2019ホーム湘南戦振り返り

 気まぐれでnote起動。最近のブームにまんまと触発されてしまった訳だが、本当に気まぐれだからこの一本限りかもしれない。手間なので図や表は使わない。文章だけのストロングスタイル。あくまでも自分の理解を深める為に書く。でももしあなたがこの記事を良いと思ってくれたなら拡散してくれるとモチベーションになるぜ!ちなみに主語の指定がないときはすべてマリノス側の視点で書いてます。それではいってみよう!

 マリノスはいつもの4-2-1-3。前節右サイドでプレーした仲川との相性の良さを示した松原が今節も右SBでスタメン、代表ウィークで軽いケガをしたティーラトンはなんとか間に合った形。誰を起用するかによって試合展開が結構変わってきそうな左WGにはマテウスが入り、磐田戦で肩を痛めた渓太はベンチ。まあ、たとえ二人の状態が万全だったとしても(というかこの日も万全だったのかもしれないが)ボスはマテウスをスタメンに選んでいただろうけど。その他のトピックとしてはU-22遠征中に負傷した渡辺皓太がベンチ外に、空いたアタッカー枠には前々節・仙台戦以来の李忠成、といったところか。
 対する湘南は大方の予想に反して4-4-2。試合後の浮嶋監督のコメントから見るに、自分たちの良さ(=攻守でのアグレッシブネス、献身性)を活かすことを第一に考えた上での布陣、メンバー構成のようである。ただ、マリノス対策として確立されつつある4-4-2でウチも、という意図ももちろんあっただろう。長いボールを収められてしかも結構走れる山﨑凌吾なんかはこの戦い方にうってつけの選手であり、クイックネスに優れる中盤の選手の存在も含め、元々湘南にはこうした「マリノス対策の鉄板戦術」が実現できる素養があったと言うこともできる。
 あるいは「劇薬としてのシステム変更」の意味合いもあるか。曺貴裁監督の下で長く3-4-2-1を継続していた湘南。元々精神的なチームの一体感、モチベーションの部分がパフォーマンスに大きく影響するような戦い方をしていたチームだということもあり、一連のいざこざと直近の連敗によって生まれ始めていた自分たちのスタイルへの不安感を打ち消すことは、浮嶋新監督が真っ先に取り組むべき課題だったはず。そういった文脈を踏まえると、ここにきてシステム変更がドラスティックな手法のひとつとして使われた可能性は大いにある。いくら3バックに慣れきった湘南の選手とはいえ、4-4-2ならそれほど難しさを感じることはないだろう。保持時はほとんど3-4-2-1にしていたようにも見えたし。「困ったときの4-4-2」はサッカーでは定番である。そんなわけで、マリノスにとっては今季何度も対戦してきた4-4-2と思わぬところで相まみえることとなった。

 さて、予想通りロングボールから入ってきた湘南のキックオフを合図に、お互いのアグレッシブネスが存分に発揮される展開。マリノスは満員の三ツ沢の後押しを受け、後方でのボール保持よりもスペースがあれば積極的に前へ前への姿勢。夏の移籍市場前までは「ひたすらラインを上げ続けるバックス」と「スペース特攻よりもボール保持を優先する攻撃陣(天野純がその筆頭である)」の間にイメージの相違があり、目指すスタイルがちぐはぐだった印象があるが、マテウスとエリキ、そしてトップ下に入るマルコス・ジュニオールのプレー嗜好が「スペースあるなら行っちまおうぜ」なこともあり、最近はこの“ねじれ”が解消されたように見える。なりふり構わず試合のテンポを上げることで求められる肉体的、思考的インテンシティはおのずと高くなり、一歩間違えれば安い失点で試合をぶち壊しかねない。でもそれはある意味で文字通り“勇猛果敢”なチームへの変貌を遂げつつあるといえるのかもしれないし、1月の新体制発表会でも掲げられた「速いサッカー」というイメージをチーム全体で共有できているという点ではいいのかもしれない。後ろから必殺のキラーパスを出せる(出したがる)松原が最近になって出場機会を増やしているのもこの辺と関係しているかも。元々がチアゴとパギの異次元のカバーリング能力に支えられているチーム構造なので、変にボール保持にこだわる→前線のスペース消される→詰まって引っかけられて裏を殴られる、のループにハマるくらいなら多少オープンスペースに飛び込む意識は高めくらいのほうがバランスはいいのかもしれない。この辺は個人的にまだ考察の余地あり。
 ただ忘れてはいけないのは、こうした「スペースあれば速攻」の傾向はあくまでもブラジリアン・アタッカー三銃士(エジガルも忘れてないよ!)がピッチに揃っているときの話であるということ。渓太や渡辺皓太が後半途中から入ってくると結構試合が落ち着いたりするのは、アンジェ・マリノスにおいてピッチ上でのプレー選択とそれを下支えする試合運びの設計が個々人の判断に委ねられていることの証明である。それなのに最近はやたらと“ゲームコントロール大事”なんて言うし、マジでボスの考えることはよくわからん。まあそれは今はいい。

