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読んだことがない林芙美子について、とりとめのないことを書く

今までに観た映画の中からベスト10を選んでください、と言われたとして、その日の気分でベスト10に選ぶ作品が変わる、というのは当たり前のことだろう。
ただ、変わると言ってもだいたいいつもベスト10に入ってくる作品もあれば、ごくたまにしか入ってこない作品もある。
ぼくの場合、黒澤明の作品はほとんど入ってこない(まあ黒澤明の映画を全部観てるわけではないが)。
入れるとすれば「酔いどれ天使」か「白痴」あたりだけど・・・うーんあまり選ばないかなあ。
一方、成瀬巳喜男はかなりの確率で入ってくる、と思う。
「流れる」「乱れる」あたりも好きだけれど、ベスト10に選ぶとなるとやはり「浮雲」だろうか。

林芙美子という作家の小説は読んだことが無くて成瀬巳喜男の「浮雲」の原作者、という認識しかなかった。
あとはあれか、森光子が長いこと演じていた舞台「放浪記」の原作者。

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東京都現代美術館で開催されている「ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ/柔らかな舞台」は2月19日で終了してしまうらしいが、面白い展覧会だった。

現代美術の映像作品ということで、何かわけがわからないものを見せられるのだろうか、とちょっと身構えていたのだが、全然そんな風ではなかった。
主に対話する/独白する人々をとらえた映像で、その中にジェンダーの問題、家父長制の問題、植民地政策の問題などが扱われるのだが、考え方や感じ方を強いられるところのない風通しの良い作品だな、という印象。
そして6つある映像作品のうちの一つが、林芙美子と宮本百合子を扱った作品だった。同時代を生きたフェミニストとして、という取り上げ方なのだが、林芙美子についてはもう一つ、太平洋戦争中にインドネシアに滞在していたことにも興味をひかれた、ということを作家がインタビューで語っていた。
ウェンデリン・ファン・オルデンボルフはオランダ出身で、今回上映される映像作品でもオランダの植民地政策を取り上げていたが、インドネシアは長らくオランダの植民地であり、太平洋戦争中にそれを日本が奪ったわけで、そこらへんも作家の興味をひいたようだ。
林芙美子についてはほとんど何も知らなかったのでインドネシアに滞在していたことも知らなかったのだが、そういえば「浮雲」の冒頭はたしか、「南方」のシーンだった、ということを思い出した。
そのシーンだけは妙に全体から浮いた感じがして記憶に残っている。

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新宿歴史博物館というところで「戦前の新宿」という展示を見る。

常設展示とは別に、そんなに広くはない2室に明治から太平洋戦争直前までの地図や写真などが展示されている。
こじんまりした展示だが、この展示だけなら無料、常設展示を見ても300円なので文句はない。
新宿はよく行くので、開店当初の紀伊国屋書店(フツーの2階建ての本屋)とか、開店当初の高野果実店(これも店頭に果物を並べたフツーのくだもの屋、かと思いきやなんか建物が洒落ていてさすが高野フルーツパーラーという感じ)の写真とかを面白く眺めた。

その中に「戦争とペン部隊」というコーナーがあった。
ペン部隊というのは内閣情報部の要請によってつくられた従軍作家部隊みたいなものらしい。
「戦前の新宿」という展示なのに戦中じゃないか、と思ったのだが、1938年、日中戦争の頃ということで、まだ太平洋戦争は始まっていないから戦前、ということなのだろう。
面白かったのは林芙美子の手記を載せた新聞が展示されていたのだが、その紙面の上段に林芙美子の記事、そして下段には画家の藤田嗣治のスケッチと手記が載っていたこと。

藤田嗣治の戦争画にはなじみがある。
竹橋にある国立近代美術館の常設展には戦争画の部屋、と言うのがあり、だいたい1枚か2枚、藤田嗣治の絵が展示されている。
暗がりの中で兵隊たちがうごめいているような陰惨な絵が多くて、これではとても戦意高揚にはならなかっただろう、といつも思う。

藤田嗣治は戦後、戦争協力者として批判され、それに嫌気がさして日本を離れかつて暮らしたフランスに戻り、フランスに帰化して日本の国籍を抹消した。

林芙美子も戦争協力者として批判されたようだが、戦後も精力的に執筆して人気作家となった。
「浮雲」は1951年の作品である。

それぞれ個人的な事情もあるだろうから、単純な比較は意味がないだろうが、同じ新聞の紙面に載った二人の戦後の生き方の対比はちょっと興味深い。

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やたらと林芙美子のことが目に入ってくるので、新宿歴史博物館の帰りに新宿の紀伊国屋書店で林芙美子の「浮雲」(新潮文庫)を買った。

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「浮雲」を読み始めてしまったので、「読んだことがない林芙美子について、とりとめのない事を書く」のはこれでおしまいである。

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