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『EGOIST』
本稿は2024年10月31日に発売されたNEO JAPONISM(以下「ネオジャポ」)のフルアルバム『EGOIST』の感想をまとめたものである。
1. 総評
『EGOIST』は前作『JAPONISM』(2022年9月14日発売)以来、約2年ぶりとなるネオジャポのオリジナルアルバムだ。
全14曲54分で価格は3,000円。前作『JAPONISM』の9曲39分(2,500円)と比べて、かなりボリュームが増えた。内容は既存曲が5曲で新曲が9曲だ(新曲にはアルバム発表前に音源化もMV化もされていなかった「ファンファーレ」を含む)。
一聴して、グループコンセプトを綺麗になぞっているアルバムだと感じた。前半10曲の共に闘うイメージから後半4曲の闘う人への応援歌的な楽曲へと変化していく展開が自然で良い。サブスクを使って1曲単位で聴く音楽体験が主流となっている現代で、アルバム全体の流れを意識して作られている点に好感が持てる。その意味で、TikTokで大々的なキャンペーンを張ってまで売り出した「WASABI WASABI」や、すしざんまいとのコラボが記憶に新しい「KOTOBUKI」といったバズ狙いのネタ曲をラインナップから外したのは英断だと思った。
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肝心の内容だが、現体制5周年記念ワンマン(2024年12月14日@日比谷野外音楽堂)を念頭に置いたアルバムと標榜するだけあって、現段階まで積み上げてきたブランドイメージと各メンバーの歌唱スキルの全てを詰め込んだ集大成にふさわしい内容だった。
ブランドイメージについて言えば、例えば「Crazy Actor」や「Howl Out」といった楽曲は必ずしも大衆受けする曲ではないと思うが、それだけにエッジの効いたカウンター感があって聴いていて楽しい。「分かる人には分かる感」とでも言うべきか、熱心なファンはこのグループを応援している誇りのようなものを感じることができると思う。
前作から2年が経過して、各メンバーの歌唱スキルの向上が見て取れる点も本作の特徴だ。中でも朝倉あいさんと瀬戸みるかさんの伸びが著しい。朝倉さんは、ラップをはじめとする多様な歌い方を披露しつつも、一声で彼女と分かる芯のようなものができてきたと思う。ベイビーでコケティッシュという相反する特徴を併せ持つズルい声質の瀬戸さんは、これまで飛び道具的に楽曲の要所を彩ってきたが、安定感が増したと判断されたのか、歌い出しをはじめとして楽曲によっては主役級の活躍を見せるようになった。
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以下、個別楽曲ごとの感想を収録曲順に記す。
2. 全曲レビュー
(1) Blaaaaaze!!
アルバムの1曲目を飾るのにふさわしい疾走感のあるハードロックだ。イントロ、間奏、アウトロを飾る高速・高音でメタリックなギターが耳目を惹く。初の歌い出しを担当した瀬戸さんの静かに燃えるような歌声、そしてサビの福田さんの高音から台詞のような「会心の一撃」との落差が胸に響く。
『EGOIST』にはボーカルエフェクトが重要なカギとなっている楽曲がいくつかある。ネオジャポのライブには対バンやリリイベを含めて、専属のPA(田川詞也 氏)が帯同していることが多い。彼のオペレーションによってパフォーマンスがより精緻に見えることが多く、ファンも絶大な信頼を寄せている。この楽曲の音がライブでどう表現されるかも注目点の一つだ。
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(2) Crazy Actor
説得力のあるボーカルリレーが素晴らしい。各メンバーの声質とボーカルスタイルを踏まえて精緻にディレクションされているのがよく分かる。特筆すべきはサビの辰巳さんの安定感だろう。オーソドックスな歌い方を突き詰めて行くとメタルに近いロックヴォーカルになるのかもしれない、、、そう思わせるほど興味深い歌声だ。また、全メンバーが高音を出せるからこそ成立する曲でもある。アイドル界でもネオジャポにしか表現できない曲調で聴き応えがある一曲だ。
オケの中ではギターソロが面白い。最近のアイドル曲でギターソロが入っているのは珍しいが、そのギターが滝沢さんの歌声に重なっているので、さらに希少な音に仕上がっている。振り付けでどう表現されるのか楽しみでもある。
(3) Show Case
個人的に本作の中で最も好きな楽曲。イントロと歌詞に散りばめられたワードを拾っていくだけでストーリーを感じることができる。ゴシック調というかビジュアル調というかアニメ調というか、、、誤解を恐れずに言えば腐女子にウケそうな曲調だ。
ヴォーカルの中では、瀬戸さんの声質がこの楽曲にジャストフィットしていて素敵だ。コスプレ等の彼女の普段の課外活動の経験がパフォーマンスにも活きているように感じる。
