【創作ノート】はじめまして
▶︎自己紹介の代わりに
心から尊敬するアニメーション作家・今 敏監督は、どれほど多忙な生活の中であっても、毎朝パソコンに向かい日々考えていることを書き綴っていたと、教えてもらったことがある。その文章の多くは書籍として刊行されているので、機会があれば是非読んでみてほしい。
そこに刻まれているのは、いまは亡き天才の叫びと悩み、そして、”創ること””生み出すこと”へと託す果てなき希望。つまりは、生命を削ってもなお絵を描き続け、数々の傑作を生み出した紛れもない歴史そのものなのだ。僕たちはその日記を読むことでまた、今 敏という傑物の想像力に触れて喜びを感じると同時に、今もなお(死してなお)走り続けるそのエネルギーにうなされる。
今監督の代表作のひとつ『千年女優』で語られる最後の台詞。今監督はかつて母校の武蔵野美術大学で講演した際に、この言葉に自分自身と美大生たちの姿を重ね、「つくり続けること」の大切さと面白さを語っている。次の作品を追いかける、創作そのものを追いかける、夢を追いかける。そして、そんな私を好きになる。その原動力は、かのチャップリンが「最高傑作は次回作」と宣言することで自らを奮い立たせて駆動し、追い立てられ、映画史を築き上げてきた覚悟をも感じさせる。
夢を抱くだけではいけないのだ。夢を追い続け、夢と現実が分かち難くなるほどに没頭しろと、今監督に教えてもらった気がする。その傑作に描かれた虚実混交の世界観には、日記に書き記されたような今監督がまさに生き抜いた格闘の日々が反映されているのではないか。もがく。戦う。そして描く。それこそが”創作”という魔物との向き合いかたなのではないか。
先月とうとう僕は三十歳になった。なってしまった。今日でちょうど1ヶ月。ずっとなにかを始めようと思っていたのだけれど…などと言い訳がましく文章を綴っていると、そういうところだぞ、という注釈ともツッコミとも野次ともつかぬ声が聞こえてくる気がするなあ。まあでも、「そういうところ」なのだ。
でも今日は、「天赦日」に「一粒万倍日」そして「寅の日」が重なり、なにやらスーパー縁起のいい日らしいではないか!”なにかを始める最適の日”という触れ込みを信じ、この日を待っていましたと、人生最後の嘘と取り繕いを許してほしい。
「なにかをつくりたい」と想い続けて生きてきた三十年だった。いつの間にか流れ過ぎていった過去をふと振り返ると、それは「失われた三十年」となっていた。もう蹲るのはやめよう。立ち止まるのはおしまいにしよう。
『論語』をこれみよがしに借りれば「三十にして立つ」。
占いに詳しい先輩曰く「今後五年間が勝負」とか。
そんなこんなで、「創作」と格闘しようと決めた。
立ち止まらないように、走り続けられるように。
今監督に祈り、僕も日々の言葉を綴ってみようと思う。
小説や脚本、映画の感想。
いろいろと書いていきます、考えていきます。
よろしくお願いいたします。
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サムネイルはスペイン・マドリードにて。
崇拝するアンリ・カルティエ=ブレッソンの「決定的瞬間(Image à la sauvette)」を夢見る存在として。