このシェアハウスが、私たちの帰る場所です。last
…
…
○:「…」
足取りが、重い
麻衣に、どうやって謝ればいいか…
どうやったら信じてくれるか…
美波ちゃんとも良くない関係だが、同時に麻衣も、同じくらい傷つけた…
ごめんなさいから入って…
その後は、何を言おう…
そんなことを考えながら、俺は麻衣の家についた…
○:「…」
インターホンを押す指がとても震える…
ちょっと前までは、1番近しい存在だった…
合鍵も渡してるし、インターホンを押さずとも入ってくる…
そんないつもの麻衣の行動とは裏腹に、俺はインターホンを押せないイップスにかかっていた…
○:「…」
○:「…よしっ」
ピーンポーン…
無機質な音が流れる…
○:「…」
○:「…あれ、いないのかな…」
俺は無機質な音ををもう一度聞いた…
麻衣は今、家にいないみたいだ…
…
俺はここで帰るわけにもいかず、少し待って見ることにした…
…
…
…
○:「…」
ピコンッ
○:「…!!」
麻衣から、LINEがきたかと考え、俺は通知を見た…
真夏とのLINEを終わらせた俺は、麻衣の家を離れて、自分の家に戻った…
…
…
ただいま…
俺はいつもより、格別に小さい声で言った…
誰も、いないだろうと思っているからだ…
○:「…」
○:「あれ?」
玄関には、1足の靴がある…
誰の靴か、覚えてないけど…
足の大きさで、大体把握はできる…
○:「あっ、食べてくれてる…」
ラップを剥がして、完食した跡がある…
それだけで、少しだけ、ほんの少しだけ嬉しい気持ちになる…
○:「…美波ちゃん?」
俺は美波ちゃんの部屋に、ノックをした…
○:「開けるよ…」
俺は恐る恐る、ドアを開けた…
○:「えっ…」
部屋の中に、美波ちゃんはいなかった…
リビングにも、トイレにも、キッチンにも…
美波ちゃんの気配はない…
靴があるってことは、部屋の中のどこかにいるだろう…
俺は1人でくまなく部屋を探した…
…
…
○:「…美波ちゃん?」
梅:「はっ!!?」
○:「美波ちゃん!?」
美波ちゃんは怖がった顔で、こっちを見る…
美波ちゃんは、お風呂場にいた…
湯船にはお湯…
服を着てる美波ちゃんの手にはカミソリがある…
○:「ダメっ!!」
やりたいことは全てわかった…
けど、そんな考えにたどり着くより前に、俺は勝手に手が動いていた…
梅:「あっ…!!」
美波ちゃんは落としたカミソリを拾おうとする…
俺はそんな美波ちゃんを…
バチンッッ……!!
梅:「痛った…!!」
美波ちゃんの頬を、叩いた…
○:「何てこと…なんてことしたんだ…!!」
梅:「なんで、なんで止めるんですかっ!
私なんていなければ!○○さんだって罪悪感なく結婚出来たのに!」
梅:「私たちなんて…私なんて必要ないんでしょ!」
梅:「信じてたのに…私。
○○さんなら、私たちを選んでくれるって…」
○:「美波ちゃん…
それは、ほんとに間違いなんだ…」
梅:「でも…!!」
○:「たしかに、キスをしたところを見られたのは、良くない事だった、ごめん…」
○:「でもあれは…」
…
…
…
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白:「はぁ?
