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見積もり金額が1億円!古民家の解体・新築計画で浮かび上がった課題たち。

こんにちは!
築100年の古民家移住を計画している家族のnote、4本目の記事です。

今回、3本目、4本目の記事を同日に配信します。

3本目の記事では、築100年の古民家リノベーションではなく古民家を解体・新築するからこそ『できること』について掘り下げて記載してみました。新築する場合の魅力・懸念点、両方の視点から私たちの考えていたことを知っていただけると思うので、もし良かったら併せて読んでみてくださいね。

新築か、リノベーションか、どちらを選ぶか悩んでいた私たち。
この記事では、古民家を解体・新築するからこそ『向き合わなければならない課題』について書いていきます。

プロジェクトのはじめ、家づくりの楽しさばかりを想像していた私たちですが、新築を検討する中で多くの規制や条件の厳しさを目の当たりにしました。
目次を見ていただくとなんとなく伝わると思いますが、書き終えてみると、家づくりらしくない全くワクワク感のない内容になっています…

繊細な情報も含まれるため、公開から一週間が経過したら有料記事にさせていただこうと思います。制約がある中での家づくりを面白がってくれる方や、同じような境遇の方に届くといいなと思いながら書きました!

※この記事は、私たち家族が学び、感じたことを記録したものです。専門的なアドバイスや正確な情報を提供するものではない点をご理解いただき、ひとつの家づくりの記録としてお楽しみいただけたら嬉しいです。

1億円の見積もり金額について

夫婦揃って思考停止してしまった見積書

住友林業さんに依頼して、古民家を解体しその土地に新築住宅を建てるプランを検討してもらったところ、見積もり金額が1億円近くに上ってしまった私たち。(2本目の記事、『家のことも土地のことも分からない私たちが、一番最初に行った場所。』より)

豪華なプランだったのでは?と思われるかもしれませんが、実は私たちが移住しようとしている土地には様々な制約がありました。

ここから高額な見積もりの背景にあった課題について、私たちが知ったことを紹介していきます。

接道する公道の整備(セットバック工事)

家づくりの検討が進んでいく中で、私たちが最も強く意識することになった問題が『接道セットバック義務』です。

接道セットバック義務とは?
建築物の敷地が接している道路が狭あい(幅員が4m未満)である場合、 法第 44 条により道路内における建築制限が課されていることから、建築行為を行う際には、前面道路について基準時の中心線から両側2m以内の部分は道路とみなされ、建築不可となるため、セットバックを行うこととなり当該敷地の前面の道路は拡幅されることとなります。

参照元:国土交通省 狭あい道路整備の必要性

私たちの移住先の敷地は2つの公道に接していて、そのうち1つが基準である道幅4mに達していない道でした。
公道は、いざという時に緊急車両が通る道幅を確保しなければいけません。私たちの敷地も例外でなく、家を新築する場合は基準に沿うために敷地の一部を無償で自治体に提供し、道を広げる工事が必要でした。

赤い部分を自治体に提供して道幅を広げるセットバック工事をする必要があります

石垣と擁壁の作り直し

しかし、私たちの移住先の土地では、『接道セットバック義務』に対応する上で敷地面積が狭くなるよりも深刻な問題がありました。セットバック対象となる接道部分に石垣のある擁壁が存在していることです。

これを一度崩して地面を削り、道幅を広げたあとに再度擁壁を作り直す必要があると説明を受けました。

赤い部分の石垣を崩して地面を削り、その断面にまた擁壁をつくり直す工事をします

単なる道幅の拡張とは異なり、この工事は住友林業さんの見積もりでは約3,000万円の費用が必要とのこと。この金額だけでひとつ家が建ってしまいそうです。

コストをかけずに済む方法はあるのか

敷地を無償提供する上に約3,000万円もの工事費用負担と聞いて、すぐに「じゃあやろう!」という気持ちにはなれませんでした。なんとかコストをかけずに済む方法はないのでしょうか?私たちは費用を抑える方法を模索しました。

1. 自治体との交渉

一つ目は、行政機関と交渉してセットバック工事に関する費用負担を軽減してもらう方法です。
自治体によっては、セットバック工事に関する費用負担を軽減する措置を取っていることもあるそうです。私たちも住友林業さんを通して交渉の余地があるか探ってみましたが、残念ながら適用は難しそうでした。

2. 隣接地の所有者との交渉

二つ目は、同じ公道に隣接する他の土地の所有者と共同で接道義務を果たし、費用負担の一部を共有する方法です。
我が家の場合は道を挟んだ反対側の敷地がさらに擁壁になっていて、どちらをセットバックしても通常の道路整備よりは費用がかかってしまうため、交渉するのは難しそうでした。

お向かいの土地を埋め立てて道幅を広げられないか交渉する方法

3. 敷地を対象から外す手続き

三つ目は、『分筆』によって接道義務の範囲や条件を変える方法です。

分筆とは
土地を複数に分割すること。土地の一部を売却したり、相続した土地を相続人で分けたり、土地の一部を道路など別の用途で使用したりするときなどに分筆の登記がされることが多いです。

