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このシェアハウスが、私たちの帰る場所です。#9

○:「わぁ…いっぱいメニューあるね…」

久:「そうですね…」

○:「しおりちゃん、どれにする??」

久:「わ、私は…これで…」 

しおりちゃんはハンバーグ定食を指さす…

○:「そっかぁ…
じゃあ俺はエビフライ定食にしよっかな」

久:「…ふふっ、いいですね笑」




正直な話、ここに来るまで、全然しおりちゃんと喋ることが出来なかった…



なにか、話すことは…ないのかななんて




でも…



久:「○○さん…」

○:「…んっ?」



久:「…怖いですか?」



○:「…えっ……」

久:「たまたま家のない女の子4人を招いて
家族みたいに接しはじめて
でも…そのうちの一人が、宮城にいるはずの生き別れの妹だったら…」

久:「…怖いですか?」

○:「…」

○:「…」

…図星だ

…怖い

会った時は、まさにたまたまだった

俺じゃない人がこの人生を歩んでたかもしれない

そんな状態で会った子の一人が…瀬奈なんて

信じられない…



○:「…そうだよ
ちょっと、びっくりしてる」

久:「…」

○:「でも、俺は決めてるんだ」

久:「…?」

○:「もししおりちゃんが」

○:「瀬奈でも、瀬奈じゃなくても」

○:「俺はしおりちゃんを家族だと思ってるし
絶対に守り続ける」

久:「…」

久:「ありがとうございます
私、今まで本当の愛を貰ってこなかったから…」


グスッ…グスッ…




初めてかもしれない…しおりちゃんの涙

怖がってるところはよく見るけど…


久:「宮城のおじいちゃんおばあちゃんは…
私には、優しかったけど…」

久:「口癖だったんです」

久:「しおりのお母さんがダメな子だから私たちが育ててるって…」

久:「…」

久:「児童施設は…お金を貰うために仕事として仕方なくやってるから…」

久:「愛なんて、感じたことなかったです」

○:「…」

久:「でも、○○さんに会ってから…
愛を受け取りました…」

○:「…」


俺はしおりちゃんの胸の奥底にある悲痛の悲しみを、ただ黙って聞いていた…

黙っている他、なかったんだ



○:「…」

久:「○○さん」


久:「大好きです」

○:「…」

○:「…そっか」

○:「ありがとう
俺も、しおりちゃんのこと、大好きだよ」

○:「両親のことは…
妹だったら、話さなきゃいけないことだから…」

久:「はい、分かりました」

○:「じゃあ…いこっか」

久:「はい」


俺たちはファミレスを出て…すぐ隣にある総合病院まで、歩き出した…

医者「結果は…」

久:「…」

○:「…」





医者「100%の一致と出ました」




病院に入ってから、かれこれ、7時間くらい…経っていたのだろう…
呼ばれて行った先に、そう言われた…


久:「…!!」

○:「ほんとですか…?」

医者「はい」

医者「どちらも、加藤純子様と、小林崇様から生まれた子供であります。」

久:「この2人って…??」

○:「俺の父親と、母親…」

久:「…」


ギュッ

しおりちゃんは言葉より先に、抱きついてきた…


久:「やっぱり、お兄ちゃん…なの?」

○:「…うん
瀬奈なんだね…」

久:「うん…」


グスッグスッ…

瀬奈は…また泣いていた…




医者「一応、こちらの解剖結果の紙、お渡ししますので…」

医者「本日はおかえり頂いて大丈夫です」

○:「はい、分かりました…」

○:「…」

○:「ありがとう、ございました」

○:「…」


2人で病院を出た時にはもう、夕暮れもなくなり、街灯頼りの暗闇だった…


○:「ただいまー」

久:「ただいま」

白:「おかえり!!」

梅:「あ、くぼちゃん!
体調大丈夫なの?」

久:「えっ?」

桃:「麻衣姉さんが病院に行ってるって言ってたから…」

久:「あぁ、もう大丈夫!」

与:「しおりちゃんおかえりぃ…」

白:「長かったね笑
私夜ご飯作ってあるから食べて!」

○:「うん、ありがとう
しおりちゃん、食べよ」

久:「あ、はいっ」


白:「今日はハンバーグ!!」


○:「あ…」

白:「…え?」

○:「しおりちゃん、今日ハンバーグだったよね?」

白:「えっ」

久:「大丈夫です!いただきます!
んっ!麻衣さんのハンバーグの方が美味しい!」


しおりちゃんは早口でそんなことを言ってくれる…


白:「ほんとに!やったぁ!」

○:「しおりちゃんが納得してくれてよかった」

白:「もぉ…あんたがいいなさいよぉ!」


麻衣は俺の頬をつねってくる


○:「いったいなぁ!!ごめんって!」



みんなの中で笑いが起こる…


しおりちゃんも満面の笑みだ…

一家にまた、団欒が戻ってきた…


梅:「わたし、お風呂入ってきますね!」

白:「はーい」

桃:「みなみん、一緒に入る」

梅:「うん、来な?」


白:「○○、どう?おいしい?」

○:「うん、おいしいよ」

白:「それ、ほんとに思ってる?」


麻衣はすごい剣幕で睨んでくる…


○:「ほ、ほんとだよ…」

白:「そっ、」

白:「ならいいけど?」

○:「…」


