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Aim for the Paris2024最終回「君は「うなぎのエリック」を知っているか」
うなぎのエリックの話
「うなぎのエリック」ことエリック・ムサンバニさんは、シドニーオリンピックの100m自由形に赤道ギニア代表として出場した。
オリンピック主催側がスポーツの普及を目的に、オリンピック標準記録を達成していなくても、各国に男女1名ずつの出場枠を与えているが、エリックはその枠で出場したのだった。
ろくな練習施設もないので、スタートの飛び込みやターンの練習はやったことがない。深くて透明な水がなみなみと溜まった50mプールを見ることさえ初めてだった。
エリックはスタート台の横に来て「うわ、たけー。おっかねー」と言ったとか言わなかったとか。
3人でのレースのはずが、二人棄権してたった1人の予選。
スタートの「セット・・・ピヨン」という合図に若干ビクつきながら、少し遅れて、おっかなびっくりプールに飛び込んだ。
誰もがクロールが始まるものと思って見守る中、エリックは頭から浮き上がってくると、まるでたらいの底のうなぎのように、くねくねと身をよじって泳ぎだした。あまりにも自由な自由形だ。
どよめく会場。「なんだい、あれ?」「見ろよwww よく出てきたね」「もしかして溺れてるんじゃないのか?」
みんな、どうせ途中で棄権するんだろうと思っていた。
しかし、エリックは決して止まらなかった。
ターンでは一旦沈んでしまうんじゃないかと思われたが、再び力強く泳ぎ始めた。
会場のどよめきは、少しずつ応援の色を帯びていく。
「ゴールまで溺れるなよ」「しっかり腕を回せっ」「あと30mだ、頑張れ!」
エリックはもう立ち泳ぎのような状態だ。いくら腕を回してもなかなか前へ進まない。
しかし、その背中を会場の大歓声が後押しする。
「エリック、エリック」
エリックは90歳のおばあちゃんより遅いタイムで見事完泳した。
会場は総立ちでエリックの敢闘をたたえた。
ある国の女子体操選手の話
私がボランティアスタッフとして働かせてもらったTokyo2020の女子体操に、ある国から1人の選手が出場していた。
年齢は15・6歳。目がクリクリとした、肌色の浅黒い子で、男性の大きな体のコーチとたった二人で来ていた。
割当練習に来た彼女は、大きな目をキラッキラに輝かせて、満面の笑顔であっちを見たりこっちを見たり。ウォーミングアップのときも、そこにいることが嬉しくてたまらない様子だった。
練習が始まってみると、彼女は、日本のジュニアの大会でも上位は難しそうなレベル。器具の準備や、練習の段取りもままならず、コーチと二人であたふたとするうちに練習時間が終わってしまうような始末だった。
でも、帰るときにも終始笑顔で、私にも手を振ってくれた。
次の日の練習では、練習の段取りも少し良くなり、しっかり練習できるようになっていた。そして、心から嬉しそうな笑顔はいつも通り。
本番では、スーパースター達の間に、今ここにいることの幸せを感じながら、真剣に、精一杯、失敗しても諦めないでやりとおした彼女がいた。
私は仕事の手を止めて、彼女のために拍手を送った。
彼女の笑顔が誰よりも輝いていた。
ダンサーRay-gunの話
ブレイキンに参加したオーストラリアのレイチェル・ガン(Ray-gun)選手。上記の記事参照。
ダンサーネームはめっちゃHipHop。だけど、ダンスの方はちょっと独特。
そんな彼女に、SNSで嘲笑うような書き込みがあったという。 は?
おい。ブレイキンでどんなダンスをしなきゃいけねえって決まりがあんのかよ。
あ? 自分のできることで勝負しちゃいけねえのかよ。
なあ。Ray-gunは最後まで自分を貫き、一生懸命、真剣に踊ったんじゃねえのかよ。え? それに文句があんのかよ。
それで問題があるとしたら、ブレイキンっていうゲームのやり方じゃねえのか、おい。
オリンピックに学んだこと
とても勝てそうもないと思っても、無理そうだと分かっていても、真剣に、最後までベストをつくして頑張れば、誰に文句を言われる筋合いはない。
ましてや嘲笑うなんて。