連続恋愛小説【Re:】最終話
その翌日から、彼がアパートに戻ることはなかった。朝も昼も夜も、アパートのチャイムを押したが応答はなかった。
メールを送ってもアドレスを変えたようで届かなかった。
仕事時間がわからず迷惑かもしれないとか寝ている時間かもしれないなどと控えていたが、勇気を出して電話をかけてみたが一度もつながることはなく、そのうちにこれは着信拒否なのだと気づいた。
はじめての感情をどこにも葬ることができず、悲しみをエネルギーにして、ただただ彼のアパートに通い続けた。
連絡もつかないままニ週間ほどが過ぎると、アパートには彼の友人だという男性が住み始めた。
玄関先であまりに私が泣き続けたので「柊吾はどこかに引っ越した」ということだけは教えてくれた。しかし「新しい住所は知らない」の一点張りだった。
あんなに大事にしていたメイトンギターを置いていくはずがない。その男性に玄関先で泣きながら訴えたが「漫画一本に集中したいとギターも譲り受けた」ということだった。
メイトンも私も、柊吾の未来には必要なくなってしまったのだろうか。あんなにあたたかであった空間や時間も、彼にはもう必要なくなったと?それはいつから?
気づいたら公園のベンチに座っていた。彼といろいろな話をした、あのベンチ。
あれはいつの日だったか。柊吾の好きなギターを、あのメイトンギターにまつわる物語を、柊吾は絵を描いて私がストーリーを考えて共同制作してみようか、なんて話もしたことがあった。
「ミュウは器用だから、デザインする創造力で物語だって作れそうだ」と、笑っていた柊吾は、私の隣に腰掛けることはもうないの?
街角で、駅の改札で、公園通りで、学校で。どこに居ても何をしていても、これからも私はずっと彼の影を探してしまうのだ。「ミュウ」と呼ぶ優しい響きが聴こえて振り向いてしまう。
何がいけなかったのだろう。どこで間違えたのだろう。いつから私たちは同じ気持ちで同じ方向に進まなくなっていったの。いつの時点に戻ったらいいの、どこで気がつけばふたりの未来は続いていたのだろう。
私らしくって一体なんなの。
柊吾がただ隣に居る、それだけでよかった。それ以外望んでなどなかったのに。
柊吾の居ない世界で、どうしたら幸せなんて見つけられるのだろう。どうしたらいいんだろう、どうしたらよかったんだろう。
前も後ろも、右も左も、進むべき道が涙で見えない―。
(Re2: へ続く)