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伊藤演

アイドルの生誕祭というのは、主にそのアイドル個人もしくはそのアイドルが所属しているグループを推しているファンが集うイベントです。

あまりライブに参加したことがないアイドルの生誕祭に行くのは、観客の立場で考えると敷居が高くて気が引ける。。。だからこそ、かつて彼女が所属していた前体制のMalcolm Mask McLarenでは、毎月開催している定期公演と同じ扱い(副題のみ生誕祭と銘打たれていた)にして、ステージ上での特別な演出もほぼ作らなかったのでしょう。初心者でも参加しやすいように、と。私はこの考え方をとてもよく理解できます。

しかし、アイドル側の視点で見ると、生誕祭は所属グループのワンマンとは違った意味でのハレの舞台であり、個人にスポットライトが当たる最高の瞬間でもあります。アイドルという職業を選んだ以上、自分のためだけに用意された演出のあるステージは、絶対に経験しておきたいイベントなのかもしれません。
綺麗にセットされた髪型で、ピアノの鍵盤があしらわれた生誕祭限定の衣装を着て、ステージ上で泣いたり笑ったり忙しそうにしながらパフォーマンスするこの日の詩乃ちゃんを観て、強くそう感じました。

フライヤー(アンスリューム公式Xより転載)

2024年9月8日の昼帯はアンスリュームの伊藤詩乃生誕祭『伊藤演~いとおしい伊藤詩乃~』でWOMBLIVEでした。
詩乃ちゃんがアンスリュームに加入してから初めての生誕祭は、彼女が経験する初の本格的な生誕祭でもありました。この日はそんな意味を持つイベントでしたが、用意されたプログラムの中でも特に記憶に残ったのは、生誕ソロコーナーと最後のブロックでした。

生誕ソロコーナーは生誕ソロ曲とピアノカバーの2曲構成でした。
彼女のために書き下ろされた生誕ソロ曲の「dearラブソング」は、伝統的なソロアイドル像を投影したノスタルジックでキュートな楽曲でした。
ビジュアルはかわいく、性格は少し不器用だけど、距離が近くて親しみやすい。ファンを大事にするプロ意識とちょっぴり嫉妬深い感情を合わせ持つ等身大の女の子。。。歌詞のペルソナは外から見る彼女の人物像とも重なります。
そして何より、テクニカル的には彼女のパフォーマンスの特徴にジャストフィットした楽曲でした。「なるほど!この手があったか!」と大いに膝を打って、サビの可愛らしいアイドルステップを熱心に眺めていました。
この楽曲は生誕祭の時の映像が当てられて、アンスリュームの公式YouTubeで即日公開されました。「埃かぶったピアノ」というフレーズが耳に残って心地よいです。

彼女の代名詞と言えば特技のピアノです。Rolandの「RD-700GX」を相棒に迎えて独奏されたのは、アンスリュームの初期からの持ち歌「メランコリー」でした。ポップかつエモい曲で、私が個人的に好きな楽曲でもあります。この曲のピアノカバーを弾くことで、アンスリュームのファンに彼女のピアノの実力を知らしめることができたのではないでしょうか。良い選曲でした。

この700GXはピアノの音色の再現に特色がある機種です。とはいえ、キーボードとしてではなく容赦なくピアノ扱いして弾いていたのが面白かった。この機種であの弾き方をすると、彼女が持つポテンシャルの全てを表現できないのではないか?というのが素人的な感想でした。(機材が彼女の実力に見合ってなかったという意味で)少し勿体なかった。よく手入れされたグランドピアノでこの「メランコリー」が弾かれていたら、フロアの感情を完璧に支配するほどのもっと素晴らしい音色になっただろうとも感じました。おそらく私が贅沢すぎるのでしょう。

ファン有志による献花

最後のブロックも記憶に残りました。途中に「口下手ナイトメール」を挟んだものの、「恋のお注射」、「でんぱはっく・れでぃお」、「にゅーかおすっ!!!!!!!」等の沸き曲をふんだんに詰め込んだ怒涛の展開でフロアを魅了してくれたからです。

終演後に(というより直後に開催された別の現場で)数人のファンとこの伊藤演について話したのですが、私をはじめとして、この最後のブロックの満足度が高かったようです。現体制のアンスの最大の長所は、7人全員がハイテンションのままノンストップで沸き曲を披露できることかもしれない……。そう思いました。

この日のセトリは詩乃ちゃんが考案したもののようです。この最後のブロックは特に「こだわった」とMCで話していました。外から来た彼女が、図らずしも現在のアンスが持つ最も鋭利な武器を示したような気がしました。
また、「はいどあんどしーく!」の落ちサビで左右をちぎらさんとヒスイさんに挟まれて、詩乃ちゃんが堪えきれず涙を零すシーンも良かったです。自身の生誕祭でオリメン2人に囲まれて、ようやくアンスリュームの一員となった実感がわいてきたのかもしれません。

生誕衣装の伊藤詩乃さん

アイドルの財産とは何か?

このことについて考える時、その昔、偶然目にしたネット記事(TV番組の内容を記録したもの)のことを思い出します。
そのTV番組では、とある銀行の行員が元アイドルの男性に対して、固定ファンの数を根拠として高額の融資査定を出したと書いてありました。もちろん、番組上の演出だと思います。しかし、熱心なファンの数はそのタレントの支払い能力を予測するのに最も説得力のある指標なのでしょう。

この日の詩乃生誕にはマルコム時代からのファンとアンスに加入してからのファンが多数集っていました。懐かしい顔ぶれと同じくらい見かけたことがない人がたくさんいました。ライブアイドルという出会いと同じくらい別れが多い職業で、6年近くの歳月をかけて培ってきた、いざという時に集まる大勢のファン。そして、節目節目でファンと一緒に作るライブの記憶が、きっと彼女の最大の財産なのだと思います。

そんなファンに向かって生誕曲「dearラブソング」の間奏で彼女は、「今まで出会った全ての人に、本当に感謝の気持ちでいっぱいです」と言葉にして伝えていました。
もしかしたらこの台詞が、彼女がこの日最も伝えたかったメッセージだったのかもしれません。


<2024年9月17日>
アンスリュームは2024年11月30日をもって現体制を終了すると発表。この日を最後にヒスイさんと鳴さんはグループを卒業するようです。従って、今年の伊藤詩乃生誕祭は、現体制の7人で行う最後の生誕祭だったことになります。「はいどあんどしーく!」の落ちサビでの涙も、現体制終了に伴うセンチメンタルな感情が引き金になったのかもしれません。

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