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恋愛脳はゲーム世界で物書きの夢をみるか?


テレビをつければイケメンと美女たちが恋愛模様であーだこーだとトレンディってた時代。中学高校の頃は恋愛至上主義な世の中だったと思う。モテるやつがすごくて、モテないやつは負け組だ。メリークルシミマスなんて呟いても、負け犬の遠吠えでしかない時代だった。

私は女の子が好きだ。可愛い子も美人な子もスタイルがいい子も笑顔が素敵な子もみんな大好きだ。けれど問題がある。まったくモテなかったのだ。意識をすればするほど女子と何を話していいのかわからない。キモがられないため余計なことを言わずにいようとすると、「何も話さない」が最適解となるわけで。

高校生活は特に何も起こらず、エヴァンゲリオンにハマっていたら3年間が残酷な天使のように消えていった。少年には神話どころか、なんの物語もなかった。……いや、ここから物語は始まる。

高校の卒業文集で好きな子が「あまり楽しくない高校生活でした」とたった一文で書いていた。……なんだ…と。言葉を失った。はじめて後悔した。

私もつまらなかったけど、好きな子までつまらなかったのだ。告白すればよかった。失敗しても笑ってくれたかもしれない。ウザがられたかもだけど、楽しくない生活をちょっとはおもしろがってくれたかもしれない。恋人になれなくても友だちにはなれたかもしれない。

しまった。告白すればよかった。その日は悔しくて泣いた。夕食の豆腐の味噌汁でさえ胃にもたれて吐いた。胃酸のせいで文字通り苦い思い出だ。

大学生になってから、私は引っ込み思案な性格を無理やり改造した。魔改造だ。逃げちゃだめだ逃げちゃだめだを繰り返しながら、私の精神は私の身体を操縦した。私のパイロットは私だ。私は私を動かすのだ。

大学のキャンパスを駆け巡り、ナンパするかのごとく女の子に声をかけまくった。とりあえずあいさつしまくったのだ。そこから友だちになり、友だちの友だちと知り合いになり、芋づる式に女友達が増えて、やがて恋人ができた。そしてモテた。

「人生は待っていても始まらない」

20歳にも満たない年齢で悟った。自分から行動しないと何も起こらないんだ。シンジくんだって、自分から「初号機パイロットです!」と宣言したじゃないか。自ら動いて運命を切り拓くのがこの世界のルールなのだ。

しかし過ぎた行動力が、彼氏持ちの女の子にも手を出してしまい、バレて彼氏に思いっきり左頬を殴られてしまった。奥歯が折れた。懲りずにまた違う子の部屋でアソんでいたら彼氏がやってきて私はベランダから飛んだ。2階だったけど着地に失敗し左足の指を骨折した。行動しちゃいけない時もあると身をもって知った。弐号機に乗るのはやめようと思った。

モテるようになると心に余裕が出てくる。へへへーいと毎日スキップルンルンな日々だ。しかし問題があった。あまりにも女の子を追いすぎたせいで、私には男友達が皆無だった。「モテる」にスキルポイントを極振りしたせいで、男友達を作るのを忘れてしまっていた。

女友達しかおらず、そのほとんどがややこしい関係だったので純粋なお友だちがいない。友だちがいないと恋人と過ごしていない時間が暇なのだ。おもしろいことは何かないかなと、アンテナを立てはじめた。

ある日、電車に乗っていると目の前にいかにもオタクな男二人組が座っていた。「アスカ」って単語が聞こえたので、ありゃエヴァ好きだなと勝手に親近感をもった。いくら女の子にモテようが私の根はオタクなのだ。

様子を観察するとどうもエヴァの話をしていない。何かのゲームについてニマニマと語っている。一人が手に持っていたのはそのゲームの攻略本らしい。目を細めて本の表紙を凝視し、ゲームのタイトルを知る。脳にメモをする。

ウルティマ・オンライン。

ネットで調べるとMMORPG・ネットゲームと呼ばれるものらしい。世界中からユーザーがサーバーに接続し、同じゲーム世界で冒険をするものだ。たとえるならドラクエの世界に勇者がいっぱいいる感じだ。しかもそれら勇者の中身は、この世界のどこかにいる人間が操作している。「アスカ」とはゲームで接続するサーバーの名前だった。

当時はまだスマホが世に登場していない。だからソシャゲーなんてのはない。ネットゲームはパソコンオタクしかやらないものだった。ちなみにオタクの社会的評価は今より低かった。「きもちわる」って目で見られるのが普通で。私はきもちわるさを必死で隠してたけど、女の子と付き合うといつもあっさりバレていた。たぶん何でもエヴァで例えるのが良くなかったのだろう。

