farmoで覗く、企業と地域のつながり方
こんにちは!
今回も前回の記事の続きで、株式会社ぶらんこさんの代表 永井洋志さんにお話をお伺いしました。
今回は、ぶらんこさんのこれまでの活動を通して、企業の地域へのかかわり方、そしてぶらんこさんの新しい挑戦について書きました。
農業にあまり興味がない方も、ためになるお話がたっぷりです。
前回の記事をまだ読んでないという方は、ぜひこちらをご一読ください!
1.株式会社ぶらんことは
2020年5月某日、私たちは株式会社ぶらんこさんへの取材で、鹿沼市にあるぶらんこさんの本社に伺いました。
古民家を改築して利用されているという本社は、田園風景のど真ん中にあり、街の喧騒から離れたとても空気がきれいなところでした。
(写真)株式会社ぶらんこさんの本社 古民家を改築して、オフィスとして利用しています。
1‐1.犬小屋からITへ
株式会社ぶらんこは、代表の永井 洋志さんが宇都宮大学卒業後、23歳の時に起業しました。
建築学科を卒業し、大工になりたかったという永井さんは、その経験と、当時のペットブームに乗っかり、犬小屋の設計事業を始めます。
ただ、当時からインターネットを使って製品の紹介を行うなど、インターネットを利用した事業は行っていました。
その後、HP制作を通して商店の集客を行ったり、当時まだ新しかったネットショッピング代行を行ったりと、インターネットを使った地域活性事業、そしてアプリ開発等のITへとシフトしていきました。
1‐2.農業への進出
そんなぶらんこさんですが、どのようにして農業の分野に進んだのでしょうか。
それは、あるイチゴ農家さんからのお願いがキッカケでした。
「市役所の人が、当時作っていたメッセージアプリをイチゴ農家での作業の管理に使うことができるんじゃないかって、農家さんに紹介してもらった。
そしたら、こんなものいらないって言われて笑
でも、そこの農家さんが夏イチゴを作っていて、地下水をくみ上げて、ヘタの付近を冷やして夏でもイチゴが育つようにっていう実験を市役所と一緒にしていた。
それで、『永井さん水温計ってくれ』って頼まれたから、わかりましたって。
その時、目視で温度確認してるのを見て、すごく不便なことしてるなって思った。
そこでじゃあ作ってみようと。」
そこで生まれた計測器が、「farmo」の始まりです。
イチゴ農家さんの喜ぶ姿を見た永井さんは、水温だけでなく、さらにハウス内のCO2濃度などの計測もできるように改良を重ねました。
こうして、ハウスの環境をより見やすくする農業IoT「farmo」が誕生したのです。
1‐3.水田farmoへの挑戦
イチゴfarmoをリリースし、徐々に農業関係の依頼が増える中で、だんだんすべての仕事に手が回らなくなってきたという永井さん。
次に訪れた転機は、市の職員から水田で使えるものを作ってほしいと依頼されたことでした。
そこで永井さんが目を付けたのが、水田における水の管理です。
水の管理はイネ農家さんの仕事の中でも、時間と労力の大部分を占めています。
特に農業の集積化が進む現代では、いろんな場所に自分の田んぼを持つ農家さんが多く、労働時間の約3割が水管理に占められているといいます。
そんな状況を目の当たりにし、ぶらんこさんが開発されたのが「水田farmo」です。
(「farmo」の説明については、前回の記事またはこちらのHPをごらんください!)
