により試合中に事故に見せかけたハリス暗殺「暗殺野球」を命じられた刺客であったのだ。
主水は表稼業のためにチームメイトの暗殺実行を阻止しながらベースボールも進行しなけれならない。日本ベースボール史に残されていない幻の試合が幕を開ける!!
*1当時は野球用語の翻訳語が存在せず作中では全て英語を使用している。当然、プレイボールもプレイングマネージャーもセカンドもバッターアウッもそのままである。
*2「おはようKジロー」は1989年に連載を開始しているので必殺が先行している。
「ペボー!」
日米親善野球の試合開始。
観客席にはたまたま歌川広重がいる。
序盤は従来の野球に枠に収まらない破天荒なサムライジャパンのプレイが米国チームを圧倒する。しかし、次第に基本に忠実な米国野球が力を発揮してゲームは一進一退の好ゲームに。白熱する試合の中、通商ハリスも熱が入りホームでのクロスプレイを敢行。((((すわ暗殺チャンス!!)))チームメイトが暗殺体勢に入る、中村主水は出遅れる。このままではハリスが暗殺されてしまい、試合が血の雨コールドゲームになってしまう。
その時!!
KA-DOOOOOOM!
たまたまサムライジャパンのベンチにあった源泉が爆発を起こした!!
親善試合は温泉コールドゲームとなり試合中止。しかし、その爆発の陰でサムライジャパンの選手が頭を砕かれて死亡していた。観戦中の歌川広重が爆発の瞬間をスケッチ * 3していたため主水は爆発に紛れ込んだ黒ずくめの不審者の姿を発見し「地獄組」の仕業であることを看破する。しかし、幕府の掃除部隊の「地獄組」がなぜ?
*3 浮世絵作家の動体視力は超人的であり波が砕ける瞬間を瞬時に描く等の能力を持つため瞬間的なスケッチくらいは朝飯前にできる。
第二幕「下田包囲網編」
仕事人 対 掃除人 生きのこるのはどっちだ。
「地獄組」の派遣により粛清対象となったことを知った仕事人は旅籠に引きこもり迎撃態勢を整える。
(ピーヒョロローピーピー)どこからともなく口笛が響き渡り暗闇戦闘に最適化された「地獄組」の蝙蝠忍者が襲い掛かってくる。仕事人チームも連携して篝火を灯して地獄組の視界を焼き対抗する。戦力が拮抗し停戦かと思われた瞬間、地獄組の首領「鉄眼」が姿を現し両腕と両足を置換したロケットパンチ*4 で仕事人を爆破、全滅させる。自らに火をつける奇策で逃げ切った主水と蛾次郎と飛脚は闇に紛れ反撃の機会をうかがう。
*4 ロケットパンチ(火筒腕)は古代中国で火薬の発明と共に産声を上げた伝統の暗器だが両足までもロケットパンチに置換した例はなく鉄眼の異常性を際立たせている。
仕事人チームを殲滅しようとしたのは幕府の風見鶏外交が原因であった。開国方針へ転換した幕府はハリス暗殺の阻止と口封じを実行したのである。スポンサーの商家が口封じの首尾を確認し通商条約を進めようと下田入りしたことを発見した主水ら残党は逆に商人への襲撃を敢行、見事に黒幕を討ち取ることに成功したが、「地獄組」の追撃を受けてしまう。(ピーヒョロローピーピー)主水は下田で仲間に引き入れた佐渡帰りの男、二本十手の久蔵(宍戸錠)から「地獄組」の弱点を聞き取っており音波通信の逆用に成功。6800hzのクラリオン *5 を吹き鳴らして「地獄組」の通信を阻害、瞬く間に蝙蝠忍者共を全滅させる。
しかし、ロケットパンチで蛾次郎はアフロを残して爆発四散、宍戸錠も鉄眼の義眼光線ビーム *6 により頬袋の残して原子分解されてしまう。瓦礫に飲まれた主水は気を失い完全敗北を喫する。
*5 6800hzの清浄なるクラリオンによりニンジャを使役するジツは世界各地で観測されるメジャーな通信技術であり故に仕掛けがわかれば対処しやすいという弱点もあった。
*6 特に説明はない。
第三幕「大老殺し編」
2年後。安政七年三月三日。
歴史上は激動の幕末を迎えていたが中村主水は通常勤務に戻っていた。同心としてのパトロールの最中に主水は下田で会ったハリスの看護婦であるお吉と再会する。お吉は下田のことは忘れたと去っていくがそれを暖かく見守る男(勝鱗太郎 *7)と酒を酌み交わし、下田事件の真実を知らされる。
*7 政府の内情に詳しい正体不明の謎の男。渡米の予定があるらしい。オリキャラ?
