どすこいジャパンカップ(芝2000m/両国)(第1話)
全世界が注目する今年最後のG1レース。
「大相撲ジャパンカップ」
両国の街そのものを利用した世界最重量の市街地レースだ。
今年最も活躍した力士たちが集い最強を決めるワンデイレースは、大横綱大銀河ら主力が国際巡業に旅立ったという試練の1年間を支え続けた若手力士の次期エースを占う大切なレースになるだろう。
パドックに連なり、すり足を続ける力士達。予想のために肌つやを確認する観客や世話をする力士養成員達も真剣だ。
「ハーキュリーズからすごいと聞かされていたが……こんなものかジャパンのレースは」
観客らの間からとびぬけた長身で長髪金髪碧眼の男がつぶやく。さすがに養成員にとっては聞き捨てならない言葉だ。
「なんだと!?」
「相撲をなめるな!!」
「お、おまえは!!」
レスリング世界選手権16連覇。
ロシアの至宝、ロマノフ・シコルスキーだ!!
「フン。このメンツで世界最強なぞ聞いて飽きれる」
「なんだと!?」
「相撲をなめるな!!」
次々と十両や幕下が食い下がるがロマノフ・シコルスキーは意に介さず進み続ける。その数、6人、7人、8人!!
「コミッショナー! 私も出走者に加えなさい!」
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どすこいジャパンカップ(芝2000m/両国)
第1話「第1コーナー」
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出走力士
01. 泥土竜
02. 酸鼻
03. 穴昆蛇(あなこんだ)
04. 潮測(しおはかり)
05. 聴海(ちょうかい)
06. 模写櫓(もしゃやぐら)
07. 押井守(おしいのかみ)
08. 福の胆
09. 渡鴉(れいぶん)
10. 塩の海
11. 力魑(りっち)
12. 自我海(えごのうみ)
13. 久地裂袈(くちさけ)
14. 露出強(ろでつよし)
15. 円出(まるだし)
16. ロマノフ・シコルスキー(ろまのふ・しこるすきい)
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力士たちが出走ゲートに納まり開始を待つ。
ゲート脇の行司が力士達を制しつつレース開始までの時間を圧縮していく。
「制限時間イッパイ!」
「ミアッテ!!」
力士達の間に不可視の思念が伝わる。相撲に開始の合図はない。
それぞれの気が合一し、土俵上で一体化した時にこそ……
(思いっきり来い)(応)
スパーーーン!!
ゲートが開いた!!!
ズズズズズズズズ!!鳴り響くすり足!!
「真っ先に飛び出したのは……露出強(ろでつよし)!!!」
「まずいですな」
「というと?」
「露出強は類まれな才能を持つ力士ですが、悪癖がありましてな」
「……!」
「不浄負けの露出強!!勝ち越しを決めた途端に本性を表してカメラが最も集まる土俵上で」
「嗚呼!いけません!露出強がまわしを紐解かんとしています!」
はらりっ 宙を舞うまわし。虹のように尾を引いて流れる二筋の流星……二筋!!そう、二筋である。
「露出強の前に出る形で一気に加速をしたのは円出!!放送コードは守られ……」
「まずいですな」
「いけない! 円出も生まれたままの姿だ!!」
ズズズズズズズ。
力士群は第1コーナーに差し掛かる。これまで真横からとらえていたカメラアングルがコーナーリングを捕らえるために正面へ切り替わる。二人の露出狂はこのタイミングを狙っていた。「これが俺たちの山岳賞だ!!」レースの勝敗ではなく、己の欲望に固執する我の強さ。これが両力士を関取たらしめる原動力であろうとはなんという皮肉であろうか!!
しかし、三筋の流星。
長い金髪をなびかせたロマノフ・シコルスキーの全力疾走だ!!
「速い!速い!通常の力士ではありえない、前傾姿勢のスプリント」
「まずいですな」
「そうです、力士特有のすり足は地面の霊気を吸い上げダウンフォースを生み出す霊的ステップ。これをやめた場合、その速度に耐えられずコースアウトして……」
「まさか!」
「シコルスキーが身を挺して!」
「ロマノフ・シコルスキーの全力疾走! 後を追う二名の全裸力士もコーナリングを放棄!三筋の流星が第1コーナーの定点カメラへ吸い込まれていきます!」
ズズズズズズ!!
ズダダダズダダダ!!
ズダラッズダラッダララッダララッ!!
「右手!左手!長髪!はねた芝!砕けたアスファルトがことごとく露出強と円出の局部をふさいでいきます。ロマノフ・シコルスキーの恵まれた体格はこのために存在した!!」
「生まれたときの体重が6kgを超えていたそうです」
「ロマノフ・シコルスキーが第1コーナーを飛び越え、カメラに!!フライングクロスチョーーーップ!!!」
(ハーキュリーズ、お前の言う通り力士はすごいやつらだったよ……)
《ザザッ!ザザーーーーーー》
「おい!相撲を見せろよ!相撲を!!」
【残り13名】
【編集部からのお知らせ】
「相撲」+「ジャパンカップ」のネタがすでに公式で実行されていたことが判明いたしましたので本連載は掲載自粛の上、打ち切りとさせていただウワッ なんだ君達は!? グワーッ!よせ、話せばわかる! なに!?連載継続……? そんなバカなグワー!!!(つづく)
謝辞
本作品に登場する非実在力士達は読者投稿のオリジナル力士を再構成したものです。キャラクターや言動は本作独自のものでありオリジナル設定に影響を与えるものではなく、どのような狼藉も力士発案者に影響を及ぼしません。