参照元:法務省 隣の土地の所有者が分からなくてお困りの方へ(分筆や地積更正の登記のとき)

家を建てる土地が公道と接道しないよう敷地の一部を分筆し別の敷地として登録することで、新築工事の対象になる土地が限定され、接道セットバック義務の対象から外せる可能性があるとのこと。

ただし分筆には時間がかかり、法的な手続きも複雑そうです。新築計画全体や今後の土地活用にも影響が及ぶため慎重に検討する必要があります。

接道する土地を切り分けて新築工事の対象から外す

私たちの敷地は面積が十分にあったこともあり、当初分筆する方向で検討を進めていました。しかし、この後に記載する『市街化調整区域の制限』により、分筆も難しいということが分かって最終的に断念することになりました。

市街化調整区域による制限

私たちの移住先の土地は「市街化調整区域」という日本の国土の約10%を占める特殊なエリアに位置していることが分かりました。

市街化調整区域とは?
良好かつ安全な市街地の形成と無秩序な市街化の防止を目的として、原則として全ての開発行為が規制対象となる地域。市街化調整区域のうち、開発許可を受けた土地以外の土地においては、開発許可権者の許可を受けなければ一定の建築行為をしてはなりません。

参照元:国土交通省 開発許可制度の概要

上記の『一定の建築行為』の中には住宅の建築も含まれるそうです。私たちの場合、どんな影響があるのか記載していきます。

1. プロジェクトが長期化する原因になりうる

市街化調整区域では、住宅の建築や大規模な改築であっても「開発行為」と見なされ、行政からの「開発許可」が必要です。許可の取得には書類の提出や審査があり、通常の住宅地に比べて手間がかかります。また、許可のプロセスは時間がかかることが多く、プロジェクトの長期化を引き起こす要因になり得ます。

2. 事業活動が制限される

市街化調整区域内では自由に商売を始めることができません。例えば小規模なカフェや店舗を営むといった計画も制限されることが多いため、その土地で商いをしたいという場合は慎重な計画が求められます。

また、自由に商売ができないということは、近隣のエリアのお店が極端に少ないということでもあります。車の運転ができなければ、買いものなどで不便を感じることもあるでしょう。

商業施設が無いからこそ生まれる、のどかな空気感は魅力でもあります

3. 補助金や優遇措置の対象にならない場合がある

住宅の建設やリノベーションに関する補助金や税制優遇措置が、市街化調整区域では適用外となる場合があり、追加の予算計画が求められる可能性があります。

4.  居住者の制限がある

「その地域に長く住んでいる」「近隣に家族が住んでいる」といった地域に深く関わっている場合や、生活の基盤がその区域にあると認められる場合など、特定の条件を満たしていなければ、市街化調整区域に住むことが認められない場合が多いそうです。

また、既に市街化調整区域の外に物件を所有している場合、市街化調整区域の家に住めません。移住先の古民家は夫の父が所有していて生まれ育った家ですが、彼は現在別の土地に家を買って住んでいるため、生まれ育った家に戻って住むことも簡単にはできないそうです。市街化調整区域の家は所有者であっても住めない場合があるということに驚きました。

農家や林業従事者、その区域の地域社会や公共活動に貢献する職業の場合は、他の職業に比べると住む許可を得やすいそうです。
私たちには土地と合わせてみかん畑と梅林も引き継いでいくという背景があったため、これを機に兼業農家になります

移住後は、夫婦で企業に勤める傍ら、みかんや梅の栽培も取り組む予定です

5. 資産価値が低くなる傾向がある

住宅や土地の資産価値が通常の市街化区域に比べて低くなる傾向があり、今後も価値が上がりにくいとされています。そのため、ローンを組みにくくなるケースも多く、金融機関の評価が厳しくなることも覚悟する必要があります。

6. 土地の分筆が難しい

市街化調整区域では、土地の分筆も「開発行為」に該当します。そのため、単純に土地を分割して新たに売却したり、分けて所有したりすることが難しくなります。

私たちの場合、ここまでの条件が見えた時点で、新築の方向で計画を進めるにはセットバック工事は避けられないということになりました。家以外の部分で数千万円かかるというのは、新築計画を諦めるには十分な理由になりました。

さらに追い討ちをかけるように、他の課題も出てきました。

無いはずの土地がある

住友林業さんが測定した敷地面積と不動産登記されている敷地面積に大幅なズレがあることが分かりました。つまり、書面上はないはずの土地が存在しているということです。

不動産登記とは
国民の大切な財産である不動産(土地や建物)の一つ一つについて、どこにあって、どれくらいの広さがあって、どなたが持っているのかといった情報を、法務局の職員(登記官)が専門的な見地から正しいのかを判断した上でコンピュータに記録することをいいます。
この登記をすることによって、不動産に関する情報が公示されることから、国民の権利の保全が図られ、また不動産取引の安全と円滑化のためにも役立っています。

