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『初恋monopoly』



和:「えっ…中学受験?」





私は背筋が凍ってしまった…


○:「…うん」

和:「どういうこと…?」

○:「親が…
私立の中学受験しなさいって言ってきて…」

和:「ねぇ、なんで言ってくれなかったの!?」

○:「お、俺だって!」

○:「いっぱい抵抗したよ…」

○:「でもどうしても受験しろって言うから…」


和:「そ、そんな…
急すぎるよ…」


○:「…」

○:「…応援、してほしいな」


和:「…」

和:「…今は、出来そうにない」

○:「…そっか」

和:「…」




彼の顔には、失望のような顔が見えた…

私は…心が苦しくなったけど…

自分の正直な気持ちには、耐えられなかった…




大好きだったのに。

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○:「…」

和:「…」


○○くんは、今日も早く来てお勉強をしている…

いつもの情景と違うのは…

隣には、私じゃなくて…


真:「ここは、必要な文法がいつもとは違くて…」

真:「こういった文法を使うの」

真:「そうすると…」

○:「あぁ…なるほど、ありがとうございます」

真:「うん、大丈夫だよ!
また分からないことがあったら聞いて!」

○:「はい!もちろん!」

和:「…」

真夏先生が勉強を教えていた…


"○○、中学受験するんだって?"

○:「あぁ…うん」

"そっか〜、頑張ってな!!"

"お前なら行けるよ!俺ら応援してるから!"

和:「…」


○○くんの仲の良い子は、いつも通り接している…

まるで、私だけが○○くんの友達、という輪から外れたように感じた…


美:「ねぇ、和」

和:「…ん?」

美:「どうしたの?今日何かあった?」

和:「…な、んで?」

美:「すんごい暗い感じだからさ」


和:「…」

和:「…美空は、大好きな人が離れちゃう時、どう思う?」



美:「えっ?」


私は美空に、ふしだらな考えをぶちまけた…


美:「大好きな…人?」

和:「うん」

美:「離れちゃう時…かぁ
悲しいんじゃない?」

和:「それは…なんで?」

美:「なんで?」

美:「うーん…好きだと思ってる人が離れて、悲しいって思わない人はいないんじゃないかな…」

和:「それはもし、片想いでも?」

美:「うーんそれは…どうだろう
っていうか、何の話?」

和:「あっ、いや…」


美空にそう言われるまで、周りなんか気にせず、ただ不可解な自分の気持ちを話してしまっていた…


美:「なになに、和に好きな人が出来た!?」

和:「ちょっと、そんなんじゃないから…!」


そうやって否定する私を差し置いて、美空の目線は、○○くんに向いていた…


美:「ふーん、○○くんか
中学受験するらしいもんね」

和:「…ちょっと、違うから…!!」


こういう話が妙に鋭い美空に怖気づく…


美:「…」

美:「…へぇ、なるほど
よく一緒にいるのに…」

和:「…」


美空に全てを察された感覚…
美空に聞くんじゃなかった…

和:「…」

和:「…ねぇねぇ、お母さん
中学受験ってどういうものなの?」

"頭よくていい家系の子がやるような事よ"

和:「私も、中学受験したいって言ったらだめかな」

"もう間に合わないわよ…"

"学費もかかるしお勉強だって和はできる方じゃないじゃないの…"

和:「…」

まぁ、当然の結果。

お母さんに聞いても、そんなくらいの言葉しか返ってこない。

こんな気持ちで中学受験って言ってる私なんて相手にするわけがないよね…



私って、これからどういう人になるんだろう

小学生ながら私は、ベッドでそんなことを考え始めた…

私はやりたいこともないし
将来の夢だってない

でも、今が楽しいってだけで満足だった
周りは色んなことを考え始めてるのかな…


○○くんは…

○:「宇宙飛行士になりたい」

そんなことを言ってた気がする…

美空だって…

美:「美容室のお姉さんになりたい!」

そんなことを言ってた…


でも、私は…

卒業アルバムのために配られた、将来の夢の欄が空白になっている紙を見つめる…


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真:「じゃ、今日の授業を終わります」

真:「日直さん」

きりーつ、れい

"ありがとうございました"

真:「はーい、みんなじゃあね〜」

真:「気をつけて帰ってね〜」


和:「 …」

気づけば、私が最後に○○くんと喋った日から、1週間くらいが経っていた…



私は未だに気持ちが切り替えられない…


けど、話せなくて寂しい…
そんな感情が先行していた…


和:「…」

和:「…ねぇ、○○くん」

○:「…ん?」

和:「…あ、いや…
…将来の夢、の欄、何書いた?」

和:「…私、これ決まってなくて」

○:「…俺は」


○:「"宇宙飛行士だよ"」


和:「やっぱりそうだよね!
聞いたことあった!」


ちゃんと○○くんの夢を覚えてて、内心舞い上がる



○:「…」

そんな私を○○くんは見つめてくる…

和:「…?」


○:「こんなの…言ってるだけなんだけどね…
別にほんとになりたいわけじゃないし…」



和:「えっ?」

○:「あっ…
いや、ごめん。えっと…塾あるからさ。」


○○くんは少し慌てて帰っていった…



何だったんだろう…

でも、もう少し喋りたかったなぁ…

あぁ…だめだ…

何が悔しいのか、悲しいのか分からない。


けど私の目にはひっそりと涙が伝わっていた…


"どうしたの?和ちゃん"

