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『女神に恋する1分30秒』




蓮:「から揚げ1個、かしこまりました!」

蓮:「ご一緒に骨付きチキンはいかがですか?」

"いや、要らないです。"

蓮:「かしこまりました、お会計830円です!」

○:「…」


俺は今日も、列に並びながら大学近くのコンビニの可愛い店員さんを見つめていた…


山:「そんなに気になるなら、話しかければいいのに」


○:「む、むりだよぉ…」


山:「女の子って目線意外と気にしてるんだよ?」

山:「いつも私の事見てくれてる子だ!ってなってるかもよ?」


○:「…ないない」

山:「そんなんじゃいつまで経ってもそのままだよ?」

○:「…いいんだよ、このくらいの距離感で」

○:「客と店員」

○:「この線を超えちゃダメなの」

山:「ふーん…私には分かんないや」

○:「山下は…男からしたら距離縮められるの嬉しいから…」

○:「だって…かわいいし…」

山:「えへっっ…,,
ねぇねぇ、もう1回言って?」

○:「えっ…やだ…」

山:「なんでよ!」


蓮:「お次のお客様、こちらへどうぞ〜!」

○:「えっ…」

山:「あっ!可愛い子が接客してくれるよ!!
頑張って!」


○:「声が大きいっ…」

山下にそんなこと言いながら、俺は吸い寄せられるように可愛い子の前に駒を進める…



○:「これ、お願いします」

蓮:「いらっしゃいませ!
お預かり致します!」

蓮:「只今骨付きチキンを50円引きで販売しております!ご一緒にいかがですか?」


店員さんは煌びやかな笑顔を僕に振りまく…

○:「じ、じゃあそれもっ…,,」

蓮:「ありがとうございます!」


そんな言葉と共に、ギア1つ上がった笑顔をくれる…


蓮:「ご一緒に新発売の生チョコソフトクリームもいかがですか??」

○:「そっ…それもっ」

蓮:「当店で使えるポイントカードはいかがですか?本日より使えますよ!」

○:「それもっ!くださいっ…,,」


蓮:「ありがとうございますっ!」


○:「あぁ…」

○:「お金が…」

山:「勧められたものバンバン買うからでしょ」

○:「だってぇ…」

山:「1秒の営業スマイルだよ!?
なんでそんなになっちゃうの!?」

○:「だってあんな可愛い子…他にいないよ」

山:「たしかにめちゃめちゃ可愛いけどさ?
言っても作り笑顔なんだからね?」

○:「店員さんが作り笑顔するのは当たり前じゃん」

山:「だから、そういうことよ
当たり前の笑顔の1人」

○:「山下…」

○:「さっきと言ってることが違うんだけど…」

山:「えっ、そうかな…??」

○:「うん」

山:「でもとにかく!もっと仲良くなりなっ!
笑顔貰うためにいっぱい買うんじゃなくて!」

○:「う、うん…」

そうは言っても…

蓮:「ご一緒にアイスを買っていただくと、次から使えるドリンクの無料クーポン貰えますよ!」

○:「あ、じゃあそれもぉ…,,,」

蓮:「焼き鳥はいかがですか?
2本買うと1本分半額になるんです!」

○:「そぉっ!それもぉ…!!」



また、また負けた。

どうやってもあの笑顔でオススメされたら断れない…

ただ、財布の中身だけが消えていく…


山:「ばーか。」


山下は呆れてこんなことしか言わない…

○:「もういい!!
俺は一生あの子に貢ぐんだ!!」

山:「実際にお金持ってくのは知らないおっさんだよ?」

○:「っ…」

山下に核心を突かれて胸が痛くなる…

○:「まぁ…いいや
俺も、バイト行く…」

山:「りょっ、じゃーねー」


"ほら、生!早く持ってけ!!"

○:「すみません!」


○:「はい、すいませんお待たせしました〜」

○:「生2つですね」

"次、ポテト4卓!"

○:「はい!」


今日は、華の金晩…

サラリーマンだったり、大学生軍団だったり

色んなタイプのお客さんがごっそりと現れる…


"もう一個、3卓に持ってって!"

