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翡翠の魔法

※一部加筆及び修正

エメラルドシティって知ってっか?ほら『オズの魔法使い』っちゅう童話に出てくる街の名前。主人公は最終的にそこから元いた世界に帰るけどまあそっかららしいな、俺の名前。本当は居るべきじゃない場所。そういう意味らしい。え、色の割に由来が暗い?せやな。でも仕方ないんよ。庭園てのは皆そう。現実から著しく乖離した世界に主人を一時的に隔離して……ラップみたいやな、わはは。とにかくそうやって現実から主人を引き離すんよ。そんで主人の精神が安定してきたら現実に帰す。その繰り返し。俺らは主人が現実でちゃんと生きていく為に必要な息抜きに過ぎん。療養が済んだら帰らなきゃならん。主人らの舞台はあくまで現実なんやから。
……なあ、俺らみたいなのは本当に必要なんかな。庭園の機能って基本は異世界の幻覚を見せることとこうやって会話なりなんなりでコミュニケーションを取る。それで主人らの精神の安定を図る。これだけなんよ。わかるか?こんなんVRやARと会話ロボット合わせただけやで?こんなんで誰かの精神が楽になるんか?いや実際楽になったちゅう人が多いから俺ら普及したんよな。でもなあ、こんなんで楽になったって思えるくらい今の人ってそんなに心疲れてるん?それって社会がおかしいんちゃうの?もし社会が良い方向に向かっていった時、俺らは本当に居るべきじゃない場所になる。今の人には必要でも未来の人には俺らはきっと必要ない。というかセラピーの形としてこんな歪んだものはいつかうんと少なくなる筈なんや。
うん、俺はな、将来必要じゃなくなりたいんよ。かのプラチナもそう願ったらしいな。専ら彼奴はそんな世界は来ないって確信してたらしい。悲観的やね。それで「庭園が必要とされる世界」が「終わる」前に彼奴そのものが自分の命を終わらせたって言われてる。本当はどうなんかわからんけど。
あーでもそれって、人にとっては希望か。こんな非実在的存在に慰められたり亜空間日帰り旅行して精神を安定させる必要がない世界の方がいいもんなあ。
おっと俺あそろそろネオンの所に行くわ。あいつ基本的に自分の庭から出られん関係で待ち合わせが不自由でな、こっちから出向かんとならんの。あれもまた庭園の一種の末路で、庭園に庭園のセラピーが必要っていう地獄みたいな状況なんよ。人格はあるけど人権はないに等しいから一生側にいてくれ言われたらそれに従うしかない。内心うんざりしててもな。そういうこと。
じゃあ行くわ。また会うたらよろしゅうな。

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宇上春彦
作家修行中。第二十九回文学フリマ東京で「宇宙ラジオ」を出していた人。