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(4) BLACK and WHITE
既存曲。披露される頻度はそう多くないが、闘うイメージを体現しているから今回のアルバムに入ったのかもしれない。
音的にはミックスを変えたのかもしれない。そう思わせるほど、オケがパワーアップした印象を受ける。中でもベースとギター、シンセが以前よりビビットに聴こえるのが嬉しい。
楽曲展開的にはヘヴィなサウンドが一瞬ブレイクする落ちサビの導入部、転調するラスサビのユニゾン、そこからラストのタイトルコールのシャウトが聴きどころ。ライブではアウトロの激しいダンスも見どころだ。
(5) BLACK JAM
既存曲。こちらも披露される頻度はそう多くない。本作(特に前半の楽曲群)からは、聴いていてネオジャポの多くの衣装に採用されている赤黒のイメージが浮かんでくる。グループのヴィジュアルと楽曲が戦略的にフィットしている証拠でもあると思う。
辰巳さんの伸びやかな声を楽しむならこの楽曲が適している。朝倉さんの低いコーラスとの相性も抜群に良い。
(6) Howl out
既存曲。ギターのアタックが強くなっている気がする。ディストーションのみならずクリアトーンについてもそう感じる。土台を支えつつ要所要所で適度に主張するベースも叙情的で素敵だ。
最近のライブ(特に単独)はヴォーカルにフォーカスした音出しをしていると感じている。もしかしたらファンがスマホで録画する(そしてネット上にアップする)際の音質まで計算されて出されているのかもしれない。
一方で、本作はシンプルな楽器編成の楽曲が多いものの、オケを聴かせることにも力を入れているように思える。自宅等でオケをも意識して楽曲を聴くことは、ライブハウスで音を聴くのとはまた異なる音楽体験として非常にエキサイティングだ。
ライブでは滝沢さんが絶妙なタイミングで被るフード芸も見どころ。ノーハンドでフードを被っている。自宅で練習しているのだろうか?
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(7) FLAGS
アタック強めな曲が続いたのでそろそろ一休みが欲しい、そう感じ始めたところに登場したのがこの曲のイントロ。アルバムを通して聴くことを意識して作っているは素晴らしい。アルバムを通して聴きたいと思えるから。。。
ストリングスが異色感を醸し出しているこの曲は、唐突なブレイクを挟んでプログレのように進行するドラマティックな展開が魅力だ。この曲を聴いただけでも、ネオジャポがアイドルらしからぬ表現をしていることが分かる。これまでのライブでイントロや間奏にダンスパートを差し込んできた(「特殊イントロ」や「特殊間奏」と呼ばれている)彼女たちなら、この曲も難なくパフォーマンスで魅せることができるだろう。そういう期待感が募る一曲だ。
歌唱では福田さんが目立っている。彼女は以前に比べて感情を緩急で表現するのが上手になったと思う。
(8) Molecule
日本語で「分子」を意味するMoleculeのタイトルが付けられたこの曲は、歌唱表現的な聴きどころが多い曲だ。辰巳さんの地声とファルセットの往復、最近目立ってきたひなみる(滝沢&瀬戸)のコンビネーション、朝倉さんのまろやかでカワイイ歌声と随所に必聴ポイントが散りばめられている。
また、今回のアルバムは特徴的な間奏が多い。先に述べた通り、パフォーマンスにヴォーカスレスな時間を入れても成立するという確信があるのだろう。ネオジャポの振り付けはそのほとんどをコレオグラファーとしても活動する辰巳さんが作っている。彼女が作る振り付けとメンバーのダンススキルへの信頼が楽曲からも見てとれる。
(9) BABYLON
既存曲。ストリングスの存在感と説得力が増している印象。ハードロック&ゴシックの世界観が面白く、ブレイクが印象的な曲でもある。
「バビロンシステム」とは資本主義の弱肉強食の世界観を指すようだ。繰り返されるこのキャッチーなワードとアウトロの機械的で不気味な音色との邂逅にニヤリとする曲でもある。
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(10) Silver Scales
前作に収録されている「Symphony」のような印象を受ける曲。そう言えばネオジャポはインダストリアルみのある機械音も得意だったな、ということを思い出させてくれるイントロが心地よく、福田さんが楽曲の終わりにもたらすカタルシスが素晴らしい。
ストリングスとコーラス、ギターソロが広大な広がりを感じさせてくれる曲でもある。現在のネオジャポのファン層は30代男性が中心だ。彼らが青春時代に聴いていたと思われる洋楽のオルタナティブ・ロックの匂いを感じる曲が、本作には複数収録されている。
(11) Luv Duv
既存曲。この夏を彩ったタオル曲がこのタイミングで登場。タオル曲の割に時に激しく踊るシーンがライブでは見どころとなっている。