 この試合の湘南はマリノスの外向き・後ろ向きのバスを合図に連動したプレッシングを開始。マリノスの2CB(畠中、チアゴ)に対してそのまま2CF(山口、山﨑)を当て(行けそうなときはGKまで出ていく)、2SB+2CHの四人(松原、喜田、扇原、ティーラトン)に対してはこちらも四人(山田、松田、菊地、古林)で対抗。松田と菊地のCHコンビは後ろにいるマルコスを背中で消しながら動いたり、バランスを見てどちらかがマルコス番で低い位置に留まったりしていた。ただ湘南は後方の数的同数を許容してCBまで前に出てくることはほとんどなかったため、マリノスはそれほどやりづらさを感じていなかったはず。左サイドでボールを動かすことが多いマリノスは扇原の能動的なポジショニングを周りの選手が補完することで効果的な前進ができており、この辺りはチームとして継続して取り組んできたことがしっかりと目に見える形で表れていた。前回アウェイで湘南と対戦した際は天野が明確に後ろから局地的な数的優位を作りつつボールを動かしていく仕事を担っていた(個人的にはこれを“エリクセン・ロール”と呼んでいる)が、この試合の扇原はそれとは違う形でマリノスのボール保持の中心人物となっていた。試合開始直後は湘南が前から嵌め切る意識をかなり強く持っていたためにボールが互いのゴール前を頻繁に行き来する展開が続いていたが、①噛み合わせ上浮きやすいマルコスと絶妙なポジショニングを続けていた扇原の二人を出口とする速攻を何回か受けたこと、②中央3レーンに絞るマリノスの3列目に湘南の中盤が食いついたことでCB→WGのパスコースが開通し、ボールを受けたWGから大きく展開されたこと、そして③ゾーン1にいる扇原から隙を見て発射されるロングフィード(主に受け手は右WGの仲川)でピッチ全体を大きく使われたこと、以上主に3つの影響により湘南は徐々にプレスの開始位置を下げざるを得なくなり、試合はマリノスのボール保持の時間が少しずつ長くなる展開へと変化していった。

 そして湘南のボール保持はといえば基本的にはよくあるマリノス攻略法である。後ろから無理に繫ぐことはせず、GK秋元はハーフレーン深い位置に向けてハイパントを蹴っ飛ばす。圧力のかかる中央ではボールタッチ数を少なく留め、サイドで時間を得たところから速いクロスボールを積極的に入れてくる。再現性をもって崩しにかかるよりもとにかくフィニッシュまでやり切ることを重視しているようで、サイド深くを抉るというよりは簡単に斜めのアーリークロスを入れてくることが多かった。空中戦にしても裏抜けにしても特にターゲットは決まっておらず、山口と山﨑はこの二つのタスクを状況に応じて使い分けていた。前からのプレスで奪い切ってショートカウンター発動、という第一の矢はなかなかうまくいかなかった湘南だったが、次に用意されたロングボール&シンプルな裏抜けはマリノス守備陣に一定の脅威を与えていた。4分のゴール未遂になったオフサイドは正直なところかなり怪しかった。もちろんマリノスはそこにパギがかっ飛んでくる、もしくはチアゴが猛然と追いついてくることで何とかする訳である。
 一見物凄くリスキーに見えるマリノスのこの守り方だが、確かにオフサイドトラップに失敗する恐怖は常についてまわるものの、逆に言えばそこさえ失敗しなければ相手のプレーエリアを強制的に狭めることができるのが強い。最終ライン~GK間のエリアにすべてのリスクを集めているからこそそこに対して集中して対応することができ、しかもその後ろ盾が二人(しかも強烈な二人)いるから意外と安定するというロジック。ラインの上下(“上”ばかりに目が行くけれど)は去年に比べてかなり洗練されてきているため、これを安定してブレイクし続けるには相当クオリティの高いキックとフリーランが求められる。最近だと瑞穂の名古屋くらいか。