「最初は不具合とかいっぱい出て大変だったけど、それでも農家さんに喜んでもらえて、ここでもITが使えるんだ、アプリが活躍するんだって思った。
その時は農業ブームもないし、IoTっていう言葉もない、どれだけ市場があるかなんてわからない中でも必要としている人はいるんだなあって。
ある時、高速道路を運転してたら、『すごい数の田んぼがあるじゃん』って、これ全部(水田farmoを)付けたらすごい楽になるし、すごい儲かるなあって笑」
こうして株式会社ぶらんこは、いままで行ってきたアプリ開発をやめ、2015年ごろに農業×ITの分野に完全に移行することを決断します。
2.地域と企業のかかわり方
2‐1.誰かの声に応える
犬小屋から始まり、農業×ITにたどり着いた株式会社ぶらんこ。
その根底にあるのは、「誰かの役に立つ」ということです。
商店街の活性化のためにHP作成やネットショッピングを始めたり、農家の方のニーズに応じてスマート農業用の機器を作ったり、ぶらんこさんの事業はだれかの声を起点に常に動いていきました。
「一番大切なのは、誰の何を助けるか、役に立てるかということ。
『水温を測ってほしい』から始まっているように、これは喜ばれるだろうって提供するものとは違うところで喜んでもらっている。
(農家さんから聞いて)そこで初めて、なるほどこれは便利だって気づくことも多い。
例えばそれが、こっちの押し付けであった場合、どんなに頑張っても(農家さんは)うーんって感じになると思う。」
自分たちが提供している製品にこだわらず、常にだれかのニーズを優先して取り組んできたこと。
犬小屋の設計から、農業とITの分野という予想もつかないような転身の根元には、ぶらんこさんが貫いてきた信念がありました。
2‐2.必要とされるスマート農業を目指して
自分たちが必要だと思うものと、実際に必要とされているもの。
永井さんは、スマート農業においてもこのことの重要性を強く感じるそうです。
「今感じているのは、スマート農業にも2つあって、
”実際の現場で必要とされている”スマート農業と、 ”理想像で押し付けるような”スマート農業。
これが難しいところで、この押し付けるスマート農業のリスクって農家さんが嫌がってあきらめムードを作っちゃうんですね。
こんな難しくて、費用も高いものは導入できねえって。まあ(作る側の)エゴですよね、データで解析すれば何でもわかるみたいな。」
「(課題解決について)農業を変えようだとか言うのは本当になくて、とことん農家さんを支援しようというスタンスでやっている。
だから、農家さんが何に困っているのか、どうしたら便利に、楽にしてあげられるのか。
困っているものが先に見えているので、あとはただそれにひたすら取り組むだけでいいと思う。
そうすれば必然的に、あとは自分たちの創造力とかで価値が生まれてくるものだと思うので。」
自分たちの実現したいものを優先すると、逆にそこから離れていってしまうというリスク。
地域、そして農業という特殊な業界に新しい技術、スマート農業を持ち込むことの難しさを感じました。
2‐3.次のステップ ~一俵プロジェクト~
そんなぶらんこさんですが、自社の製品「farmo」を販売促進するだけでなく、農家さんとの新しい関係の構築にも動き出しています。
その一つが、「一俵プロジェクト」です。
水田farmoを農家さんに使ってもらうにあたり、ハードルの一つとなったのが価格でした。
それは決してfarmo自体がとても高いということではなく、そこにはお米の単価の低さという課題がありました。
少ない売り上げでfarmoを導入した結果、farmoの料金が負担となってしまっては本末転倒になってしまいます。
これはfarmoに限らず、日本のスマート農業の普及を妨げている原因の一つでもあります。
新しい機器を導入することで、逆に経営が圧迫されてしまうという問題です。
そこでぶらんこさんは、「お金」の代わりに「お米」と交換するサービスを考えました。
農家さんからいただいたお米を、ぶらんこさんを通して販売することでそこに付加価値をつける、
そうすることで、農家さんの負担も軽減するほか、お米の単価の低さという問題に対処することを目指しています。
「田んぼって1枚当たりの収益も少なくて、そこから肥料代だったり、人件費だったりを除くと、じゃあいくらをつけられるのかっていう。
じゃあ、お米と交換でうちがお米を売れば、それで使えるんじゃないかって思った。
アプリを使って付加価値をつけることで、お米の価格も挙げられるんじゃないかっていうのも、一つ取り組んでいるところです。」
これもまさに「見える化」の一つ、”流通の見える化”です。
農業に様々な形を加えて、新たな付加価値を与える。これはこれからの農業の理想的な形ではないでしょうか。
「一俵プロジェクト」はまだ現在開発中の段階ですが、今後のリリースにぜひご注目ください!
最後に
いかがでしたでしょうか。
永井さんとのお話の中で強く感じたのが、とにかく「目の前のことに取り組む」ということです。
農業の分野に限らずとも、自分たちの課題意識を押し付けることなく、現場で起こっていることに正面から取り組む。
とてもシンプルだけど、私たちが忘れてしまいがちな大切なことだと思います。
今回お話をお伺いした、代表の永井洋志さん
永井さんをはじめとする株式会社ぶらんこの皆さん、温かく迎えていただきました。
本当にありがとうございました!
この記事を読んで、少しでもぶらんこさんの活動が気になった方は、ぜひHPもチェックしてみてください。
永井さんやfarmoのブログも、とても読みやすく面白い記事がたくさんあるので、そちらもおすすめです!
さいごまでお読みいただき、ありがとうございました。
取材:尾澤・横内 編集:尾澤