○:「はい!」

○:「お待たせしました〜
生と冷やしトマトですね〜」

○:「…ってえっ!!?」

蓮:「…」

蓮:「…あっ!」


目の前には、女神が1人でから揚げを頬張っていた…

蓮:「いつもいっぱい買ってくれる人!!」

○:「…えっ」

蓮:「れんか覚えてるよ〜」

蓮:「いつも新商品オススメしたらいっぱい買ってくれるの嬉しいよっ」

○:「お、覚えてたんですね」

○:「ていうか…ひとり?」

蓮:「あ!なんだ~?」

蓮:「金曜の夜に1人で寂しいやつ!とか思ってたりする??」

○:「そんなことは…ないですけど」

勝手に、お友達多そうなイメージあったから…

蓮:「れんかね、パーッと飲む時、1人が好きなの」

○:「そ、そうなんですね…
というかホントに、20歳超えてます…??」

蓮:「いや超えてるんだけど!!
入る時も年確されたし!」

蓮:「悔しい…」

○:「いや、ごめんなさい…」

蓮:「いいのいいの
いつもの事だから」

○:「でも、岩本さんが成人してるの、驚きました」


蓮:「…苗字、知ってるんだ笑」

○:「えっ?」

○:「あっ、いやだって…」

蓮:「れんかとしか言ってないけど…?」

○:「…いや、はい」

○:「知ってましたよ」


いつも「岩本」ってバッチ見てるから…


蓮:「名前覚えてるなんて嬉しい
ねぇねぇ、何時に上がるの?」

○:「僕は…今がラストの1時間です!」

蓮:「上がったら一緒に飲まない?」

○:「えっ?一人がいいんじゃ…?」

蓮:「ばれちゃったもんね、しょうがない!」

○:「のみたいです!!」

蓮:「やった〜!
じゃあそれまで1人飲みして待ってるね〜」

○:「はい!」


女神と約束が出来たおかげで、俺の最後の時間はあまりにも長く感じた…


早く8時になれ……

ただそれだけを思った作業は、やはり足が乗らない…

おそらく、世界で1番長かった1時間であろう…

○:「あがります!!」

ただそれだけ一言を残した俺が、世界一早く着替えを済ませる…

○:「岩本さん!!」

蓮:「えへぇ〜おつかれぇ〜っ!!」


40分前に見た岩本さんより、酔った影響で明るくハイテンションになっている…

蓮:「じゃっ、かんぱーいっ!」

○:「かんぱいっ」


蓮:「いつもの女の子は一緒じゃないの?」

○:「あっ、山下ですか?
あの子は同じゼミの子なんです」

蓮:「へぇ〜
彼女じゃないんだね」

○:「山下が?」

○:「アイツモテますけど…
性格ひん曲がってますからね?」

蓮:「まじ〜??」

○:「面白いしいい子ですけどね」

蓮:「毎日あのコンビニ来るってことはさ、○○くんと山下ちゃんって、乃木大??」

○:「そうですよ!」

蓮:「だよねぇ〜
れんかも入りたかった」

○:「岩本さんは、どこなんですか?」

蓮:「のぎじょだよ〜」

○:「えっ、めっちゃ近いじゃないですか!」

蓮:「ぶんがくぶ〜」

○:「どういうことしてるんですか?」

蓮:「なにもしてない
遊ぶための学部だよ」

○:「えっ」

蓮:「ねぇ、引かないでよ〜」

○:「いやいや引いてはないですけど」

岩本さんってこういうタイプだったんだ…

蓮:「けど?」

○:「いやなんか、面白いなって」

蓮:「そういう○○くんは学部なんなの?」

○:「えっと…」

○:「薬学部です…」

蓮:「うぇっ
れんかとは正反対だ」

蓮:「もしかして山下ちゃんも?」

○:「そうですそうです」

蓮:「2人ともすごいなぁ」

○:「岩本さんって、3年生ですか?」

蓮:「ちがうよ4年生!」