 そしてアーリークロス大作戦に加えて湘南が勝機を見出していたのがCKを中心としたサイドからのセットプレー。ゾーン守備を敷くマリノスの外側にハイボールを放り込み、そこからの折返しでどうにかする感じ。まあこれも今シーズンのマリノスはよくやられてきた形である。30分にはこの形から大野和成のシュートがバーを叩く。左利きで助かった。

 さて、相手を深い位置まで押し込むことが増えたマリノス。ボール保持から崩しの局面でよく見られたプレーを以下にいくつか挙げてみた。

・前線四人による速攻
・タッチライン際でボールを受けた仲川のスラロームドリブルによる時間創出
・松原を中心とする後方部隊からのレイヤーを飛ばすパス(※せんだいしろーさんの記事を参照)
・ゾーン3での聖人マルコスからのお告げ(=空間認識能力を活かしたキラーパス)
・ブロック外からのミドルシュート
・左サイド左利きトリオから飛んでくるアウトスイングのクロス

 効果的に機能していた順に上から書いてみたが、こうして見るとかなり個人のひらめき、クリエイティビティに依存している印象がある。敵陣深い位置で相手に捕まりづらい立ち位置を取ることができていなかったのは、もちろんエジガル・ジュニオという攻撃の基準点としての仕事を愚直にやり続けられる純正CFがいないということもあるし、遠藤渓太というボール循環促進系ウイングをベンチに置いていることも関係している。「ブロック守備攻略どうするよ」というのは今季のアウェイFC東京戦から続く課題だが、ボスはこれに対して「あえて押し込みすぎないような試合展開を作りつつ、速攻を中心に最後は個人にどうにかしてもらう」という形でひとまずの落としどころを見出そうとしている様である。こうなったらそれぞれのユニット(仲川とエリキ、マルコスとマテウス、のように)の息がぴったり合うようにお互いのプレー嗜好への理解を深めていくしか道はないので、オフの日にみんなで焼き肉に行くかなんかしてなんとかしてほしい。
 本当はエリキがもう少し継続的に相手CBを引っ張ってくれたら周辺選手のエリア侵入が楽になるんだけれど、それ以上に仲川を右に置くことで発生する攻守両面でのメリット、そしてエリキのフィニッシュへの期待あってのこの配置なので、深さを取る役がいないのはある程度仕方ない。

 そして、やはりと言うべきか、待望の先制点は23番からであった。パギのロングボール(あるいはクリアボール?)を右サイドで拾ったところから速攻発動、ボールが一度左サイドに流れたところから再び右サイドにボールが戻ってきて、湘南の守備が戻り切らないうちにリーグ最高の質的優位こと仲川輝人が左足で仕留めた。後ろから頑張って走ってきて相手の守備の意識を引き付けた松原健には拍手を。
 前半ロスタイムにはこの日も気の利いたプレーを連発していた喜田がエリア内侵入から右足シュートを放つなどそれなりにチャンスになりそうなシーンはあったものの、被カウンター時の帰陣の早さやシュートブロックの徹底など、曺貴裁政権時代の財産が残る湘南を相手になかなか最後まで崩しきれないまま前半が終了する。湘南のパス数135本、成功率58%(マリノスは416本、88%)という数字の割にマリノスがポジティブな印象をあまり持てなかったのは、やはり最終局面でのちぐはぐ感が原因だと思われる。深さを取りきれないマリノスの攻撃が停滞気味であったのは非常にロジカルであるように思う。
 それと25分ごろの扇原のクソみたいなボールロストは結構危なかった。湘南の自陣深い位置からのクリアボールを拾ったところからだったが、試合展開がまったりしてきたところだったので油断したか。こればっかりはもう集中してプレーし続けるしかない。頑張れタカ。

