最強の自然体を作る vol.3
1-3 トレーニングの効果
トレーニングとは環境適応能力を引き出すためのものです。
例えば、箸より重いものを持ったことがないというお嬢さんに、少しずつ重い物を持たせるようにしていきます。すると、あら不思議、けっこう重い物だって持てるようになるじゃありませんか。
お嬢さんの身体は箸を持つには足りていましたが、それより重いものを持つようにはなっていなかった。そこへ『重いものを持つ』という違う環境を与えると、お嬢さんの身体はその環境に適応しようと反応を起こす。そうして筋肉や関節組織などが強くなったということです。
高度にトレーニングされた選手は、その競技を行うための環境に身体が適応しきっています。
野球のピッチャーを例にあげてみますと・・・
カーブを投げようとするピッチャーは、初めはいろんな握り方や腕の振り方など、大脳で考えて、トライ&エラーを繰り返し、練習方法を試行錯誤し、何度も練習します。
次第に自分に一番合っていると思われる投げ方を見つけ出し、少しずつ修正を加えながら、さらに何度も何度も投げてみます。
しばらくすると、特に一生懸命に考えなくても、曲がり方やコースを自分の思った通りにコントロールして投げられるようになります。
この時、カーブを投げるという動作自体のほとんどを脊髄での反射で行えるようになっています。
具体的に言うと、刻々と変わる身体のそれぞれのパーツの位置や重心の場所、ボールの指へのかかり具合などの情報が知覚神経を通してインプットされ、即座に、脊髄の反射で重心の移動などの大きな動きから指先の細かい動きに至るまで、身体全体として調整されたアウトプットが運動神経を通して全身に行き渡り、カーブを投げるという運動が行われているのです。
筋肉や関節のみならず、非常に細かい神経の働きに至るまで、カーブを投げなくちゃいけない環境に適応している ということです。
毎日長い距離を走っていれば長い距離を走ることのできる人になる。
毎日ストレッチしていれば身体の柔らかい人になる。
いずれも、身体に課した環境に身体が適応したということ、すなわち、トレーニングの効果が現れたということです。
そういった神経の働きは、一度身につくと、かなり長い間、運動の”技術”として維持されますし、他の技術との相乗効果も起こってきます。
そのもののトレーニングを離れても、関連する他のトレーニングによってさらに熟練していくこともあり得るのです。
高度にトレーニングされた選手というのは、技術の精度が高度なだけでなく、広く、深く技術が磨き上げられている選手ということなのです。
ただし、知覚神経の鋭敏さや筋肉の反応が永遠に同じように維持されるとは限りません。それらは年齢により衰えていくものです。
いくら素晴らしい選手でも、いくら良いトレーニングを続けていても引退の時が来るのは、そこには抗えないからなのです。