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「わかり合う」ために、突き詰めるんだ。

「わかり合いたい」的なことを言う人は多い。自分のことをわかってほしいという人はもっと多い。しかし実際に異なる考えの他者とわかり合おうとして話をすると、どこかで必ず妥協が入る。諦めが入る。実際的な対人関係において、100パーセント完全にわかり合えることはほぼない。そもそも100パーセント完全にわかり合っていなければ人間関係をやっていけないということはまったくない。わかる部分はわかり、わからない部分はわからない。基本的にはそれでいい。ただ、もしも本当に異なる考えの者どうしが“一切の妥協なくわかり合うことができる”としたら。もしもわかり合うことを諦めなくていいならば、それはきっと他には代えがたい喜びだ。

ついぞ忘れられがちだが、異なる考えの者どうしが一切の妥協なくわかり合うには、お互いに徹底して自分自身の考えを突き詰めていることが大前提となる。しかし、実はそこまで自分の考えを徹底的に突き詰められている人というのは本当に少ない。ほとんどの人がどこかの誰かから聞きかじった言葉や一般的な社会通念に引っ張られており、何やら中途半端なところで話が空中浮遊する。他人に共感して、それをそのまま自分の考えだと思い込んでいる。要するに「突き詰めが甘い」のである。突き詰めの甘い者どうしがいくら議論を交わしたとて、わかり合うなんて夢のまた夢だ。場合によってはわかり合うどころか批判し合ってしまう。その段階ではまだ、話し合うよりも棲み分けていた方がいい。理解しなくていいし、されなくていい。お互いの安全のために棲み分けていればいい。「じゃ、お元気で!」と唱えて、あなたは一刻も早く安全な場所に逃げた方がいい。

日本の教育では、学校でひたすら暗記をさせられる。疑問を持つ、考えるということの仕方を誰からも教わらない。考える筋力が養われていない大人たちは、大人になって初めていろいろなことに疑問を持つ。そして陰謀論や謎の健康ビジネス、新興宗教や怪しげな自己啓発セミナーみたいなところにころっと行ってしまう。「本当のことを知っている誰かに教えてもらいに」行ってしまう。「本当のことを知っている誰かの言葉を鵜呑みに」してしまう。そういうふうにしか何かを学ぶ方法を知らないからだ。そういうものを求めている人は、僕の文章を読まなくていい。自分がどう生きたらいいのか他人に教えてもらいたい人に向けて僕は文章を書いていない。この世界には、自分の頭で考えたい人がいる。自分の頭で考えなくては生きていけない人がいる。そういう人に向けて、僕は文章を書いている。

「正しさ」とは何か。

昨今のさまざまな世界情勢の中で、何が正しくて何が正しくないのかわからないという感想を抱いた人は多いはずだ(僕もその一人だ)。その感覚になった人には救いがある。逆に言うと「これが正しい」と思える何かを見つけてしまった人は危うい。「正解」を見つけてしまった人は危うい。この世界には正しいことがあって、自分もみんなもそれに倣うべきだと思っているタイプの人というのは、ある種の硬直した価値観の人生から抜け出すことができない。自分の正しさを標榜すればするほどに、世界や他人、あるいは自分自身の「正しくなさ」への怒りや不満を抱えながら、結果的には「正しさ未満の人生」を生きてしまうことになる。自分の正しさや評価基準で他者や世の中のすべてを測れると思い込み、自分の身体をぐるぐる巻きに縛っている状態だ。

何が正しくて何が正しくないのか。結論は至極簡単で、この世界にはそもそも正しいことなど存在しないのである。そして「この世界には正しいことなど存在しない」という視点に立ったとき初めて「わたしはどのように生きたいのか」を問うことができる。「わたしはどのように生きたら良いのか」ではない。「わたしはどのように生きたいのか」だ。それに準ずるものは社会や他人の意見と無関係に「わたしはわたしにおいて正しい」。

わたしを取り戻す3段階。

レッスン1.催眠からの逸脱

「わたしはどのように生きたいのかを問う」という仕事はそう簡単なことではなく、かなりの霊的な筋力を必要とする。この世の中にはありとあらゆる企業広告マーケティング、政治的なプロパガンダなどのさまざまな思惑がはたらいているからだ。ほしいと思ったものをほしいと思わされているだけのことがある。やりたいと思ったこと、行きたいと思った場所、食べたいと思ったもの、聴きたいと思った音楽を、ただ単にそう思わされているだけのことがある。怒りや嫌悪を感じるニュースに対して、怒りや嫌悪を感じさせられているだけのことがある。簡単に言えば催眠術だ。「あなたはだんだん○○したくなる」。資本主義社会では、それぞれがそれぞれの利益を得るために世の中全体をあげて大規模な催眠術合戦が行われている。嘘だと思うだろうか。やる側の立場に立てばわかる。そういうことをしていないほうが不自然だ。まずはそういった類を一切無視すること。広告が目に入らないようにすること。もうひとつは教育システムだ。こういうことをするのは良いことで、こういうことをするのは悪いことですと教育されて僕らは育つ。教育と言えば聞こえは良いが、言ってしまえば洗脳だ。すべての教育が(共同体の社会秩序を維持するために必要な)洗脳だ。道徳、社会常識、コンプライアンス、リテラシー、善悪すらも洗脳だ。この世にかけられた催眠術と洗脳。広告と教育。まずはそういったものをひとつひとつ脱ぎ捨てていくプロセスが第1段階だ。