○:「…えっ」

蓮:「…なに?」

蓮:「もっと子供に見えた!!?」


岩本さんは鋭い剣幕で言ってくる…


○:「い、いやぁ…
2年生なのかなって」

蓮:「んぅ〜!!!」

○:「いや、僕も2年生なんですよ
同い年かなって思ってて」

蓮:「2個下なんだ…??」

○:「岩本さんが、2個上…」

○:「先輩なんだ」

蓮:「そっ」

蓮:「ちゃんと敬ってね!」

○:「そ、それはもちろん!」

蓮:「ねーねーじゃあさ
連絡先、交換しよ!」

○:「えっ、いいんですか!?」

蓮:「うん!」

○:「はい!どーぞ!」

蓮:「はーい」

蓮:「げっちゅ!」


蓮:「じゃ、そろそろ帰ろっか」

○:「そうですね、ありがとうございました!」



女神と初めてのフリートークが終わった…

なんか、夢みたいな一日だったな…


山:「えっ!?一緒に飲んだ!?」

○:「うん」


次の日、山下に話すと、やはり驚いていた…


山:「で、どうなったの!?」

○:「どうって…」

○:「飲んだよ」

山:「えっ、その後は!」

山:「何も無いの?」

○:「ないよ…」

山:「意気地無し!」

○:「そんな事言われても…」

山:「連絡先くらいは交換マストでしょ!」

○:「あぁ…そゆことね…」

○:「それはしたよ」

山:「してんじゃん!」

山:「LINE見せて!」

○:「や、やだ!!
ぜったいにやだ!」


スマートフォンを肌身離さず持つ…

山:「なんでよ〜
アドバイスしてあげたのに」

○:「あ、でも岩本さん
山下のこと気にしてたよ」

山:「えっ?どんなこと?」

○:「モテるんだろうなぁとか」

○:「言ってた」

山:「えぇ〜嬉しい!!」


○:「だから性格ひん曲がってるよって言っといた」


山:「はぁ!!?」

山:「こんなに優しくしてあげてるのに!
恩人にする仕打ちですか!?」


○:「ごめんごめん
でも、いい子だよって言っといたから」

山:「フォローになってないよ」

○:「…」

○:「…でも、今なら断れる気がする!」

○:「いっぱい買うの!」

山:「いまさら?」

○:「うん」

○:「行ってみるね」

蓮:「いらっしゃいませ〜!」



もはや日課になったこの状況…

今日もきらびやかな笑顔をお客さんに撒き散らす…





蓮:「次のお客様、こちらへどうぞ〜!」

○:「…よしっ」

○:「これ、お願いします」

蓮:「わぁ、お疲れ様っ!!」


第1撃、岩本さんの全力笑顔から入る…


○:「お疲れ様です」

蓮:「じゃあ〜
今日はアメリカンドッグ!」

蓮:「揚げたてでおいしいよぉ〜?」

○:「…いらないです」

蓮:「…えっ」

蓮:「じゃあじゃあドリンク!
もう一個買うとクーポンもらえるよ?」

○:「い、いらないっ…」

蓮:「えぇ…」

蓮:「いつもいっぱい買ってくれる○○くんが好きだったのになぁ…」

○:「えぇっ……,,,」

蓮:「いーっぱい買ってくれたら、れんかも嬉しいなぁ…?」


岩本さんは火力の高い上目遣いをしてくる…


○:「…っ,,,」

○:「ぜ、ぜんぶください…,,,」


蓮:「はぁ〜いっ!」

瞬時に元気になる岩本さんを見て、俺も満足をする…


蓮:「どうしたの今日は断っちゃって…」

○:「いや、たまたま…」

アメリカンドッグを温める岩本さん…

蓮:「そういえばれんか…」

蓮:「遊園地に行きたいんだよねぇ…」

○:「…??」

蓮:「れんか、誰かが誘ってくれるの待ってるんだけどなぁ…?」

○:「…,,,」

い、岩本さんと、遊園地!!?


