連続恋愛小説【Re:】第五話
太宰よりも芥川、トミー・エマニュエルのギターが好きという共通点で、私たちは急速に仲良くなった。
私は聴く専門だったが、アコースティックギターを弾く彼は、ギター曲の話ができる異性なんてこれまで周りには居なかったと、とても喜んだ。
バイト先という共通点はなくなってしまったけれど、音楽や本の貸し借りという名目で、お互いの自宅からちょうど真ん中あたりにあった公園が私たちの集合場所になった。
彼の出勤時間前の早朝や夕方に待ち合わせして、予定が合わないときはメールで次に読みたい本やオススメの曲について、送りあったりした。
彼はフリーターでも仕送りをもらうことなく自活していて、やりくりして実家に毎月わずかながらも送金しているようだった。
そういった事情があるからか、映画や遊園地や買い物や観光のような、いわゆるデートスポットには彼とは一度も行かなかった。もともとインドアである私もそういったところに出かけたくはなかったし、彼と公園のベンチで会って話すだけで充分あたたかく幸せな気持ちだった。
そのうち私はミュウと呼ばれるようになった。どうしても「みう」とうまく発音できないところも彼のチャームポイントに思えた。私も彼を苗字で呼ばなくなり、隣に居るのがとても自然になってきていた。
お互いの家族の話や、彼の出身地が東北であることや、毎日の他愛ない出来事、大学の苦手な講義やバイト先の変わった客のこと、そして、これからの夢などを話した。話がつきることはなく、楽しい時間というのはいつもすぐに過ぎてしまう。
公園で過ごすには少し肌寒くなってきたある日、いつものベンチに座ると少し緊張した声で彼が言った。
「あのとき、ミュウが俺を信じると言ってくれて本当に嬉しかったんだ。ミュウのことが好きでこれからもずっと一緒に居たいと思うけれど、ミュウはどう?」
もっとも好きな相手に想いが通じるという体験を自分ができるなんて、夢のようだった。こんなにも周りの世界が明るくなり、鮮やかに彩って輝きを放つことも知らなかった。
いつもの公園がいつもの公園ではなくなり、いつものベンチもいつものベンチではなくなった。
(続く)