毎日エレベーターですれ違う人

毎日2回顔を合わせる人がいる。

一回目は朝7時45分。出勤のために部屋を出て、エレベーターに乗る時。その人は、私が乗り込むのと入れ替わりに降りてくる。

二回目は私の帰宅時。私がエレベーターを降りる時に、入れ替わりで乗り込んでくる。

最初は、よく顔を合わせるなという感じだったけれど、何度も同じことが続き、私はその人に興味を持った。朝に帰ってきて夜に出かける。私とは違う生活時間で活きている。夜勤の仕事だろうか。私がオフィスで仕事をしたり叱られたりしている時間は、ずっと寝ているのだろうか。自分の知らない世界は、とてもミステリアスで魅力的だ。そのせいか、その人が少し素敵に見えたりした。

「おはようございます。よく会いますね」なんて、声をかけたら、笑顔で会釈を返された。反応は悪くない。そして、帰宅時にすれ違った時も、笑顔で会釈をして貰えた。

ただ、意図的に関わってみて気づいたことがある。朝と夜で服装が一緒なのだ。翌朝になると、服装が違っている。私の部屋のある階に住んでいる人ではないのだろうか?同じ階の人に会いに来ているのだろうか。小さく生まれた疑問は、瞬く間に大きく育っていく。

そもそも、私が住んでいる階には4部屋しかない。私が住んでいるのは、奥から2番目の部屋だ。角部屋が良かったけれど、家賃の関係で妥協した。一番奥の部屋には、デイトレードで生計を立てている男の人が住んでる。何度か立ち話をしたことがあるが、特別親しい訳でもない。反対側の部屋には、大学生の女の子が住んでいて、一番エレベーターに近い部屋の住人とは会ったことがない。そのため、すれ違う人はずっとその部屋の住人だと思っていた。ただ、その部屋の住人は3日前に引っ越したらしい。それなのに、朝になるとあの男性とエレベーターですれ違い、帰ってくるとまたエレベーターで入れ違いになる。

角部屋の男性か反対側の女の子か、どちらかの知り合いなのだろうか。毎日訪ねてきているのだろうか。疑問はどんどん大きくなるが、その疑問は思わぬ形で消え去った。

「いつも部屋に来ている人は、彼氏さんですか?」たまたま、同じエレベーターに乗った隣の女の子が、私にそんな言葉を投げかけた。「え?」彼氏なんていない。

でも、そういわれると思い当たる節がある。家に帰ると、部屋の物の位置が微妙にずれていると感じることがある。そういえば、先月はいつもより少しだけ電気代と水道代が高かった。そしてもう一つ、消臭剤の減りが速い気がする。これは、私が出掛けている間に、他の人が部屋に入っているということなのか。あの、行為を抱きかけていた男性は、私のストーカーだったのか。


「○○町で、ストーカーによる殺人が」

そんなニュースが駆け巡ったのは、ストーカー疑惑を持ってから2日目のことだった。やっぱりあの男性は、ストーカーだったのだ。家の窓から見える殺害現場を眺めながら、私は震えが止まらなかった。

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