麻衣のペースは、やっぱりわかんない。

でも、どちらにしろ、重大なことを抱えてきた俺たちに対して、こうやって明るく振舞ってくれる…

そんな底抜けの明るさを出す麻衣に、俺は心の中で感謝が止まらなかった…




白:「2人とも、おつかれさま」


いつもの深夜、昨日と同じように3人でいる…


白:「○○、ハイボールつくる?」

○:「あ、今日は…いいや」

白:「うん、わかった
しおりちゃんは、りんごジュースでいい?」

久:「はい、お願いします」

○:「おれも、りんごジュースほしい」

白:「はいよ」

○:「…」

白:「はい、2人分どうぞ」

○:「ありがとう」

久:「ありがとうございます」


白:「2人は、どうだったの?」

○:「…」




俺は、無言で解剖結果の渡した…





白:「一致…!!」

白:「やっぱりしおりちゃんが、瀬奈なの?」

コクリ…


しおりちゃんは無言で頷く…


白:「よかったね
ちゃんと見つかって…」

白:「ほんとによかったね…2人とも」

○:「うん」

白:「お母さんのことは、話したの?」

○:「ううん。まだ、これから」

白:「そっか」



○:「しおりちゃん…」


久:「はい…」

○:「いや、瀬奈…」



俺は話す前に1呼吸おいた…

○:「まず、恐らく…
久保史緒里…という名前は、偽名だろう…」

久:「えっ…?」

○:「おじいちゃんにつけられた新しい名だと思う」

○:「久保っていう苗字も、いなかった…」

久:「…」

○:「15年前…」

○:「俺が9歳の頃、母親が第2子を授かった…」

○:「後のしおりちゃんね」

○:「でも…父親とは関係を絶ってしまったんだ」

久:「…」

○:「父親が不倫をしていた
俺が生まれる前から…
俺にはそんな素振り…見せたこと無かったけど」

○:「父は母に…酷い扱いをしていた」



○:「もともとは…俺を産んでできた婚約…」

○:「デキ婚だったんだ」


久:「…」

○:「円満に過ごしてたつもりだったけど…
俺にも、実際には愛なんてなかった」

○:「瀬奈も、同じような形で、妊娠したんだけど…」



○:「同時に…不倫が発覚したんだ」

○:「俺たちは…父親にすてられたんだ…」




久:「…」

○:「いや、正確には…」

○:「母親が捨てた側だったのかな」

○:「不倫が発覚して、喧嘩をしたんだ
父親は父親で、別の子の子供が出来たらしくて…」

○:「そんな状態の父親を…」

○:「母は…」






○:「…殺したんだ」





久:「…!!」


○:「母はその後、自首…」


○:「不倫関係が元から続いていたこともあって
情状酌量の余地ありとして、禁錮1年…」

○:「もちろん、その間の出産も認められた」

○:「俺はその間、基本的には祖母の家に住むことになった…」

○:「麻衣の家も、よく招いてくれたけど」

白:「うん、そうだね」

○:「1年経って、母親は出てこれたんだけど」

○:「シングルマザーで、もちろん仕事も無くなって、損害賠償とかも支払うことになった母に、」

○:「2人も面倒見る余裕なんてなかった…」


○:「祖父母にも犯罪を犯して良くは思われてなかった…母親はそんな祖父母に頼み込んで…縁切る代わりに、瀬奈を育ててくれ。と。」


○:「そして俺らが別れることになった…」

○:「母親は宮城じゃパート探そうにも、犯罪者として扱われどうしようも出来ないと思って」

○:「転居した」

○:「麻衣は中学生になる時に、同じ地方に来てくれたから、一緒に学校通うことになったんだ」

白:「…」

○:「6年前、かな…
俺がまだ高校卒業する前、祖父母が亡くなったという連絡が母親に来た。申し訳ないけど、金銭面的に葬式は執り行われなくて…
だから、そこで俺と瀬奈が会うことも無かった…」

久:「そうですね…」

○:「その後俺は、祖父母を介護してたヘルパーさんと一緒に瀬奈が暮らしてるって話は聞いてたんだけど…それは違うみたいだね…」




久:「実際に私が児童養護施設に入ったのは小一です。亡くなる3年前、言われました。2人はもってあと1年かな…
だから私はヘルパーさんに言って宮城の児童養護施設に入ってました。そこで、祖父母がすごく長生きしてくれて、3年経って…

そこでヘルパーさんとの契約が切れちゃうので、2人で東京に行くことになりました。そこでの施設に入ることになるって。そこで今までいたさくら学園にはいることになりました…」



○:「そ、そうだったんだ…」

久:「○○さん」

○:「…ん?」

久:「私の久保史緒里っていう名前は偽名かもしれないです」

久:「でも、この名前でずっと生きてきました
だから、これからも、史緒里って呼んでください」


久:「私も、お兄ちゃんって呼びますから…」



ギュッ…

俺は、強い力で史緒里のことを抱きしめる…



○:「史緒里…ずっと1人にしてごめんな…
俺が…絶対ずっと一緒にいてあげるから…」

久:「お兄ちゃん…」



俺が、絶対に守り続ける…何があっても…

そう言って、2人はずーっと、日が明けるまで抱きしめあった…

to be continued…

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