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伊藤詩乃ピアノリサイタル vol.8
2025年1月28日は「伊藤詩乃ピアノリサイタル vol.8」で初訪問となるSHIBUYA HALL&STUDIOに行ってきた。
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このホールは渋谷駅近の雑居ビルの5階にある。最大40席の小箱ながらブラウンを基調としたシックな内装で、前後の座席間隔がややゆったりめにとられていたため、居心地が良かった。ホール前にお洒落なホワイエがあったのもポイントが高い。音響設備が整っており、ピアノや会話の音が想定を超えるレベルで良く響いていたのも特徴と言えるだろう。
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定刻になると詩乃ちゃんが入場してくる。一礼して着席し、優雅に構えた。
今回のリサイタルはガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」からスタート。この曲は彼女が敬愛する清塚(信也)さんも折に触れて演奏会等で披露している。ジャズとクラシックを融合させた“シンフォニックジャズ”と呼ばれる分野の楽曲だ。
今回の相棒はファツィオリ社のF212というグランドピアノだった。初めて目にした機種だが、信じられないことに、この曲の冒頭ではややノイズが混じった電子ピアノのような聴こえ方をしたのが面白かった。そして音色から判断するに、ピアノの個体が若い気がした。このホールは2018年11月にオープンした比較的新しい施設のようなので、設置されている機材も新しいのかもしれない。
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詩乃ちゃんの「ラプソディ・イン・ブルー」はエレガントなホールに適合した爽やかで時に強度を感じる弾き方だった。この曲に関して言えば、会場の鳴りの効果で強さを伴って聴こえた可能性もある。
最初のMCでは先日の年越しのエピソードが披露された。何でも実家でTV番組の『おもしろ荘』を見ていて、年越し5分前にクラシック番組に切り替え、年を越したらまた『おもしろ荘』の視聴に戻ったそうだ。変わった視聴行動だが、年越しの瞬間だけは音楽家として迎えたかったのだろう。
彼女によると、この「ラプソディ・イン・ブルー」は年末年始のクラシック番組でよく目にする楽曲なので採用したとのこと。ファンと新年を祝いたかったようだ。
そう、今回のリサイタルだが、約1ヶ月ぶりにファンに会ったせいか、詩乃ちゃんはイベントを通じて終始にこにこしていた。その様子を見ていて思わず「これだけ幸せそうなら演奏の品質など何でもいいや」と思ったほどだ。騙されてはいけない。。。
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続いてはアイドル曲のブロック。乃木坂46の楽曲から「ガールズルール」と「サヨナラの意味」の2曲が披露された。
「ガールズルール」はサビのシームレスなベース音と黒鍵で奏でるメロディとの対比が綺麗な演奏だった。
「サヨナラの意味」はF212のフレッシュな音色と詩乃ちゃんが奏でる歌うようなメロディがマッチしていた。この楽曲は乃木坂46がミリオンヒットを連発していた2016年に発表された曲のようだ。アイドルファン以外にも広く知られた曲で、TVが絶大な影響力を持っていたのはこの頃までかもしれないなぁ、などと思いながら聴いていた。
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次はお馴染みの詩乃作曲ブロック。3回連続の登板となる「眠らない景色」と新曲「包まれたベール」の2曲。
リサイタルの冒頭から若干浮足立っていた詩乃ちゃんも、この「眠らない景色」に入って完全に落ち着いた。おそらく会場の雰囲気やピアノの個体に慣れてきたのだろう。具体的には、導入部の高音もさることながら、中盤の穏やかに緩やかに語りかけるような弾き方が良かった。余韻の音色や音量、長さも申し分もなく、この日一番の出来だと感じた。
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新曲「包まれたベール」についてはMCで曲想を紹介してくれた。
「とにかく環境に馴染む、一生懸命頑張って(アンスリュームに)着いて行く」という昨年の状態を省みて、「自分がやりたいこと追求する、自分の殻を破る」を今年の抱負に据えて作った決意の曲とのこと。とは言え、実際には「ほわほわした感じで、マイペースな部分が丸見えの」曲になったと自己評価していた。
個人的には「包まれたベール」というタイトルが面白く、終演後の特典会で「ベールを包み紙で包んでるの?」と尋ねると、「ベールを破るとまたベールが現れる」というイメージのようで、詩乃ちゃんがまだ表現していない彼女自身の深い心の裡を表した曲のようだ。意外に真っ当な意味があったのだ。。。
曲を聴いた印象を述べると、序盤は童謡のような古風なメロディを優しく弾き、中盤では力強さを感じることができた。マイペースでおっとりしているが、主張すべき点は譲らずに主張する“隠れ頑固”な性格。そして、精神的に子供から大人へと成長する過程が描かれているようでもあった。
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本編最後は所属するアンスリュームから、昨年9月の生誕祭でも披露された「メランコリー」のピアノカバー。
昨年の生誕祭では電子ピアノを容赦なくピアノ弾きする姿が印象に残っていた。満を持して相棒にグランドピアノを迎えた今回はさらに派手に鍵盤を叩くのかと思いきや、逆に柔らかな弾き方だった。ベースラインとメロディがシンクロする瞬間の音色が麗しく、ラスサビできっちりと盛り上げて本編を終える構成も良かった。
蛇足を承知でこの曲について1つ付け加えておこう。今に至るまで最も記憶に残っている「メランコリー」は、2021年1月16日に沖縄のライブハウス「Output」で見た4人体制時代のこの曲だ(ちなみに、その時は月埜さんを欠く3人でのパフォーマンスだった)。
4年の時を経て全く異なる場所で全く異なる文脈でしかもボーカルのないこの曲に向き合っているのに、今でもアロハを着た閻魔ちゃんの姿が頭に浮かんできたので、聴きながら“楽曲に結び付いた記憶というのは不思議なものだ”と考えた。
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アンコールは同じくアンスリュームから人気曲「チャイティーラテ」のピアノカバー。本人によると、飽きないアレンジにするのが「思っていたよりも難しかった」と。特に「下のベース」を変化させることに気を配ったようだ。少なからずこの曲を聞き込んでいる者の視点で述べると、絢爛なイントロと溜めずにあっさりと入る落ちサビが面白く、歌詞で言えばサビの「気づいてずっと」と「何度もずっと」の部分を強調する詩乃解釈の「チャイティーラテ」が新鮮だと感じた。
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さて、アンスリュームの伊藤詩乃としてピアノリサイタルを開催するのも今回で4回目となった。ポップスのブロックにアイドル曲を採用したことで、この肩書を背負ってのプログラムも限りなく完成に近づいたようだ。
次回のリサイタルは来月。3月2日に所属するアンスリュームが再始動するため、3月以降のピアニストとしての活動は白紙らしい。注目される休止前最後のリサイタルでは何を魅せてくれるのだろうか?現在の客層に合わせてvol.8の延長線上を走るのか、それとも将来のピアニスト活動を念頭に置いて新機軸を打ち出すのか。注目のリサイタルは2025年2月26日、場所を再び松濤サロンに移して開催されるとのことだ。
私も決して無理をせず時間に余裕があればゆるく脱力した状態でのんびりほっこりと参加したいと考えている。