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私にとっての豊かさとは何か。
♪アンアンアン、とっても大好き
どーらえーもん♪
息子と習い事の帰り。
ふたり手をつないで駐車場までの
道のりを歩いていく。
「その歌、お母さんが小さい時に
見てた頃の歌だね。
YouTubeで見たの?」
「そうだよ」
にっこりと息子が笑う。
夕暮れの空は
オレンジ色に染まり始めている。
帰り道を急ぐ大人たちと
早いスピードですれ違っていく。
いつもの街中の景色。
いつもの帰り道。
家に帰れば、
いつもの夕食の時間。
私は今、
ゆっくり歩きながら
温かくて小さな手をしっかりと握っている。
私は今、
息子が歌う歌に合わせて
重なった二つの手をゆっくり揺らしている。
ごく普通の、なんでもない日常の中を
生きるふたりが、今ここにいる。
この時間が永遠に続いたらいい。
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元々子どもが苦手。
電車や飛行機で騒いでいる
子どもがいると
睨みつけるような大人だった。
「子どもが欲しい」なんて
思ったこともない。
反対に夫は子どもが大好きで
結婚したらすぐにでも子どもが欲しい、
という人だった。
価値観が全然合わないふたりが結婚。
今思えば、
よく結婚できたと思うのだが
私は仕事が楽しく、そちらに没頭。
互いに思うところはあるものの、
見て見ぬふりをしていた。
最初から別居婚になり、
なんとかバランスをとっていた。
そんな私が、子どもに救われた。
仕事に行き詰まりを感じて
もう辞めるしかないと感じたとき。
それでもプライドのせいで
退職する=敗北、という気がして
辞めることもできなかったとき
妊娠が判明。
産婦人科でそのことを告げられたとき、
「ああ、やっと仕事を辞められる」
とホッとした。
心の底からホッとした。
そんなんだから
出産後の子育てフェイズで、
これまたマジで
苦労することになるのだけど、
それはまた別の機会に。
そんな私が今、息子と歩くことに
この上ない豊かさを感じている。
何にも代えがたい時間に
泣きそうになっている。
♪アンアンアン、とっても大好き
どーらえーもん♪
何度も大きな声で歌う息子。
足早に過ぎていく人たちがチラリと
こちらを見ていく。
「ママ、大好きぃ~」
突然、息子が大声で叫び、
まん丸笑顔でこちらを見てくる。
いつも忘れん坊のママだけど。
ああ、でもその笑顔は、
記憶に焼き付けておきたい。
こんな豊かな時間があったこと、
忘れたくないよ。
何がどうなるかなんて、
人生、予測もコントロールもできない。
分かっているのは
全ては良くなっていくということ。
今がすべてだ。
とうとう駐車場についてしまった。
私は車に乗り込み、
エンジンをかけた。