連続恋愛小説【Re:】第六話
彼氏と彼女になってからは、もうすっかり長袖の季節で、公園よりも彼のアパートで過ごすことが多くなった。
同じ空間で過ごせれば、別に彼がマンガを描いていてもギターを弾いていてもそれでよかった。
彼が居ないときは、教えてもらった植木鉢の下に隠してある合鍵を使い、部屋を掃除したり、彼がいつでも食べられるようにいくつかの料理を冷凍したり、彼のためにすることひとつひとつがとても楽しく愛おしかった。
彼と居ることでこれまでに感じたことのない幸せと充足感が満ちていた。
その一方で、彼と離れてひとりになると、寂しさと切なさがおそってきて、たちまち孤独感と悲しみとがあふれてしまい、圧しつぶされそうになった。彼の居ない日はまるで明かりのない、真っ暗闇のようだった。
私と柊吾の違ったところ。彼には確かな夢があった。漫画家になるという夢。
私はなんとなく通っていた美大でなんとなく単位を取得する毎日を送り、なりたいものなんて特になかった。美大に進んだことだって、彼とデッサンの話ができたことで『彼と出会うための通過点』だったのではと、勝手に運命のようなものにすり替えていた。
彼のことは私が一番わかっていて、私のことは彼が一番わかってくれる。
だれに何を言われても、何をしていても、私の隣に柊吾が居るならそれでいい。きっと彼も同じ気持ち、そう信じていた。
関係が深まるに連れて、私は何よりも彼を優先するようになっていた。
樹里がこれまでのように何かと誘ってきても「彼氏ができたから」の一言で常に断った。そのうち樹里の連絡に返信ですらしなくなった。
しばらくして樹里からは「どうかしてるよ、美羽。」という一言だけのメールが届き、それきりとなった。
家族の用事も、学校の行事も、就職活動も、彼に比べたら後回しでよかったし、二の次三の次だった。
一方で柊吾はコンビニとゲームセンターと警備のバイトを掛け持ちしながら、週間少年誌に自分の作品を応募し続けた。
夢が叶うといいね、と彼に言いながらも、頭の片隅では(そのうち彼も定職に就きマンガなんて諦めるだろう、趣味でもいいじゃないか)などと考えていた。
むしろ彼と少しでも長い時間を過ごすために、一緒に住むことや、結婚というものに憧れはじめていた。
(続く)