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連続恋愛小説【Re:】第二話

内向的で友達を作るのが下手な私。唯一話すとしたら、小学校から大学まで腐れ縁的な樹里だけだ。

二十歳になる夏、樹里が言った。

「美羽、バイトしない?」

樹里は私と違い思い立ったら即行動するタイプで、高校生時代から部活にアルバイトやらサークルやらと色々な世界を持っていた。
そして、ことあるごとにその世界へ私を巻き込もうとする。なんだかんだと樹里のペースにいつも流されるが楽しかったことは一度もない。

今回こそは断ろう、固く思ったとき樹里が先に空気を読んだ。

「じつは、バイトの日にダブルブッキングしちゃって。従姉妹の結婚式だったの。バイトを優先するわけにもいかないし、でも登録バイトだから信用第一なわけ。」

要するに、ピンチヒッターとして一日だけ登録制バイトに行ってくれ、というのだ。しかも樹里のなりすまし。

「そんなの絶対バレるよね?」

「大丈夫。学生証は初回しか見せないし、この入館証さえあれば出入りできるし入館証には写真ないし。登録スタッフなんて日雇いで大勢いるから誰も名前と顔一致してないの。その場のノリで適当に動いている風にしていれば一日なんてすぐ終わるから!」

適当に動ける内向的な人間が居ると思う? と、返したかったが

「ありがとね、ほんとう助かる~。美羽、今度おごらせてね!」

もう樹里の中では決定してしまった。

 

東京ドームなんていうのは、野球好きか遊園地目的の家族連れしか来ない場所だ。まさか自分がそこで働くことになるなんて。

なんのイベントかもよくわからないまま、樹里から預かったスタッフシャツと入館証、そして簡易版の案内地図を手に、スタッフ専用入口を探す。

ふと後ろから「今日はじめての人?」
と声を掛けられた。

私と同じくらいの背丈で、同じ年頃の見知らぬ人がそこに居た。目鼻立ちはハッキリしていて美形なことは確かだけど、スタイルは華奢で、彼なのか彼女なのか中性的な雰囲気もあって一瞬わからなかった。

戸惑っていると
「俺は一週間目だけど、まだ入口に迷うことあるから、もしかして迷っているのかと思って。」

低すぎない声だったけれど、たしかに喉のあたりが男性であると思わせた。

「…よくわからなくて。」

どう返答すればよいのか、すらもよくわからなかった。大学ですら誰かと話すことがないんだから。

「なら、一緒に行こう。もらった案内図より、そこの角を回ったほうが近いよ。」

微笑みながら彼はそう言った。緊張していた私には破壊力満点の笑顔で。

これが、私と彼の出会いだった。

(続く)

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