石川雅規というひと。
サテ!
カツオ、と呼ばれる野球人がいる。
東京ヤクルトスワローズ#19、石川雅規その人である。
2001年に青学から入団した彼は、2019年の今日までヤクルト一筋、現役39歳。わたしが子どもの頃から、プロ野球選手として活躍している。
幼い頃からプロ野球を観て育ったので、石川が新人の頃から観ている。あの頃のスワローズは、古田や宮本さん、伊藤、稲葉、岩村、城石、高津、真中、米野、ラミレス、石井弘寿、五十嵐…。思いつくだけでもそうそうたるメンバー。(ひとり敬称がついているのは気にせず)
その中で、小さくて可愛らしくて、みんなに愛されていたひと。マウンドに立っても大きく見えるわけでもなく、それなのに勝ち星を積み重ねていく。
わたしはいつのまにか、彼の身長を越すほど大人になった。
あれから18年ほど経った今も、石川のその可愛らしさや優しく落ち着いた声は変わらない。40歳も間近になり、それはもちろん老けたのだけれど、それでもやっぱり幼い顔をしている。
そんな彼が昨日、記録をまた作ろうとした。
大量得点で、「今日は石川だから」と安心して観ていた4回あたり。隣の人が何気なく言った。「まだノーヒットだから」。わたしはそこで気づいた。もしかしたら、ノーヒットノーランがあるかもしれない。そして、この大量得点かつテットの30号に気を抜いていた心がまた緊張感を持つことになってしまった。
石川がマウンドに立つたび、言葉が出なくなった。2番の(※4番の時は怖くない)筒香(ベイスターズ#25)が、打席に立つ。ロペス(同#2)が、伊藤裕季也(同#4)が、乙坂(同#33)が立つ。怖い。こんなに得点が離れているのに。
淡々と石川は投げる。ように見える。テレビの実況や解説はなんて言っているんだろう?「丁寧なピッチングですね」?「緩急のある球を投げています」?「さぁ石川、踏ん張れるか」?そんなどうでもいいことが頭をよぎる。
すごいなぁ。
心からそう思った。この人、ずうっと活躍してるじゃん。40歳近いのに、エースじゃん。石川なら大丈夫って思わせるくらい、すごい人なんじゃん。
わたしが子どもの頃からプロ野球選手ということは、テットや奥(奥村、スワローズ#00)はもちろん、村上(同#55)なんて、石川はずっとテレビで見てきた人だ。彼に憧れている投手も、きっとたくさんいるだろう。
その人が最前線で活躍している。果たして若手諸君は、それを見てどう思うのだろう。
そして時が来た。
あ、なんか嫌だ。と思った。伊藤裕季也だ。
ホークスとの交流戦を思い出した。神宮での一戦。その日わたしはホークス側にいて、ホークスの得点を大いに喜んだ。外野は大盛り上がりで、わたしもハリーのタオルを首に巻いて歓喜の渦の中にいた。
裏の攻撃。打席にいたのはテットだった。その時わたしは思った。「あ、なんか嫌だ」。ここでテットが打ったら追いつかれる。誰が打ってももちろん追いつかれるのだけれど、本当になんとなく、なんか嫌だと思った。
この人は打つ。
あの日のテットと同じように、伊藤の打球はスタンドへと吸い込まれていった。きれいな、苛つくほど美しい放物線を描いて。
誰もが思った。どう見てもホームラン。悲鳴のような、絶望的な声も聞こえた。わたしも、息が止まるようだった。そんな心が痛むような空間の中、目を見開くようなできごとがあった。
上田が、フェンスによじ登って、ボールに手を伸ばしたのだ。
胸が、ぎゅっとなった。石川を思っての行動だったのだろうと。
ノーヒットノーラン、させてあげたかった。そう思ったんじゃないかと。
打たれた直後、内野陣が石川の元に集まった。今度は目が熱くなった。大量得点、安定のピッチング、打たれたのはこの一本だけ、余裕の勝ち投手。でも、大切なのはここまで粘り強く石川が投げ続けたこと。40歳の最年長投手が、こんなに頑張っていたんだ。きっとみんな、ノーノーさせてあげたかった。
みんなたくさん打って守った。ナイスプレーもたくさんでた。誰も悪くない。伊藤が、あの球は上手だっただけ。
石川に、なんて声をかけたんだろう?そして、この頑張りを受け止めてくれる、一緒に戦ってくれる仲間が彼にはいるんだなぁと、ただただマウンドのみんなを見つめるだけだった。
そのあとあっさりと凡退させたのがまた、お見事だった。そこで打たれないのが、石川だ。
なんてかっこいいんだろう。抑えた時も、ホームラン打たれた時も、チェンジでマウンドを降りる時も、ファンはめいっぱいの拍手を石川に捧げた。素晴らしい日に、神宮にいられたなぁと。
大勝でえみふるなスワローズ。画面に映るのは、石川、青木、バレンティン。オーバー35のおじさんたち。みんなとっても嬉しそうだった。ヒーローインタビューでも石川は「いつか打たれると思ってました」「初回に7点取ったんで焦りました」と、変わらない石川だった。だからきっと、みんなに愛される。
石川なら大丈夫。
39歳の大ベテラン投手は今シーズンも、ルーキーのような顔をしてわたしたちに勇気と元気を与えてくれている。