蓮:「はいっ、アメリカンドッグ!
ありがとうございました〜!」

山:「はぁ、今日も断りきれてないと」

○:「ふぉんなんひぁないから…」


俺はアメリカンドッグを口に咥えて抵抗する…

山:「ほんっと、だらしない…」

山:「なにか収穫、あったの?」

○:「あっ、多分…」

山:「あったの!?」

○:「岩本さんが、遊園地行きたいなぁ…?って
誘い待ちしてて…」

山:「誘ったの?」

○:「いや、まだ…」

山:「…はぁ!!?
なんで誘わなかったの!?」

○:「いや、その時はびっくりしすぎて…!
あとでLINEで誘えばいいやって思ったから…」

山:「だめだめ!」

山:「直接ちゃんと言わなきゃ!」

山:「ほら、戻る!!」

○:「えっ…今?」

山:「あたりまえだよ!」

○:「うん…」


というわけで、本日2度目の…


蓮:「いらっしゃいませ〜!」

○:「…」


なんか、タイムスリップしたような感覚だ…

蓮:「次のお客様、こちらへどうぞ〜」


○:「…」

俺は買うものが無さすぎて、ちっちゃい爽健美茶を一本だけ持ってレジに並ぶ…

蓮:「あれ、2回目珍しいね」

○:「うん」

蓮:「アメリカンドッグ、おいしかった?」

○:「あ、うん
おいしかったです」

蓮:「だよねぇ〜!
れんかもすきなの!」

蓮:「じゃあ次は、フランクフルト…」

○:「あっ、それはいらないです…」

蓮:「えぇ…」

○:「それより…
お話がしたくて」

蓮:「ん?」

○:「今度、一緒に遊園地、行きましょ!」


蓮:「…」


○:「…」

コンビニのドアが開くSMだけ流れる…

蓮:「…んもぉ
さっき言ってくれなかったの、ちょっと傷ついたんだからね」

○:「ご、ごめんなさい…」

蓮:「今度予定合わせよっ!」

○:「あ、ありがとうございます!」

客と店員の一線を超えた瞬間だった…


蓮:「おまたせっ!!」

○:「あっ、岩本さん
お疲れ様です」

蓮:「もしかしてまたせちゃった?」

○:「あっいや…
今来たところですよ」

蓮:「うそつけっ」


蓮:「なんか、緊張してる??」

○:「…ちょっとだけ」

蓮:「じゃあ、岩本禁止令!」

○:「…は?」

蓮:「今日、岩本さんって言うの禁止!
れんかって言わないとダメね!」

○:「えぇ…」

○:「先輩だし…」

蓮:「だめ!」

○:「…」

○:「…れんかさん
じゃ、だめですか…?」

蓮:「えぇ〜?
さん禁止にすればよかった…」


ちょっとだけ不服そうなれんかさん…

○:「まず、何乗りますか?」

蓮:「あれ、のりたい!」

れんかさんはメリーゴーランドを指差す

○:「…かわいい」

蓮:「なんだよ〜
子どもじみてるって?」

○:「いやいや、乗りましょっ!」

蓮:「やったぁ〜!!」


ぴょんぴょんとはしゃぐれんかさん…

俺はその後ろ姿を、こっそり写真に納めた…


そして俺らは回転木馬に乗った…


パシャリ…

○:「あ、撮りました?」

蓮:「えへへ!
回転木馬に乗る○○くん可愛い」

○:「こうなったら!」

負けじと俺もれんかさんを撮り返す…

蓮:「あー!
不意打ちはだめだめ!」

○:「じゃあ決めポーズしてくださいっ!」

れんかさんは笑顔のまま、ウインクをする…

○:「うわ!これめっちゃいい!」

蓮:「なんかちょっと恥ずかしいな…」

○:「これアイコンにしよっかなぁ」

蓮:「えーやめてよ!」



やがて、回転しだした…

蓮:「○○くん!楽しいー!?」

○:「たのしいです!!」

蓮:「私もめーっちゃたのしー!」



蓮加さんがずっと、笑顔のまま、ついてくる…

どんなに頑張ろうと埋まらないこの差…

しあわせだ…



蓮:「ふぅ、楽しかったね!」

○:「そうですね!
次はなに乗りたいですか?」

蓮:「○○くん、何か乗りたいのないの?」

○:「えっと…」

蓮:「なんでもいいよ」

○:「なんでも、いいんですか?」

蓮:「うん!」


○:「…,,,」

○:「じゃぁ…あれ」


俺は観覧車を指差した…


蓮:「うん、いいよっ」


○:「…」

俺はポッケに入ってるネックレスの入っている箱を、もう一度確認する…


蓮:「ふぅ、さっきより落ち着くね」

○:「そ、そうですかね…,,,」


俺の気持ちは、むしろ真反対だった…

なにか、すごいドキドキするし、

ここで言うべきなのかと考える…

今、この時間に観覧車を選んだことを後悔したりもしている…

対面にいるれんかさんの顔が見れない…


蓮:「ねぇ、隣行ってもいい?」

○:「えっ…??」

○:「ど、どうぞ…」

蓮:「やったね」



れんかさんが、隣に座る…

心臓の鼓動が、れんかさんに聞こえてないか心配になってしまう…



蓮:「ねぇねぇ、」

○:「なんですか…,,,?」


蓮:「手、繋いでもいい?」


○:「えっ…,,,」

そんなこと言うれんかさんは、いつものあざとかわいいれんかさんの釣りではなく、真剣な顔だった…


れんかさんは、手を握ってくる…

蓮:「つめたいね」

○:「そ、そうかな…??」

蓮:「見て?」

蓮:「めっちゃ高いよもう…」

○:「…」

○:「…れんかさん」

蓮:「ん?」



俺は繋いだ手を離す…

蓮:「…」


れんかさんが、ちょっと悲しい顔をする…

○:「…これっ」


俺は、ポッケの箱をれんかさんに見せる…


蓮:「ん?」

○:「ネックレス、です…」

蓮:「…??」


俺は、れんかさんの首周りに手を動かし、ネックレスをつける…



蓮:「…,,,」

○:「僕は、れんかさんを初めて見た時から…
レジでちょっとでも喋るあの時間が、好きでした…」

蓮:「…」

○:「れんかさん…」



○:「大好きです」



俺はれんかさんの唇に、玻璃に触れるようなやわらかなくちづけをした…

『女神に恋する1分30秒』

fin

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