MVはあるもののサブスクが公開されていなかったネオジャポにしては珍しいパターンの打ちだしでもあった。このMVには昨秋の全米ツアーの様子がロードムーヴィー風の筆致で収められている。全米ツアーを経て最も成長したのが滝沢さんだと思う。フロアとのコミュニケーションについて一皮むけ、アウェーの状況でも確実に盛り上げられるようになった。特に「rewind the story」で隙あらばフロアに降臨する様子は、今や名物となっている。
アルバムとしては、この曲以降は闘う人への応援歌にシフトチェンジしている。ネオジャポからあなたへのメッセージとでも言うように。
(12) きづいて
滝沢曲(彼女が作詞作曲を担当)。3曲目にして編曲を担当するサウンドチームとの相互理解がさらに進んでいる印象を受けた。「灰の花」、「〜のだ」、「つらいつらい」等の平易ながら柔らかみのある彼女独特のワードセンスが光っている。
全体的に滝沢ソロと言ってもいいくらい滝沢パートが多く滝沢節であふれている。彼女はギターで作曲するようだが、おそらく一人で歌う意識で曲を作っているのだろう。いつか自作曲のソロ公演も聴いてみたい。そう思わせるほどの作品だ。また、本作を聴くと滝沢さんの主人公感に磨きがかかっているのが分かる。ライブでは歌詞をなぞるような振り付けも見どころ。
(13) ファンファーレ
「2024tvk高校野球ニューステーマソング」という絶妙なタイアップを得ながらも、なぜか夏の間封印されていた楽曲(10月13日のふくだみ生誕2024にて初披露された)。「ボール」、「グランドの歓声」等の高校野球の応援歌っぽいワードがこのアルバムの中でも異色。辰巳さんのストレートな歌声と最近のネオにしては珍しいラスサビの長い5人ユニゾンが爽やかだ。
なお、ネオジャポはダンスプラクティス動画の公開にも力を入れている。この曲のダンプラも公開されているが、見ると、一糸乱れぬ連携に加えて、彼女たちが楽曲の感情を動きのみで表現することにも長けていることが分かる。
(14) All of us
日常を一生懸命生きる人々へ贈る応援歌。ライブの締め曲がもう一つ増えた印象だ。5人のユニゾンのサビから入る曲は珍しい。
ポップなメロディーラインが小春日和の陽光のように爽やかで温かく、ストレートなメッセージが心地よい。とは言え、オケではリズム隊(特にベース)の重低音が胸に響き、2Aの朝倉さんのまろやかな歌い方との対比が麗しい。
また、共に闘うハードロックから入って応援歌的ポップスで締める本作の展開が今後のネオジャポの活動の方向性を示唆しているように思えて興味深い。
3. 最後に
先日公開されたスポニチのソロインタビューで辰巳さんは本作について「“前衛的”な楽曲ばかり」収録されていると語っていた。事実、『EGOIST』には、ネオジャポの代名詞であるハードロックをはじめとしてゴシック調やポップス調などバラエティに富んだ楽曲が違和感なく一枚に収められている。これら様々な曲調を一つのアルバムに詰め込んだサウンドチームとネオジャポの色を付けてパフォーマンスするメンバー5人及びプロデューサーの手腕が光るアルバムだ。誰しも、聴けば1つくらい好きな曲を見つけられるのではないだろうか?
そして、繰り返しになるが、今回のアルバムは現時点で出来ることの全てを詰め込んだ到達点的な内容だと感じる。
一方でそれは、彼女たちが公言している「武道館に立つ」という目標を叶えるために近い将来の何がしかの変化を示唆しているような気がする。
武道館をライブで使用する場合のキャパは8,000人から10,000人と言われている。現体制5周年を記念した日比谷野外音楽堂のワンマンライブのチケット販売目標が2,500人だったことを考えると、少なくともその3~4倍の動員が必要となる。ライブアイドルファンを対象とした地道なライブ活動だけで集客するのは難しいと言えるだろう。もっと大衆にリーチする打ち手が必要だ。
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この先、ネオジャポの運営陣が「武道館に立つ」という目標に向けてどのような手を打ってくるかは分からないが、本作を聴く限り、メジャー・デビューによる楽曲の大衆化(=多くの人に受け容れられる楽曲をリリースすること)とプロモーションの多様化・大規模化が選択肢に入っているのではないのか?と思われる。
メジャーから作品を発表する場合、本作のような粗削りで刺激にあふれる作品は作りにくくなると予想されるが、より多くのファンを獲得するためには有効な一手ではある。ただ、メジャー化によってカウンターカルチャー的な面白さが減って既存のファンが離れるリスクもあるので、尖った部分と大衆受けする部分をどう混ぜて表現していくのか、そのさじ加減が肝となる。ネオジャポの面白さの大半が従来のアイドル像から少し離れた部分にあると思われるので、難しいかじ取りを迫られるだろう。
ネオジャポがこの先どのようなストーリーを描き、それを音楽を通じてどう表現していくのか。今後の展開を期待しながら見守りたい。
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