(前半部分がさすがに長すぎたので後半はサクッといきます。)

 個人技頼みの前半を経て、マリノスはハーフタイムに修正を加える。左のマテウスを明確に大外に張らせることで湘南の守備陣形の横への引き延ばしを試みたのだ。そしてその効果は早々に結果となって表れる。全体的に横幅が広がった湘南の守備陣形に対して、後半開始から中央エリアを効果的に使いつつ一方的にボールを握り続けたマリノスは(即時奪回も素晴らしかった、エリキよく頑張った)、そのままの流れで52分に獲得したFKをマテウスが直接沈めて追加点。あんな蹴り方、あんな変化のボールは初めて見た。マテウスに加入後初ゴールが生まれたことはもちろん良かったが、それ以上にこのゴールはFKに至るまでの7分間の過程が素晴らしかった。湘南の4-4-2ゾーン守備の間のスペースが少しずつ横に広がったことで、クイックネスに難がある一方で広い視野と質の高いキックを武器とする扇原が活きるようになった点も見逃せない。
 湘南としては後半から再び圧力をかけて盛り返すつもりが、この失点で出鼻をくじかれてしまった格好である。直後には梅崎とクリスランを立て続けに投入。梅崎に関しては2-0になる前から交代を準備していたようだが、なにか特別なタスクを課されているようには見えなかった。

 湘南はロングボールのターゲットがクリスランになってから多少の時間を得られるようになったが、もともとマリノスのボール保持に対して劣勢だった湘南が開いた点差を取り返すために半ば無理やりボールを奪いにきたことで中央付近へのパスコースが見事に開き、ケガから復帰してやっと足元の感覚が戻ってきていたパギがそこにエグい縦パスを通しまくっていた。相手を引き込んでもビビらずに立つべきところに立ち、通すべきパスを通せるマリノス。その前方でマルコスが松田と菊地のCH二人を引き付けていたからこそ成り立つチームプレーであった。これは継続の賜物。去年から犠牲にしてきた勝ち点は伊達じゃない。パギもマルコスも去年はいなかったけど。
 途中投入された遠藤渓太が獲得したPKをマルコスが決めて3-0(68分)にしたあたりから湘南の勢いも徐々に収まっていき、この時点ですでに勝負は決していたと言っていいだろう。もも裏を痛めた仲川に代わって入りチームにインテンシティを補給し続けた大津祐樹の存在もまた偉大である。最後の失点はディフレクションもあったしまあしょうがない。クリーンシートがとれたらもちろん良かったが、勝って反省できることを喜びたい。

 これは完全に結果論だが、はじめから山﨑とクリスランのツインタワーを相手にするほうがマリノスとしては嫌だったかもしれない。それでも山口の献身的な守備とクリスランの空中戦の勝率、この二つのうちどちらを取るかという問いを迫られた浮嶋新監督が前者を選択した背景には、マリノス戦ということ以上に騒動後、連敗後に「自分たちのDNAを問い直す」という意味が込められていたのかもしれない。

・あとがき
 マリノスはずっと“自分たちのサッカー”を継続してきているので、試合の振り返りをする上では他のチームと比べると論点の抽出がしやすいほうなんだろうと感じた。それに関連して、この速攻イケイケゴーゴー状態のチームにエジガルが戻ってきたらどうするんだろう、というところにはかなり興味がある。
 記事全体としては、具体的なシーンにあまり言及しなかったせいで感想文みたいな内容になってしまった。明細なゴールシーン分析なんかは図を使いこなしているレビュワーの皆さんにお任せしたいと思う。言葉だけではやっぱり限界がある。ただ実際に自分がサッカーを観ている視点もこんな感じなので、今後も記事を継続的に書いていくならこういった前後の試合の文脈を踏まえたようなものがいいかなと考えている。それにしても毎週のように記事を上げている人たちは本当にすごい。みんな一体どうやって時間を捻出しているんだろうか。おわり。(2019/10/22)

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