別れのキス!?」
真:「うん…」
私は真夏から、この前の日のことを聞きに、自ら向かっていた…
真:「まいやんが、帰ったあの日のあと、○○は7人で住む話を紹介してくれたんだ」
真:「でも、それは私から断った。」
白:「そうなの?」
真:「…どうせ、まいやんが納得するわけないの、分かってたし」
白:「…」
真:「でも、○○は○○なりの優しさで…
2人で建てた家だから…
俺から住んじゃダメ、なんて言いたくなくて…」
真:「俺より辛い経験をしてた真夏に、そんな言葉はかけられないって…」
真:「どうにか説得できるように、考えてみる…って進んじゃって」
白:「それであんなに押してきたのか…」
真:「でも、真夏が住めても、結婚はできないってそれは言われてた。」
真:「俺はもう、4人の父親なんだ…
麻衣と、夫婦のような関係なんだ…って」
白:「えっ…」
真:「○○って、バカだよねっ
そんなこと言われて、家にだけ住みたい、なんて思えるわけないのに…」
白:「…」
真:「で、まいやんからダメって言われた報告だけ受けて…
私は、最後に家の外観だけ見に行きたい、って言ったの。」
白:「…そこでキスしたと。」
真:「うん。私たち、結婚生活が始まった時、行ってきますと、おかえりなさいで、絶対にしてたの。」
真:「だから最後に、お別れのキスだけちょうだいって言って…」
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…
○:「美波ちゃんを傷つけるつもりでやったわけじゃないんだ…」
○:「ただ、家を真夏と見た時に、真夏とのそういった思い出、忘れてたのを思い出して…」
○:「許して欲しい、なんて言えないけど…」
…
…
梅:「ごめんなさい…!!ごめんなさい!!」
美波ちゃんは泣きながらそう言って、崩れるように倒れそうになる…
○:「おっとっと…!!」
そんな美波ちゃんを俺は支えた…
ぎゅっ….
○:「もう…こんなこと、しちゃだめだよ?
自殺したら…ぜーんぶ終わっちゃう。」
梅:「私、勘違いしてて…
結局、私たちは、こうなるのかなって…」
梅:「○○さんのように、どんなに優しい人が来て、その時は助けてくれても…
その人にはその人の事情があって、人生があって…ずっと、1人で生きてくことになるのかなって…」
美波ちゃんは、俺の肩を濡らしながら、そう言った…
○:「…違うよ
美波ちゃんは、いっぱいいるじゃん…」
○:「桃ちゃんも、史緒里も、祐希ちゃんも…
大切な存在がいるじゃん…」
○:「麻衣だって…俺だって。」
○:「命を絶っちゃったら、もう、その人には会えないんだよ…」
梅:「…出来ませんでした」
○:「…?」
梅:「もちろん、死が怖くて…
そんな気持ちもあったと思います」
梅:「けど…」
梅:「切ろうとした瞬間…」
梅:「みんなの…」
梅:「楽しい思い出ばっか出てくるんです…」
梅:「桃子が笑顔になった時とか…
祐希が元気だけじゃなくなったりとか…」
梅:「…○○さんと、オムライス作ったりとか」
梅:「そればっかり思い出して…
切れなかったです…」
○:「俺も…婚約破棄、された時はそう思った。
自殺しても、いいかなって…」
○:「でも、違うの。」
○:「俺の事を、好きでいてくれる人が、愛してくれる人が、悲しむの…
それは、恋愛的な意味だけじゃなくて…」
○:「こういった…家族愛も、同じだよ。」
梅:「…」
美波ちゃんはただ、俺の肩にうずくまる…
○:「俺は…」
○:「俺は自分の命より…美波ちゃんの方が大切だから!
だから絶対、守りきるっ…!!」
梅:「○○さん…」
美波ちゃんは泣きながらに、ただ頷いた…
…
…
…
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"ただいま〜っ!"
梅:「おかえりっ!」
俺が言う前に、大きな声で美波ちゃんが3人にそう言った…
桃:「みなみん、どうしたの?」
与:「あっ!もしかして!○○さんと、仲直りした!?」
梅:「うん!そうだよっ!」
久:「よかった〜っ!美波、ほんとに元気なかったから…治ってくれてうれしい!」
梅:「心配かけて、ごめんね?」
久:「ううん、元気なら大丈夫!」
与:「みなみん、ゲームしよっ!」
梅:「うん、いいよっ」
○:「じゃあ俺は、夜ご飯作っちゃうね」
与:「やったぁ!今日は何ですか?」
○:「美波ちゃん、何か食べたいものある?