早速ゲームを買ってきた。テレビゲームは昔から大好きだ。結果、どっぷりとハマってしまう。どれくらい没頭したかといえば、大学の卒業単位が足りなくなるくらいに、だ。人生で2回目となる土下座を親にした。1回目は彼氏持ちの子に手をだ

で、ネットゲーム内に友だちが出来た。コミュニティも作った。ゲームだけで満足せずオフ会とよばれるリアルで会うこともした。中には女の子もいたので、やっぱり関係をもってしまった。どこでもモテるのだ。いや、自慢っぽいぞ。言い訳をさせてもらうと、目の前の女の子を笑顔にしたいんだ。楽しませたい。そしたらどんどん好きになってしまうんだよ。

で、ゲームの中だけど、男友達がやっとできた。その人とはゲーム内でよく話していた。その人は尻派だというのも知るくらいの仲になった。話をするというのはチャットをするようなものだと想像してほしい。ゲームの話だけでなく、いろんな話をした。尻派の話もたくさん聞いた。

そのうち、その人がブログを書いていることを知る。しかも2ちゃんねるで有名だという。今でいうとブロガーだったのだ。

ブログのURLを教えてもらって、読んでみた。なにこれ日記?エッセイっていうの?なにこれめちゃくちゃおもしろいんだけど。言葉の使い方、ものを見る視点、比喩表現のセンス。はじめて日記をおもしろいと思えた。すごい。おもしろい。こんなのを私も書きたい。尻好きの話をここまで膨らませるとは。

すぐに真似をして日記を書きはじめた。行動しないと人生はなにも始まらないとわかっているからだ。

その人みたいにおもしろく文章を書きたかった。だから文の書き方をその人に教わった。おもしろいブログを書く人も教えてくれた。時代はテキストサイト全盛期だったのだ。文章本を出版したpatoさんはこの時に知る。numeriね。

大学生の頃は高校時代の延長で本をたくさん読んでいた。月10冊は読んでいたはず。ほら、高校時代は根暗の陰キャだったから、休み時間は本を読むか机につっぷして寝るしかないのだよ。いたでしょ、そんなクラスメイト。ん?視界に入ってないだと?

読書のおかげで語彙力は増えていたので、書くのにさほど苦労はしなかった。乱読のおかげで文章の書き方がなんとなく身についてたのだろう。

当時のSNS、mixiで日記を書いた。mixi友だちにはおもしろいと喜んでもらえた。「おもしろい=喜ばれる=喜ばれると嬉しい」がこの時にインストールされたのだ。

「あなたの文が好き」だという女の子もいた。「好き」の言葉は私を即座に行動にうつしてしまう。嬉しくなり、約束をとりつけリアルに会って、そんでやっぱりモテた。いや、言い訳させてほしい。いや、もういいや。

ある日、本屋で一冊の本に出会う。書店員さんが本を紹介するポップを書いていたので目についたんだ。名前も知らない作家の本。立ち読みするとおもしろかった。立ち読みで最後まで読んだけど、じっくり読みたくなったので買うことにする。平積みされてたので立ち読みした本は上に置いて、2番目の本をレジに持っていった。

3秒でハッピーになる名言セラピー。

本の最後にこう書いてあった。
「あなたの名言エピソードを募集しています」

私のこれまでの人生を書いて送ったらおもしろいんじゃないか? 幸いなことにmixiで日記を書いていたおかげで、文章を書くのは苦ではない。高校時代に女の子に告白できなかった話と、大学キャンパス内で声をかけまくった話を書いてみた。

すると、名言セラピーを書いた作家のひすいこたろうさんから連絡があり……。

……想像しなかった今が、あるわけです。

好きな子に声をかけられなかった。
告白できなかったのを悔やんだ。
だからモテる行動をした。
モテるようになったけれど、
代わりに男友達がいなかった。
だからネットゲームに出会った。
そこで書くおもしろさを知った。
本屋で偶然一冊の本に出会う。
記事を書いてその作家に送る。
作家に気に入られて出版する。
私の書き方がおもしろいと言われる。
文章講座を開催する。
書く人のコミュニティをつくる。

ひとつでもピースが抜けていたら、私は今、ここで書いていないと思う。あ、もうひとつ、モテようとしたのと文章を書こうと思ったキッカケがあったのを思い出した。

高校3年生で最後の通知表をもらうとき。担任の国語の先生が私に言った言葉。

「ヤスはね、これからモテるよ」

あまりにも脈絡がなく唐突だったのでハッキリと覚えている。当時は「……は?なぜ?」と理解ができなかったのだ。普段は真面目な先生だったし。しかも私はモテる前だったからね。そんな片鱗もなかったはずなのに。

手渡された通知表をひらくと、国語の成績は5段階で3だった。


#想像していなかった未来

[画像協力:さちわ]

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