【書評】『続々聞き出す力』
『続々聞き出す力』はプロインタビュアーの吉田豪がインタビューの「極意」についてまとめた本。シリーズ3作目だ。各項のタイトルがそのまま極意になっていて、その極意に芸能人をインタビューした際のエピソードがぶら下がっている。学びを得ると同時に飽きずにスイスイと読むことができるので面白い。
特に印象に残った項は3つだ。
まずは冒頭の其の一。極意が「危なっかしい相手とは付かず離れずの距離感を保ちつつ寛大な心を持って接するべし!」なのに、ぶら下がっている挿話が後藤まりこにガッツリと関わってまあまあ酷い目にあった話。「寛大な心を持って」接した経験なのは間違いないが、自ら極意を逸脱した話題から本書をはじめているのが何とも上手い。否応なく本書の世界にグッと引き込まれる。
最も記憶に残ったのは、其の二十三。「インタビュアーは右も左も善も悪も、全てを飲み込み腹を括って笑いに変える度量を持つべし!」という項だ。著者がなぜ軽い感じの「ふざけたスタンス」を崩さないのか、そう考えるに至った原初体験とも言うべきエピソードが書かれている。この項ほど明確ではないが、本書の各項からは著者の仕事への向き合い方が読み取れる。無料のウェブ情報だけ追っていると謎のベールに包まれているように見える著者の人物像が、立体的に見えてくるのも彼の著作の興味深いところだろう。
最終項(其の四十三)で「「心を道具に仕事をする」ことについての危険性」を指摘しているのも本書の長所だ。どんな仕事でもそうだが、時代が下るにつれて精神的な負担が増えているように思える。対人サービスを業としている職種はなおさらそうだろう。
これは、衣食住をはじめとして物質的に満たされつつある現代社会の不可逆的な変化だと思う。おそらく現代社会はより高次な欲求(マズローの欲求階層説で言う承認欲求→自己実現欲求の領域)を満たす方向にシフトしており、この先、対人サービスはますます精神を削りながら従事する感情労働の割合が増えてくる気がしている。人々に心の余裕という意味での遊びがなくなって、感情の交換にさえ市場性と高い費用対効果が求められる。それが人が求めた人としての幸せなのか?と問われれば多分違うと思うが、一度高次な欲求を満たす快楽を知ってしまった以上、もう昔には戻れないと思う。
従って、人々の(特に承認)欲求がますますエスカレートするこの時代に、他人の欲求を満たすサービスを提供するにあたって「心を道具に仕事をする」ことの危険性は、常に頭の隅に留めておきたいものだ。いざとなったらすべてを投げ出してでも自分を守るために。そして、そういう危険な生き方をしている人にせめて声がけだけでもできるように。
なぜ本書が2021年3月に出版された割に少し古めの話題で構成されているのかについても「あとがき」にほのめかされている。読み進める過程で疑問に思っていたことなので、その疑問を解消することができ、すっきりと読書体験を終えることができるのも本書の美点だ。
全部で43の極意があり極意に触れるだけでも何かを得た気になるし、本文にも具体例から抽出されたエッヂの効いた金言が散りばめられているので、読むと何らかの学びがある。ウェブに載らないような各芸能人のアウトなエピソードを眺めてるだけでも面白い。