橋を渡ろうとした時、ふとナオトは傍らにいた恋人から視線を外した。
「……ナオト?」怪訝そうな顔で、恋人のクミが尋ねる。
「いや、何か視線を感じたような気がして……」
「ええ〜?」
ぐるりと周囲を見渡すが、こちらを見ている人間など誰もいない。
「気のせいじゃないの?」クミはそう言うが、ナオトの表情は曇ったままだ。
ナオトにはよく、変な気配を感じることがあった。いわゆる霊感というヤツかもしれない。
自分にそんな能力があるなんて認めたくはない。
でも、旅行に泊まった時に悪寒が走ることがあって、後々聞いてみると、その部屋で人が死んでいたなんてことが多々あるものだから認めざるを得ない。
「うーん……でも、なぁ。めちゃくちゃハッキリ感じたんだよ」煮え切らない口調でナオトが言うや否や、
「気のせい、気のせい!」
言いながら、クミはナオトの背中をバシバシ叩く。
……口には出さないが、結構痛い。
「今は何も感じないんでしょ?」
クミの言葉に、一瞬考えこんでナオトは答えた。
「う、うん、まぁ……」
「なら、気にしなーい、気にしない!」
そう言ってクミはナオトの肩に腕を回した。
橋を通りすぎるナオトをじっと見つめる視線があった。
少女である。
(気づいて……くれなかった)
欄干にもたれかかり、俯く。
彼は確かにこちらの方を向いてくれていたのに。
もうその姿は、少女には見えない。幻のように掻き消えている。
(次こそは……)
少女は決意したように、自分に言い聞かせる。
――次こそは絶対話しかけよう、と。