連続青春小説【Re2:】第一話
「石川修一さんが亡くなりました。つきましては、部屋の引き払いを含めた手続きについて…」
あぁ、そうだった。たしかにそういうような名前だった、あのひとは。
「…もしもし?聞こえていますか?」
「あ、はい。聞こえては、います。
ただ生まれてこの方、父の記憶はなく、面識もないのです。
母から父については聞いていましたが、ただそれだけで。一切の音信もこれまでなく、会ったこともなく、関わりがない人です」
「そう言われましても、あなたのお父様でしょう。最期のお別れくらいすべきではないですか、実の親子なのですから」
秋田県の聞き覚えのない町役場から電話だと祖母が言うので、代わった。で、出るやいなや
「村上修平さんでお間違いないですか」
電話越しから唐突に本人であることを確認されると、こちらの気持ちなど一切お構いなく一方的な説明口調で、父の死が告げられた。
亡くなってから半月以上経過していたそうで、すでに火葬は済んでおり、要するに骨を引き取ってくれ、ということらしい。
「生活保護を受けていたんですよね?とすると相続するものもないでしょうし。逆に借金があっても困るので、放棄の手続きはとるつもりです。
こちらにとっては一切関係のない人間です。骨も私物も引き取るつもりはありません。そちらで処分していただけますか」
生活保護担当課の男性はまだ何か言いたげではあったが、頑なな姿勢を押し通したことで電話は切れた。
いつの日か会うことはあるのだろうかと、薄っすら“父親”という生き物を想像したこともあった。しかし、これで自分の【半分】がナニモノであるのか知る手段は一切無くなった。
昨年末、母が交通事故で呆気なく亡くなった。その死を実感する間もないまま、葬儀の手続きなどで年末年始は慌ただしく過ぎた。自分が上京してからというもの、母と高齢の祖母とは二人暮らしだった。今さら故郷を離れたくないと言い張る祖母を一人にするわけにもいかず、先週Uターンしてきたばかりなのだ。
「なんの電話だったんよ、修平」
「間違い電話だと思う。ムラカミなんてよくある苗字だもんな。よくわからん電話はこれからも相手せんでいいよ。僕が出るから」
耳の遠い祖母には電話の内容まで聞こえていないようだった。わざわざ心配させることはない。
「最近は電話もあまり気づかんわ」
「そっか。とにかくこれからは電話は僕が出るから。
ばあちゃん、物置は、まだそのままだっけか。」
「ばあちゃんは、足腰丈夫だけんど、重いものはよう持たんで」
「重いものの整理もこれからは僕がやるよ。帰って来たんだから」
思い出のギターをしまうために物置へと向かう。有名なギター奏者が使用していた同じメーカーで、父が若かりし頃に有り金をはたいたという、メイトンギターを抱えた。
(続く)