不安で不穏な不謹慎コメディ『パラサイト 半地下の家族』（2019年の映画）
よく来たな。お望月さんだよ。
年末の先行に行こうとして失敗し、三連休に最速で見に行こうとして（満席で）叶わなかった『パラサイト 半地下の家族』を連休明けにやっと見てきたのよ。
本作の劇場ポスターはあえて実際の間取りを無視した展開図で全要素を網羅しようとしている力作だと思う。
この映画は、ポスターが出た時点で「見るやつ」と決めていたので事前情報をなるべくカットしてから挑んですが、期待に応える出来であり「笑っていいのか分からない」場面が連発される非常に洗練された胡乱でした。
ポスターの時点で不穏な空気しかなかったけど、本作は予想を超える不謹慎な笑いに満ちた怪作でホームドラマ、館ミステリー、サスペンスホラー、シチュエーションコメディ、チーム犯罪、社会派ラブストーリー様々なジャンルを飲み込む死の排水溝（エンターテインメント）であった。
あらすじ
位置エネルギーがトイレより低い「半地下家屋」で暮らす無職のキム一家は長男が金持ちが家庭教師の職にありついたことをきっかけに金持ちからの給料を奪い去る「寄生虫（パラサイト）計画」を実行に移す。しかし、著名な建築家が設計した豪邸には人知れない機構が隠されており、キム一家は別の「寄生虫」に遭遇してしまう。
見どころ
本作は過剰なまでの貧富格差という朝鮮独特の文化を描いているにも拘わらず、物語性が強固で見るものを選ばないストーリーになっている。
格差はシームレスではなく断絶されており、急坂や階段が多いソウルならではの都市風景が視覚的にそれを押し付けてくる。さらに「階段を上り下りする」「誰かがフレームアウトすると誰かがフレームインしてくる」といった画面作りも見事なものだ。
中盤のクライマックス、豪雨の中、豪邸から自宅までみじめに帰宅するシーン。なにしろトイレより位置エネルギーが低い半地下ハウスなもんだからトイレからあふれ出たアレが家中に満ちる状態で各々が大切なものを持ちだす凄まじいシーンは本作の白眉だろう。各々が何を手に取ったのかをよく覚えておいてください。
高性能なパラサイト家族達
それはさておき、半地下でくすぶって（消毒されて）いるパラサイト家族だが無能ではない。息子は受験を繰り返した実戦受験術の達人、娘はフォトショップを操る美術家の卵、父親は貫録を備えた楽天的な詐欺師、母はハンマー投げのメダリスト。
それぞれの能力を発揮して金持ち家族に取り入る前半のチーム犯罪の連携は見事なもので次々と罠にはまる金持ち家族の醜態に失笑しながら楽しめる痛快な場面となっている。
だが、どれだけ高性能なキャラでも、韓国ではコネ以外の就職手段はない。
しかも、パラサイト家族は失点らしい失点をしない。メール送信の凡ミスや技能不足はなく（間違えて添付ファイルを送っちゃった！みたいなアホなことはやらかさない）適切に職務をこなす。次第に彼らは上流階級へ仲間入りしたようなしたり顔へ変貌していく。
だが中盤、パラサイト家族全員が金持ちハウスに集ったときに異変が発生する。「臭う」のだ。肉体に、衣服に、性根に、染みついた貧乏の匂い。湿った切り干し大根のような雑巾のような性根の腐った匂いが臨界点を超えて浸みだした。
この匂いによって、パラサイト家族は己の立場を知ることになる。どれだけ賢く金持ちを騙しても、半地下からは決して乗り越えることのできないガラスの天井があるということを。
この辺については、DD弾さんの感想に非常に分かりやすく論点がまとまっているのでご確認ください（鑑賞後推奨）
もう一つのパラノイア家族
さて、ここで異変が発生する。これまで断片的に語られてきた豪邸の怪談が現実味を帯びて彼らに迫ってくるのである。「不規則に点滅するセンサーライト、階段の幽霊、消える食材……」そう、この物語は館モノミステリーなのだ。
全て館に棲む寄生虫の仕業である。彼らは恐ろしい事実を目の当たりにする。寄生虫の奇行に爆笑しながら怯えていくことになる。
以降は後半の壮絶な展開が発生するので是非劇場でご覧ください。
エンドロールの「パラサイト家族のうた」があってよかった。5億点！！
未来へ
あとは劇場で記した断片的なメモを残しておきます。
映画『パラサイト 半地下の家族』
— お望月さん (@ubmzh) January 14, 2020
全員笑う○○○○○○○○○○○○○ですが、私は○○○○○○○○和やかな口調も聞きたかったな。あれ好きなんだよ。
https://t.co/N8lkttHKcp
「山水景石」「地下＞半地下＞高台の家族」「バーベキュー、ナイスクッキング！」「リスペクト！」「肉入りAIセンサーライト」「計画はある！」「受験のプロ、ローニンリーグ」「石を乗せて眠るのはムーたちのパクり」「怒りの揮発」「リスペクト！」「におい」「家にとって住民は代替可能な要素」「誰かが出ていくと入ってくる構図」「なりすましコメディ」「これマインクラフトでやったことある」「この家には幽霊が出る！」「チキン店→餓死、パンケーキ店→餓死、無職→餓死」「弱キック」「下人の行方は誰も知らない」「リスペクト！」「パラサイト家族のうた」
韓国では就職難のためチキン店かパンケーキ店を開業しないと餓死する。なお、コネ以外の就職手段はない。
いじょうです。
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