連続恋愛小説【Re:】第七話
彼が応募した作品は入選こそしなかったが、背景の描写力が見込まれ、週刊誌に連載中のプロ漫画家から「アシスタントとしてぜひ雇いたい」と編集部経由でオファーが届いたらしい。
彼にとってそれは子どもの頃からの夢を実現する大きな一歩で、ずっと夢見ていたチャンスでもあった。
勤務地となるその漫画家の自宅兼仕事場は、柊吾の住むアパートの最寄り駅からふたつ先の駅にあった。
「何時から何時まで、週にどのくらいの勤務なの?」
「一週間から二週間、職場にずっと泊まりになるよ。その間は連絡も多分できないと思う。」
私の生活はすべて彼が最優先であったし、就職についても、いつか結婚するならすぐ辞められるような仕事でいいのかも、とすら考えていた。
彼が嫌がるのなら私はすべての男性と話さなくてもいい。大学の教授とだって話さないようにできる。
彼がしてほしいことなら、他の何よりも彼の意向を優先できる、私はそうなのに。
いつのまにか涙があふれていた。枯れるまで泣くというのはこういうことなのだろうか。自分の顔がひどくグシャグシャになっているのはわかるけれど、どんどんどんどん溢れでていくそれを止められない。
「ずっと考えていたけれど、ミュウは俺と居たらダメになってしまうよ。」
―何を言っているのかわからない。
「俺はミュウの、人を真っ直ぐに信じるところが好きだし、献身的なところもかわいいと思う。けれど、何よりミュウにはミュウらしく居てほしいし、ミュウのやりたいことをやっていてほしい。」
―何を言っているの?
「俺だけを、ミュウの世界のすべてにしないでほしいんだ。」
―なぜ?
(続く)