和:「…え?」


私ははっとして、顔を上げると、そこには真夏先生が立っていた…

真:「悩み、聞くよ?」


真夏先生はそれだけ言うと、机を対面に動かしだした…

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私は、全てを吐き出した…



真:「なるほどねぇ…
中学受験しちゃう○○くんが…」

和:「はい…私には、どうしていいか分からなくて」

和:「落ちて欲しい、なんて思ってる訳じゃないんですけど…
一緒にいる為には、それしかないのかなって…」

真:「…」

真:「…難しいね」

和:「ずっと一緒にいてくれると思ってたから…
急に別々になっちゃうのが、悲しくて…」

真:「…」

和:「でも…それも、甘えなんですかね」

真:「そんなことは、ないと思うよ
でも…」

和:「…」


真:「○○くんがそれを聞いたら…」

真:「喜ぶかな…?」


和:「喜ばないですね」

真:「うん、私もそうだと思う
やっぱり1番は…応援してあげないと」

真:「○○くんが決めた道なんだから…」

真:「それがお母さんに強制されたものでもさ…
今、○○くんは頑張ってるわけだからさ」

和:「そうですよね」

真:「私、1回○○くんにお話聞いたんだけど…」

和:「??」

真:「○○くん、将来の夢、あまりないんだって」

和:「えっ…そうなんですか!?」

真:「うん…宇宙飛行士は…親御さんを満足させる為に書いただけで…
だからなんの為に頑張ってるか分かんないって…」

和:「…」


○○くんも…私と同じだったんだ…


真:「○○くんのホントのしたいことは…」

和:「…」

真:「こ、これは言っちゃダメかな…?」

和:「えっ!?何でですか!?」

真:「だって○○くんが決めたことだもん!
あんまり人に言うのは良くないなって」

和:「えぇ…」

真:「でも、素晴らしい夢だった
ちゃんと、追いかけてあげてね」

和:「分かりました…!!」


○○くんも同じだったんだ

将来の夢、がないって… 

でも、○○くんにあって、私にないもの…


それを見つけた気がして、私は走り出した…


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○:「…」


俺は、果たして合格できるのだろうか

合格したその先には、何があるのか

敷かれているレールを歩いているだけの人生…

楽しいものではなかった


塾の帰り道、そんなぼんやりとしていることを考えていた…

和:「あっ!○○くん!」

○:「和!?」


家の前には、いつも隣にいたはずの子がいた…


○:「こんな時間になにしてるの!?」

和:「えへへ…
○○くんに言いたいことがあって…」

○:「…」

和:「私、間違えてた。」

和:「○○くんが中学受験するって聞いた時、
○○くんが落ちることでしか、ずっと一緒でいられない、なんてこと考えてた…」

○:「…」

和:「私、大好きだから。」




和:「応援してるから!」


和は首につけていたちっちゃいお守りを俺に渡してきた…

○:「…ありがとう」

○:「で、でもこれ…」

和:「ん?」

○:「安産御守って書いてあるけど…」

和:「な、なにそれ」

○:「だからいわゆる…妊娠とかした時に渡すやつ」

和:「えっ、なに、御守りって種類あるの?」

○:「…うん」

和:「…やっちゃった」

○:「…ふふっ」

和:「笑わないでよ…!」


俺らの間で久しぶりに、笑いが生まれた…


○:「でも、嬉しいよ
合格祈願より嬉しい」

和:「そっか、よかった」

○:「…じゃあ、そろそろ戻るね」

和:「うん、ばいばいっ!」

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当日、俺はバスに乗って、会場まで向かっていた…

同じように受験をしにきてそうな子がこぞってバスの中で勉強をしている…

俺もそれに負けじと、参考書を読み始める…

バスが、入試会場の側まで来てしまった

こういう時の時間は早く感じる…


俺はポッケの中に入れていた、安産御守を出す…


○:「…」

○:「…あれ?なんだろこれ」


中のものが、少しだけ飛び出している…

俺は中身を開けて、確認する…


○:「手紙…?」




"○○くんへ!
私、やっと将来の夢決まった!
私の将来の夢は…



周りのみんなを、しあわせにすること。




○○くんのホントの夢も今度教えてね!

和より。"

○:「…」

○:「…ふふっ」



○:「俺と、同じじゃんっ」


俺は安産御守を握りしめて、会場の中に足を踏み入れた…

『初恋monopoly』

fin

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