なんでもいいよっ」
梅:「じゃあもちろん…」
ピーンポーン…
○:「あっ、ごめん…
歯切れ悪いなぁ…」
俺が玄関の扉を開けると…
○:「麻衣…と、」
○:「真夏!?」
○:「どうしたの?」
久:「麻衣さんだ!!」
与:「えっ!麻衣ちゃんっ!!」
白:「みんな、ごめんね最近来てなくて…
美波ちゃん、呼べる?」
梅:「あっ、何ですか…?」
白:「真夏から、話したいことがあるって」
梅:「えっ?は、はぁ…」
真:「美波ちゃん…だよね?」
真:「この前、私と○○がキスしちゃったことに、凄く、怒ってたのを聞いて…
ごめんなさい…」
梅:「あっ、その事…
全然大丈夫ですっ!
もう解決したんですっ!」
梅:「私、てっきり真夏さんと2人で過ごすって勘違いしちゃって…私が悪いんです」
白:「えっ…美波ちゃん知ってたの?」
梅:「はいっ
さっき○○さんに、全て教えて貰いました」
真:「も、もう知ってたんだ…
私、てっきりまいやんみたいに、怒られるのかなって思ってて…」
白:「ん?」
真:「いや、まいやんそういう事じゃなくて!」
白:「じゃあどういう意味で言ったのよ〜!
大体真夏と○○がキスしたこと自体は事実でしょうが〜!!」
麻衣は真夏の頭を両側から押すように力を入れる…
真:「まいやんっ!やめてってばぁ!」
桃:「ま、麻衣姉さん…?」
○:「えっ」
4人は…困惑していたが、俺は…
梅:「そういえばそれはそうですよね…?○○さん」
○:「…えっ」
美波ちゃんに睨まれる…
梅:「なんて、冗談ですよっ」
真:「じゃあ、私はそろそろ帰るね
皆さん、おやすみなさい。また。」
真夏は笑顔で帰っていった…
与:「みなみん、ゲームゲームっ!」
梅:「うんっ!」
久:「しおりもいれて〜っ!」
桃:「桃子もやるっ」
○:「ねぇ、麻衣…」
白:「ん?」
○:「戻ってきてくれて、ありがとう」
白:「もちろん!」
○:「…」
白:「真夏から、最後に聞いたよ」
○:「ん?」
白:「真夏に言ったんだってね」
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…
○:「ごめん、真夏と住むことが出来ても…
元には戻れないし、結婚もできない」
真:「…そっか」
○:「俺は、4人の父なんだ…
麻衣と、夫婦のような関係なんだ」
真:「…」
真:「それってさ…」
○:「ん?」
真:「4人がいるから、まいやんとの縁が切り離せないんじゃなくて…?」
○:「…」
○:「…違うよ」
○:「真夏との事があってから…
こんなメンタルの俺に…」
○:「いつも寄り添って、バカやって笑わせてくれて…時には厳しいこと言ってくれる…」
○:「麻衣が、一人の女性として好きになったんだ」
真:「…」
真:「…そっか」
真:「じゃあ、私も諦めなきゃねっ
楽しかったよ、ちょっとだけの結婚生活」
○:「…あぁ」
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…
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白:「だってよ?」
○:「なっ!真夏話したのかよ…!!」
白:「カッコいいとこ、あんじゃん」
白:「…」
白:「…私も、その気持ちなら向き合いたい。」
○:「…っ」
○:「…麻衣」
白:「…」
○:「結婚、してください…」
白:「もちろんっ!」
麻衣は俺に激しく抱きついてくる…
○:「ぶはぁっ!!」
白:「こんくらいのハグ、ちゃんと受け止めてよねっ」
バタバタバタバタッ……!!
急に扉が開いて、4人が崩れ落ちてくる…
○:「…!!」
白:「えっ!?」
久:「痛ったぁ…
ちょっと祐希押さないでよ!」
与:「だってぇ…あんないい所見れないじゃん!」
白:「みんな、ゲームしてたんじゃないの!?」
梅:「そのつもりだったんですけど~」
桃:「なんかイチャイチャしてるなって!」
白:「なっ、そんな…!」
桃:「だって麻衣姉さん、まだハグしてるもん」
白:「…っ!!」
麻衣は慌てて手を降ろす…
○:「あぁ…重かった重かった
美波ちゃんの2倍あるんじゃないの…」
白:「……あん?」
久:「お兄ちゃん、照れ隠ししてるね」
○:「そ、そんなことねぇって!」
○:「美波ちゃんは軽かった!」
白:「あんた…!!
