Hail, hail, hail.

 勝てて良かった。その一言に尽きる。

 仙台の戦術的意図とマリノスの人選が、この試合の個性を存分に引き出していたように思う。仙台はマリノスの司令塔・畠中槙之輔に積極的なプレスを掛ける選択をせず、中盤の4枚に関口訓充を加勢させる代わりにボールの主導権をマリノスに明け渡した。対するマリノスは、松原健の中央起用というサプライズを横目にマルコス・ジュニオール、仲川輝人、そしてエリキがスタメンを外れ、狭いスペースでもクリエイティブな働きが出来る面々がピッチに送り出されていた。

 相手守備の間を取り、そこで前を向いて、仕掛ける。そのために自分たちが絶え間なく動き続けることで相手を前後左右に揺さぶり、整った陣形に穴を作る。マリノスの生命線とも言うべき戦い方を、この日のユアテックスタジアム仙台では存分に確認することができた。

 水沼宏太はもはやお馴染みとなったオフ・ザ・ボール、オン・ザ・ボールを問わないプレーアイデアの豊富さを、仙頭啓矢は狭いところを通すトリッキーなパスを、エジガル・ジュニオは相手に囲まれて孤立気味の状態でも懐の深さを見せつけた。

 相手を押し込む展開に連動して、それまでの数試合で大きな課題とされていたカウンタープレスの精度は劇的に改善された。たとえそこをなんとかして掻い潜られて長いパスを後方に蹴り出されたとしても、そこには必ずパク・イルギュが居た。走行距離7.3kmは明らかに普通ではない。

 もしこの展開で、トップ下の天野純が――ゴールに貪欲になって日本に帰ってきた天野純が――最終局面で違いを生み出していたならば、マリノスとしては完璧なストーリーとなっただろう。しかしそう簡単にいかないのがサッカーというスポーツ。流麗なパスワークと得点を両取りさせてくれるほど、仙台は甘いチームでは無かった。そう、サッカーはいつだってトレードオフ。仙台の最終ラインで奮闘したアピアタウィア久は、まだ流通経済大学の四年生だという。

 いいサッカーをしているけれど、得点には結びつかない。そんな聞き飽きた言説と、ジャーメイン良と西村拓真を両翼に配する相手チームのカウンター攻撃の影が、少しずつマリノスに忍び寄っていた。しかしそれは、限界まで膨らんだ風船が破裂するまでの、壮大な前振りに過ぎなかった。

 スターは遅れてやってきた――。後半アディショナルタイムに、昨季のリーグ得点王の右足がゴール左上を完璧に射抜いたのだった。俺たちのマルコス。俺たちのキャプテン・マルコス。

 皆の者、ひれ伏せ。166cmの王様は、試合終了の笛と同時に仙台の地で咆哮した。その声は、遠く横浜の地に確実に降り注がれた。

* * *

 マリノスには戦術に明らかな穴がある?もう対策されているから今年は勝てない?笑わせないで欲しい。戦術的欠陥など織り込み済みだ。そんなことは分かった上で、もう一度、最も大きなものを手に入れようとしているのが私たちのマリノスだ。もう一度言う。サッカーはいつだってトレードオフ。チームが姿勢を貫く限り、アタッキング・フットボールは死なない。

 歩みを止めてはいけない。いや、止めるはずがない。選手や監督は、態度で、ときに言葉で、幾度となく私たちに示し続けてくれている。やり続けることが何より大事なのだ。

 そして、そのことを結果によって証明してくれるマルコスは、やはり偉大なのだった。

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