ユーティリティ3.0の導入と持続可能なエネルギーの未来構築における配電系統運用者(DSO)の新たな役割
東京電力パワーグリッド(株)取締役副社長執行役員最高技術責任者
CIGRE日本国内委員会委員長
岡本 浩
(注)本稿は、2024年CIGREパリ大会オープニングパネル(2024年8月26日)での講演を要約したものです。配電系統運用者(DSO)の役割は、日本国内では一般送配電事業者が担っていますが、ここでは国際的に広く用いられるDSOという表現をそのまま使用しています。
世界では、生成AIの普及によって電力消費量が急増しています。例えば、東京電力管内では、2030年までに6GWの超大規模データセンターが接続される予定です。これは既存のエネルギーインフラに大きな課題をもたらします。同時に、私たちはエネルギー分野でカーボンニュートラルな未来への革命的なシフトの真只中にいます。
電力需給調整の未来
まず、電力需給調整がどのように変革されるかを見てみましょう。
今日、私たちはエネルギーの需給を管理するために中央集権的な制御と指令に大きく依存しています。しかし、私たちの将来の姿は異なります。この新しいパラダイムでは、主にベースロード電源と自然変動する再生可能エネルギーからの供給に合わせて需要を調整するために、価格シグナルを使用します。そこで重要になるのがDSOの役割です。
電気(ワット)-サイバー(ビット)ネットワークの織り成すMESH
私たちは、デジタルインフラと送電網がサイバーフィジカル社会の網の目を形成するMESH(Machine-learning Energy System Holistic)を構想しています。人体の神経系と血管系のように、この2つの緊密な統合は社会の恒常性調節に不可欠です。
人間の体が酸素の絶え間ない供給に依存しているように、私たちの社会も電気の絶え間ない流れに依存しています。電力網にエネルギーを蓄えることは、人体に酸素を蓄えるのと同じくらい難しいことです。私たちは長時間、息を止めていられません!
このモデルでは、DSOがシステム・オペレーターとマーケット・オペレーターの両方の役割を果たし、時間と場所で異なる市場価格を利用して市場参加者自らによる自律的な需給調整を可能にします。主な特徴は、エネルギーの利用可能性と市場価格に基づいて、時間と空間を越えてサイバー・フィジカル空間にある作業負荷をシフトできることです。これらの技術は、仮想バッテリーと考えることができます。
ユーティリティ3.0の実装 - ユーティリティの未来
それでは、2030年までの「ユーティリティ3.0」の実施計画案を見ていきましょう。DSOが前線に立ち、家庭からEV、AI、ロボットまでのユーザー体験(UX)を提供します。もちろん、アグリゲータやUXコーディネータの役割が重要になります。
DSOが配電レベルで管理するグリッド・エッジ・デバイスと分散型エネルギー資源(DER)を導入します。これは、配電事業者の手により多くの制御を委ねる重要なシフトです。
重要なイノベーションは、DSOが地域で運営する分散型エネルギー市場(DEM)の導入です。これらの市場は、エネルギーとフレキシビリティを同時に最適化し、効率的な地域運営と全国市場との市場間連携を可能にします。
DEMを運用することで、DSOは地域の需要と供給のバランスをとり、分散型資源を統合し、送電網の安定性を確保します。将来のエネルギーシステムの複雑性を管理する重要なプレーヤーとなるでしょう。
さらに、DSOはより持続可能なエネルギー・エコシステムへの移行を可能にします。AI、ブロックチェーン、市場メカニズムを活用することで、より柔軟で応答性の高いエネルギーシステムを構築することができます。DSOのこの新しい役割は、まさにパラダイムシフトです。DSOは、地域における積極的な市場促進者、システム最適化者、そしてエネルギー転換の重要な実現者となるのです。
要約すると、Utility 3.0は、DSOをエネルギーの未来の中心に据えるものです。DSOに権限を与えることで、より分散化された、柔軟で持続可能なエネルギー・エコシステムを構築します。鍵となるのはコラボレーションです。DSOは、真に統合されたインテリジェントなエネルギーシステムを構築するために、TSOやその他のインフラプロバイダー、さまざまな利害関係者と緊密に協力する必要があります。より持続可能で効率的なエネルギーの未来を構築するために、DSOが先頭に立って協力していきましょう。