方針転換で口封じされた仕事人達、ハリスに看護婦をあてがうことで西洋人は破廉恥であると国内世論を誘導しようとしたが都合が悪くなったのでいなかったことにされたお吉。すべての根源は政情不安をもたらす大老、井伊直弼にあると主水は激怒した。主水に政治はわからぬ。けれど、俺の大切なチームメイトやかわいそうな女を傷つけたヤツは許さねえ。 主水はカンパとキーノ*8 に連絡を取り、払暁の桜田門外へ向かう。大老を暗殺するために。
*8 真の男。
果たして暗殺に成功した主水は幕閣の刺客を退けて逃亡者となる……はずが同時刻に「桜田門外の変」が発生。すでに絶命した井伊大老の首級があげられたため主水の暗殺が人の世に知られることはなかった。 幕府の追手 *9 を撃退してカンパとキーノと別れた主水は自宅へ帰り、大規模な政変の嵐が巻き起こる中、ただハマグリ汁を啜るのであった。
*9 鉄眼も現着したが主水の愚行にあきれて去っていった。
珍プレー好プレー
以下は作中の出来事を珍プレーと好プレーに分類した執筆メモです。
特に取り上げられていない部分もあるので見てね。
第一幕「暗殺野球編」
珍プレー
手が空いているためベースボールの監督を押し付けられる中村主水。
どう見ても蛾次郎。
ピッチャー草履投げ。(アンダースローの精密さがウリ)
飛脚スタイルでしか走れない飛脚。
空中戦が得意な山伏。(空中戦?)
ひとり相撲の達人は足腰が安定しているという謎理論。
歌川広重が試合を見に来てスケッチをしている設定。
軽業師は空中捕球が強い!(空中戦?)
「暗殺野球」というあまり聞かない専門用語(これで3回目くらい)
ランナーハリスを文字通り「刺す」という「暗殺野球」を展開。
試合中に爆発。
好プレー
鮮やかに殺し技を披露しながら登場する仕事人達。
ジョン万次郎に江夏豊を配役した手腕。
中村主水(藤田まこと)の打棒。
暗殺野球計画を知った中村主水がチームメイトの半数を切っても良いと啖呵を切る。
意外と好ゲーム。
観戦中の歌川広重の瞬間を切り取る作画能力。
軽業師のクロスプレイでの秘技とんぼ返り。空中戦の設定が活きた。
試合中に爆発。
第二幕「下田包囲網編」
珍プレー
歌川広重が試合中のスケッチに黒い影(地獄組)が写っていると主水に説明。(えっ 念写?)
そうか地獄組は火の明るさに弱い! 考えたズラね。
地獄組の首領 鉄眼は両腕両足をロケットパンチに置換した殺人サイボーグであった。(えっ?)
それじゃ鉄眼は歩けないじゃん。(おみこしワッショイで移動する)
蛾次郎爆発四散!!
ビーム。(えっ ビーム?)(はい、ビームです)(そうか)
つまりラピュタの雷、インドラの矢なら仕方がないな(寺田農の怪演)
好プレー
佐渡金山警備、暗闇での戦闘を得意とする地獄組の設定。(デーゲームに来た)
設定を活かして夜襲をかける地獄組と懸命に応戦するサムライジャパンの雄姿。
検討むなしく散っていくサムライジャパンの儚さ。
ゲスト仕事人(宍戸錠)のダブル十手クロス。
佐渡金山の暗闇に浮かぶ死体の山。
ロケットパンチ。
ロケットパンチキック。
義眼ビーム。
第三幕「大老殺し編」
珍プレー
大老が殺されたんですって~怖いわねーとか噂する義母と嫁。
それはそうとハマグリ汁を啜る昼行燈。
あれっ 鉄眼は?
好プレー
呼べばすぐ来るカンパとキーノ。
鉄眼すぐ去る。(ビームとロケットパンチの使い手が幕末に解き放たれたぞ)
なぜかやたら松下村塾や橋本佐内や勝と面識を得る主水。
当時の記録映像を利用したと思われるドキュメンタリックな作風。
未来へ
時代劇をテンプレチックだと思って見ていない君!時代劇業界は独自性を生み出すためのわけのわからない題材とこれまでにないような演出と新規流入が全くない環境という蟲毒のような進化をしていることを忘れてはならない。
本作も個人レベルでは友好関係であってもマクロ経済の渦に翻弄されていく市井の人々の交流が描かれている。しかし、そのような時代にあってもスポーツによる親睦は存在したのだ。尊いではないか。
純エンタメはここにある。見よう!
#時代劇 #必殺仕事人 #コンテンツ会議 #ドラマ #珍プレー好プレー #江夏豊 #ロケットパンチ #ナックルボンバー #目からビーム #義眼光線 #原子分解 #草野球 #モキュメンタリー #史実 #桜田門外の変