レッスン2.世界探求の旅に出る

これだけでもすでに途方もない作業なのだが、まだまだ序の口、これで終わりではない。次のレッスンは「いまこの世界にはどんなものがあるのかを見て回る」という段階だ。社会通念、親の教育、道徳、企業マーケティングなどをすべて無視した上で、自分の目でさまざまなものを見て、自分の足でさまざまな場所に行くことだ。世界にはどんなやつらがいて、どんなことを考えてどんな人生を生きているのかを知ることだ。さまざまな場所に行くと言っても、週末に旅行に行って観光地を回ってまた日常に帰る、みたいな旅では全然だめだ。自分の人生をまるっと持っていく探求の旅でなくてはならない。帰る場所のない、帰るつもりすらない、どこに辿り着くのかさえわからない旅をすることだ。世界と言っても、必ずしもワールドワイド的な意味ではない。「この世界」のことだ。「この世界にある、まだ知らない世界」のことだ。知らない世界に身体ひとつごと飛び込んで、ひとつひとつの出会いと出来事を自分の目と足で経験する旅に出ること。自分のまったく知らない世界のことをペラペラ喋る人の話を面白がって聞いていれば、見える世界はおのずと広がっていくだろう。

レッスン3.「あなたはあなたにおいて正しい」と知る

さて、最終段階だ。催眠と洗脳を解き、足で世界を見て回り、「わたしはどう生きたいのか」が次第に明確になったなら、今度はそれを他人に広めよう、教えようとしてしまう人がある。しかしよくよく考えてみてほしい。「わたしはどう生きたいのか」をあなたが本当に突き詰めたというのなら、“こんなこと自分以外誰もしなくていい”というところまで行き着いているはずだ。“今この景色を、自分以外世界で一人も見ていない”というところまで行き着いているはずだ。逆を言えば、そこまで行き着いていないならまだまだ突き詰めが甘い。自分と同じことが他のみんなにも普遍的にできると思っているのなら、真似できるレベルのことをやっているのなら、まだまだ突き詰められていない。しかも最初にも言ったように、そもそもこの世界には正しいことなど存在しないというのがこの話の前提だ。わたしがこれまで獲得してきた「わたしにおける正しさ」は、わたしとわたしに似ている誰かにおいてはそれなりに有効かもしれないが、わたし以外のすべての他者にとって同じように有効とは限らない。鳥が空を飛ぶための技法と海亀が産卵のために陸に上がる作法は違う。「わたしはどう生きたいのか」を最終的なところまで突き詰めた者どうしでは、「わたしはわたしにおいて正しく、あなたはあなたにおいて正しい」。両者ともにこの視点に立って初めて、お互いの異なる正しさを「わかり合う」ことができる。

ここまで読めばおわかりかと思うが、他者と100パーセントわかり合うというのは、逆に細かな部分では100パーセントわかり合“わ”ないことを意味する。「わかるわけない」というレベルのことを「わかりあえる」のだ。そしてその境地に至るには、お互いがお互いの人生すべてをかけた途方もないリソースが必要になってくる。こっちも縣けてる。あっちも懸けてる。夢はいつか必ず叶うとか、自分にもできたからあなたにもできるとか、そのレベルの突き詰めの甘い者どうしがいくら話しあったところで中途半端な後追いと妥協と空想論にしかならない。その段階であれば、美味しいものを一緒に食べたり、美しい景色を一緒に見たりなどをして「わかちあって」いれば十分だ。

最後に

もしも突き詰め方がわからないなら、これだけ覚えているといい。「良い本に触れ、体で感じる」。幸いこの世界では知性への門が意外と誰にでも開いている。学校に通う必要はない。良い本を読めばいい。教育されずに教養を磨けばいい。そして本やネットの記事を読んで頭で何かをわかった気になるのではなく、実際に肉体で感じることだ。頭の中の理屈ではなく、身体的な体験の中に飛び込むことだ。「良い本に触れ、体で感じる」。このふたつを心がけていれば、あなたはあなたの考えを取り戻すことができる。

他の誰でもないあなたの旅が、美しい旅でありますように。この文章が、あなたの道行きをどこかで光照らしますように。

次回、4/8㈯更新。「ステキで楽しいは最強の魔法」。

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