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ぽつぽつと拾い読みしている本のこと(その1)「死をポケットに入れて」
11月3日、文化の日を挟んだ何日間かが「読書週間」ということになっているらしく、それに合わせて「本を読む人が減っている」みたいなことが話題になっていた。
他人様が本を読もうが読むまいが別にどうでも良いのだけれど、自分のことを考えてみると確かに本を読まなくなったなあ、と思う。特に新しく本を買わなくなった。
数年前までは少なくともひと月に一冊は(ブックオフなんかも含めてだが)本を買っていたけれど、今年は何か買ったかなあ、と思い出してみてもすぐには思い出せない。
暇な時・・・今までだったら本を手に取っていたような時・・・にもついついYouTubeを見たり、旧エックスのTwitter、いや逆か、まあどっちでもいいがともかくTwitterを眺めたりする時間が多くなった、というのもある。
あと個人的には数年前に仕事が変わった関係で電車に乗る機会がかなり減ったことが大きい。私の場合、本の内容が一番するすると頭に入ってくるのが電車の中なので、これがかなり影響しているように思う。
で、めっきり本を買わなくなったのだが、まったく本を読まなくなったわけではない。
ちょっと出かけるときなどにはたいていカバンに一冊文庫本を入れていく。
いつもすぐ手に取れるところに置いている4~5冊の中からその日の気分でカバンに放り込む本を決める。
その4~5冊のラインナップは時々変わる。
だんだん手に取らなくなってそのラインナップから外れたり、逆に新しい本が加わったりする。
しばらく外れていた本がまた復帰したりもする。
どれも読了済みの本である。
新しい本を読まなくなって、読んだことのある本をぽつりぽつりと読みかえすだけ、というのは「感性の老化」という気がしなくもないが、まあ感性以外も順調に老化しているのだから仕方がない。
今現在そのラインナップに入っている5冊についてちょっと書いてみる。
まず1冊目。
「死をポケットに入れて」(チャールズ・ブコウスキー)河出文庫
この本については前に一度noteに書いたことがある。
ずいぶん付き合いの長い本だ。
4~5冊のラインナップから外れたり、またしばらくすると復帰したりを繰り返している。
チャールズ・ブコウスキーは1920年生まれのアメリカの作家で1994年没。
「破天荒」とか「無頼」とかいう形容が良く使われるタイプの小説家・詩人である。
× × × × × ×
こちらが歳をとるにつれて、読む本の作者がどんどん自分より年下になっていく、という問題がある。
本を読み始めた頃にはすべての作者が自分よりもはるかに年上の、いわゆる「人生の先輩」だったわけだが、いつのまにか「文豪」なんて呼ばれる作者でさえ今の自分の年齢よりも早く死んでいたりするようになる。
作品の面白さや発想の素晴らしさは作者の年齢とは関係なく楽しめるわけだが、たとえばエッセイなんかが特にそうだけど、「人生観」みたいなものになると「ああ、この人は若いんだな」と思うことが無くもない。若いから駄目だということではないけれど。
で、その点この「死をポケットに入れて」はチャールズ・ブコウスキーの最晩年、71歳から72歳にかけての日々をつづった日記風エッセイ、ということで、自分にとってまだまだ大先輩であり、しかもまだまだエネルギーに満ちている。
読んでいて元気が出る本である。
おもしろくて興味深い人間は、どうしてほとんどいないのか? 人が何百万人いても、その中にほんのわずかすらいないのはどうしてなのか? わたしたちはこの退屈で生気のないヒトという種と共にこれからも生き続けなければならないのか? 彼らが唯一とれる行動は、暴力しかないように思える。そのことだけはやたらと得意だ。見事に花開かせている。わたしたちのチャンスを悪臭でことごとくだめにする。糞の花。
七十代の老人が書いたとは思えない若々しさが気持ちいい。
今のわたしは以前とはまた違うたぐいのたわごとを書いている。そのことに気づいた者もいる。
「見事に切り抜けましたね」というのが、そうした者たちがわたしに言う主なせりふだ。
彼らが何を嗅ぎ取っているのか、わたしにはよくわかっている。わたし自身もまた感じているからだ。言葉はよりシンプルになっているが、それと同時によりあたたかくも、より暗くもなっている。今わたしは新しいエネルギー源に養われている。死に近いということ、それがわたしのパワーの源だ。わたしはあらゆる点で有利な状況にある。若者に見えないものを見、若者に感じられないことを感じることができる。若者のパワーから出発して、老年のパワーに到達したのだ。
訳者はフォークシンガーとしても知られる中川五郎。
多くの挿絵、というかイラストが挿入されているのも印象的。
イラストを描いているのは伝説的なイラストレーターのロバート・クラム。
ジャニス・ジョプリンのアルバム「チープスリル」のジャケットのイラストを描いた人である。