セカンド!

※ 2022/10/15起稿分を再掲

 シニアリーグで野球をやっていた頃、ひとつ上の学年の遠征に呼んでもらったことがあった。その頃のぼくはバッティングの調子が良く、練習試合で立て続けに長打を打っていたこともあり、監督やコーチのあいだで「あいつを呼んでみよう」みたいな会話があったんだと思う。いま振り返ると結構立派なスタジアムだった。普段はベイスターズが練習しているらしい、みたいな本当か嘘かも定かじゃない噂も立ったような所だ(いまさら調べてみたところ、2軍の練習場だった期間が1年ほどあった、らしい)。ただの練習試合にもかかわらず、なぜか両チームの関係者のほかに地元住民らしき観客なんかもいたその日、ぼくのポジションはセカンドだった。なぜ。13歳、青天の霹靂。

 ぼくはあくまでピッチャーであり、中坊なりにそのことにプライドをもっていたし、そうでなくとも外野くらいしか守ったことがなかった。上級生には左投げでアンダースローのすごいピッチャー(しかもキャプテンだ)がいて、チームに帯同することが発表された日も、内心は小躍りしつつ「ああ、外野だな」くらいに思っていた。打つ方の好調を買われての抜擢であることは明らかだったので、マウンドに立たせてはもらえないまでも、試合終盤での代打とか、それじゃなかったらサブチームが出る2試合目でレフトのスタメンとか。それが蓋を開けてみればレギュラー組が出る最初の試合でセカンド。俊敏性、巧緻性、反射神経その他、ちょこまかと動くことを運動の中で一番苦手としているぼくが。セカンド。しかも2番。何ゆえ。

 後攻で試合が始まって迎えた最初のバッター、ぼくは当然のようにトンネルを披露した。野球の守備におけるトンネルという言葉の用法をよく知らない人が、YouTubeで「野球 トンネル」と検索して最初にでてくるくらいの、見事なやつ。買ってもらったばかりでまだ革の馴染んでいないピッチャー用のグローブに、ボールはかすりもしなかった。そのままライトに抜けたボールを呆然と見送り、次のバッターのスクイズで1点が入ったところからの記憶がない。なぜ。なぜ。この世の理不尽。

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