参照元:法務局 不動産登記
木や岩のような目立つ自然物を基準に敷地を決めていた時代もあったそう

新築を建てるためには建築確認申請という手続きが必要です。確認申請をするためには実際の土地形状と不動産登記が一致していることが重要で、このような差がある場合、計画に支障が出ることがあるそうです。

建築確認申請とは
建築物の安全性などを確保するために、建築物を建てる際には、行政の建築主事または民間の指定確認検査機関による審査や検査を受けなければならないこととなっています。

参照元:東京都都市整備局 建築物を安全に建てるために

隣地との境界が定まっていない

さらに、敷地の一部で隣地との境界が不明瞭な部分がありました。
境界確定には、隣地所有者との協議や役所への申請が必要です。これには協議や確認作業など時間と労力がかかるため、私たちも建築計画のスケジュールを調整する必要がありそうでした。

お隣さんが見つからない

隣接する土地は8つ、所有者は6名いることが分かりましたが、軽く確認したところ、そのうち2名は音信不通だそう。所有者が分からなくなることは、空き家が増えている昨今ではよくあることだそうですが、お隣さんが見つからないといつまでも境界確定ができないまま時間が過ぎていってしまいます。

境界(赤い点)を定めるためには隣地の所有者と協議が必要

不動産登記をやり直す

正確な土地を登記するためには、土地家屋調査士さんに依頼して実地調査を実施してもらう必要があります。地形や面積を正確に調査することで、登記と一致させる手続きが可能になりますが、ここでの費用も発生するため注意が必要です。

再び、擁壁の問題

敷地をぐるりと囲む石垣について、記事の前半で触れたセットバック工事の対応とは別の懸念もあることが分かりました。それは、新築する家の大きさ・位置によってはがけ条例に抵触してしまうことです。

がけ条例とは
建築基準法では、「建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合において、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければならない」と定められています(第19条第4項)。
がけ高さの2倍以内の範囲に建築物を建築する場合は、東京都建築安全条例第6条第2項の規定がかかります。この場合は、高さ2mを超える擁壁を設けなければなりません。

参照元:大田区 建築敷地ががけに近接している場合

がけ条例は多少の差異はあるものの、多くの自治体で近しい内容で制定されており、私たちが移住する予定の地域にもあるようです。

がけ条例の例。自治体ごとに定められています

我が家の場合、石垣の高さが一番高い場所で6m以上あり、がけ条例を守るためには擁壁からかなり離れたところに家を建てなければなりません。建築できる敷地が大幅に狭まるため、おのずと住宅の大きさも小さくなる方向での検討になってしまいます。

広かったはずの土地でも、家を建てられる面積はかなり少なくなります

また、ここでも石垣の作り直しが求められる可能性があり、そうなるとセットバックが必要な接道面の石垣だけでなく、敷地を取り囲むほとんどの石垣を工事することになります。とてつもない予算が必要になりそうです。

風情ある景観を保ちつつ、現代の基準に適合させることのむずかしさを痛感しています

生活排水がそのまま川へ流れている

こちらも古民家あるあるだそうですが、生活排水がそのまま川へ流れていることも分かりました。この土地に住むには、古くなった浄化槽の交換と上下水道の整備をし直す必要があるため、その分のコストの確保は必要になりそうです。

遺跡が発掘されるかもしれない

埋蔵文化財の法規制がある土地であることが分かりました。

埋蔵文化財とは
土地に埋蔵されている文化財(主に遺跡といわれている場所)のことです。埋蔵文化財の存在が知られている土地(周知の埋蔵文化財包蔵地)は全国で約46万カ所あり,毎年9千件程度の発掘調査が行われています。
文化財保護法では,周知の埋蔵文化財包蔵地において土木工事などの開発事業を行う場合には,都道府県・政令指定都市等の教育委員会に事前の届出等(文化財保護法93・94条)を,また新たに遺跡を発見した場合にも届出等を行うよう求めています(同法96・97条)。

参照元:文化庁 埋蔵文化財

新築を建てる場合少なからず地面を掘る作業が発生するため、行政に届出をして事前に調査をしてもらう必要があるそうです。調査には数週間〜数ヶ月を要し、万が一、何か文化財が発掘された場合は更に調査が延長されるとのこと。

古民家周辺には自社仏閣が点在しています。たしかに何か発掘されるかも?

新築、大変そうだな…

新築を検討し始めたとき、まさかここまでたくさんのハードルがあるとは思ってもいませんでした。各種条例や規則に従いながら計画を進めるには、思った以上に大変そう。住友林業さんの見積もりが高額になってしまったのは、新築を建てる以外の部分で発生するコストが膨らんでしまうためでした。

その後、数人の方に相談にのっていただきましたが、新築を前提にした場合これらの課題は避け難いという認識は変わりませんでした。これをきっかけに、私たちはなぜこの土地に住むのかをより深く考え、リノベーションの検討を始めることになりますが、それはまた別の記事にまとめていきます。


今後のプロジェクトの進行も、このnoteでシェアしていきます。引き続き、私たちの家づくりの過程を楽しんでいただけたらうれしいです。

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