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曲がり角の砂浜
バス停が海になった。三鷹へのバスに乗るために、いつもの住宅街を歩いて曲がり角を曲がったところだった。
「ここも、海になってしまった」
わたしは諦めて、学校へ「休みます」という電話をした。バス停が海になってしまっては仕方がない。海底から噴き出す砂は、早くも砂浜を造って波打っていたし、バス停だった残骸は、フジツボの群生する沈没船みたいで、波に合わせて上下していた。
わたしはバス停だった砂山の頂きにのぼってみた。
「わあ」と思わず声が出た。
海は見渡すかぎり広がり、空の色を映していた。
「いい天気だ」
わたしは満足し、家へと戻る道をたどり始めたが、すぐにその足を停めることになった。道まで海になってしまったからだ。
「困ったな」
引き返して、砂浜をしばらく行くと、道路があった。舗装の隙間から海が漏れ出ていたけれど、まだかろうじて歩けそうだった。中央分離帯の白いポールに飛び乗って、歩いていければもっといい。わたしは砂だらけになった靴と靴下を脱いで、白い裸足になった。冷たい鉄のポールに飛び乗って、ポールのうえを弾むように歩いた。
「ポール渡り」
とわたしはつぶやいてみる。海の上をどんどん渡っていくのだ。白いところが道だよ。道路が砂の上に浮いているみたいでおかしい。ポールは不安定で、ぐらぐら揺れ、わたしは時々海に落ちるところだったけど、面白かった。
友達と会った。友達もポールを歩いていたらしく、慣れたようにくるっと一回転した。大きな肩掛け鞄を下げていて、何かでたっぷりと膨らんでいた。
「なにが入っているの?」
「キャラメル、チョコレート、飴玉、たばこ、お米、ももの缶詰、水、マッチ、ノートと鉛筆。それから、いっぱい。その辺の家に売りに行くの。お米とキャラメルはね、こうして振るとチャラチャラ音がして、いい売り物になるよ」
友達が鞄を振ると、中で硬貨がぶつかりあってチャラチャラ鳴った。
「ふうん」
「一緒に来る?」
「いいね」
屋根を伝って歩けば、それほど不自由はしなかった。それに、どんどん売れていくのだ。お礼に柿までもらった。「秋風が寒いから」と羽織までもらった。足が真っ黒になるまで飛び回って、カバンはどんどん重くなった。いつしか夕方で、山吹色の空だった。夕陽が横から照りつけて、半分黄色で半分黒になった。ナイフで柿を半分にして、いっしょに頬張った。二本だけ残ったたばこに火をつけて、吸い終わるまで海を見ていた。
「あれはどこから来たのかな」と友達が言った。
遠くの海岸で、潮がさあっと押し寄せたり返したりしていた。
「あの波は、どこから来たのかな」とわたしは言った。
「日本かな? それとも地球が生まれたときの火の玉みたいなあれかな?」
友達は首を振った。「もっと前だよ」と言った。
「じゃあ、きっと未来だよ」
わたしたちはまた歩き出した。ポールはもうないから、水面を歩いて帰った。あんまりゆらゆら揺れたから、布団の中でも体が揺れていた。