もぉ許さないからっ!!!」
○:「冗談だって麻衣…!」
白:「ばーかばーか!!」
梅:「まーたイチャイチャ…」
桃:「えへへっ、2人の子供かぁ…」
桃:「桃子、嬉しいです」
久:「史緒里もっ!」
与:「祐希も!」
梅:「私も!」
白:「えへへっよかった」
○:「…」
やっと、俺ら6人家族に…
団欒が、戻った…
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…
…
俺はいつも通り、誰も起きてこないこの時間から、料理を始めていた…
まずは、鶏肉を1口大に切って、玉ねぎを炒めて…
多めのケチャップで味付けしたチキンライスを作る…
梅:「お父さん、おはようっ」
美波が、まずは降りてきた…
桃:「みなみん…桃子のくまさん知らない?」
梅:「えぇ〜?どこやったの…」
桃:「みなみんのせいだ」
梅:「なんでよ〜っ」
桃:「みなみん寝相悪いからいつもどっか飛んでってるもん」
梅:「もぉ〜ごめんねっ、後で探してあげるから」
後ろに着いてきた桃子がそんなことを言う…
白:「おはよっ」
梅:「お母さん、おはよう」
桃:「麻衣姉さん、桃子のくまさん探して…」
白:「な、なにそれ…」
白:「寝室じゃないの?」
桃:「寝室のどこか分からない…」
麻衣も、寝室から目覚めてきた…
桃子だけはまだ、麻衣のことをお母さんと呼ばずに、いつもの呼び方で呼んでいる…
2人はどうせ降りてくるのに時間がかかるから、先に2人分だけ、作っちゃおうか…
卵を解して、塩コショウ…
今日の隠し味も、ここで入れよっ
卵を強めの中火にかけて、膨らんだところだけしっかり潰す…
あとは、チキンライスを乗っけて、手前と奥を、包む…
おふぁよぉ……
あっ、2人が降りてきた…
白:「おっはよ〜っ!」
眠気が完全に覚めた麻衣が、元気になる…
ケチャップを上にかけて…完成っ!
○:「はいっ、これが美波と桃子のっ」
○:「どーぞ」
梅:「わぁ…!!いつ見ても美味しそう…」
いただきま〜すっ!
最初に食べた時とは違い、ひと口を大きく食べる…
梅:「おぃひぃ…」
桃:「今日の隠し味、コンソメ?」
○:「おぉ、桃子よくわかったね」
桃:「おいしいよ」
○:「3人分すぐ作っちゃうからねっ」
…
…
…
いただきま〜す!
与:「おぃひぃ…」
白:「やっぱり、○○の料理は格別!」
久:「朝からオムライスでも、全然胃もたれしないね!お兄ちゃん!」
○:「うんっ」
史緒里も、まだ俺の事をお兄ちゃんという…
まぁ、どっちでもいいやっ
梅:「ねぇ、しおりと祐希、あと5分で出るけど間に合うの?」
美波がそう言って…
与:「ほんとだ!」
慌てて2人はオムライスを掻き込む…
梅:「もぉ、しっかりしてよ」
久:「お兄ちゃん、ごちそうさま!」
○:「はーい」
梅:「祐希、ほんとに大丈夫なの?
ちゃんとしなさい…」
与:「だいじょぉぶ…」
マイペースな祐希を怒る美波。
これも、いつも見る光景だ…
梅:「ほら、祐希バッグ!」
与:「うん」
梅:「みんな準備できた?」
久:「うん!」
桃:「桃子も大丈夫だよ」
梅:「じゃあ、2人とも…」
"いってきます!"
4人はそう言って、いつもの帰る場所を背に、学校に向かった…
…
4人とも、行ってらっしゃい。
…
…
『このシェアハウスが、私たちの帰る場所です。』
fin
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