アガサ・クリスティ10選
この間の休みの日にTOHOシネマズ新宿で「ナイル殺人事件」(ケネス・ブラナー監督)を観てきた。
どうせ55点くらいの映画だろ、と思っていたのだが、観てみると55点くらいの映画だったので、満足して帰って来た。
あまり映画について書く気もしないので、アガサ・クリスティ作品のベスト10でも作ってみようか、と思う。
中学生の頃、「そして誰もいなくなった」を夢中になって読んで以来、何年かごとに思い出したように少しずつ読んでいった結果、アガサ・クリスティ名義の長編小説は全部読んだ。短編集のうちの何冊かとメアリ・ウェストマコット名義で書いた普通小説のうち2冊を読み逃している。
このくらい読んでいればベスト10を選ぶ資格はあるだろう。
まあ誰も興味はないだろうが、こういうのを選ぶのは楽しい。
高校の頃、授業中ノートにローリングストーンズやらデビッド・ボウイやらの曲ベスト10とか書いて喜んでいた頃と変わらず楽しかった。
さて、ではアガサ・クリスティ作品ベスト10。
1.「終わりなき夜に生まれつく」
かなり後期の作品。
晩年の作品は、ちょっとボケてきたんじゃないか、と思わせるような緊張感のない作品が多くなってくるのだが、この作品は良い。
初期の頃からある怪奇趣味(ジプシーの予言)と恋愛小説の側面、そして犯罪。
主人公も、主人公の恋人も、主人公の母親も、主人公の親友の天才建築家も、みな印象に残る。
2.「そして誰もいなくなった」
過不足なし。何よりもこの内容でこの短さがすごい。
巻を措く能わず。
3.「春にして君を離れ」
メアリ・ウェストマコット名義で出版された普通小説(今はクリスティ名義で出ている)。
犯罪は起こらず、主人公はごく普通の中年の主婦。
彼女が今までの人生を回想するだけ。
そしてものすごく怖い。
4.「謎のクイン氏」
短編集。
割と初期の作品。
初期の作品は(すごく有名な作品も含めて)、仕掛けばかり目立って登場人物に魅力が感じられないものが多いが、これは例外。
超自然的要素あり。
怪奇趣味と恋愛と犯罪、という組み合わせは「終わりなき夜に~」と通じるものがある。
5.「五匹の子豚」
探偵役はエルキュール・ポワロ。
クリスティの作品の中には何年も前に起こった殺人を調査するいわゆる「回想の殺人」ものがいくつかあるが、その中ではこれが一番。
ラストの犯人のふるまいが印象に残る。
6.「ホロー荘の殺人」
探偵役はエルキュール・ポワロ。
クリスティの一番脂がのっている時期の作品で、登場人物がみな印象的。
人間ドラマとして面白いので、ポワロいなくても良かったんじゃないか(無理に推理小説にしなくても良かったんじゃないか)、という気になる。
7.「ねじれた家」
「ホロー荘の殺人」とだいたい同時期の作品。
名探偵は出てこない。
主人公が素人探偵としてあたふたうろうろするのだが、それが逆に良い。
大富豪が死に、その家族たちに殺人の疑いがかかる。
一癖も二癖もある家族たち。
8.「ゼロ時間へ」
探偵役はバトル警視。
ポワロものにも出てくる人物で、この作品の中でも「ポワロがいてくれたらなあ」などと言うシーンも。
この作品は犯人がコワイ。
最近の小説では異常な動機とかサイコパスな犯人とかも食傷気味だが、これが出版された1944年にはかなり珍しかったのでは?
9.「ポケットにライ麦を」
探偵役はミス・マープル。
どちらかと言えばポアロよりマープルの方が好きなのだが、マープルものは長編で「これが代表作」というのが無い気がする。
あえて選べばこれかな、という感じ。
これも家族の話。
やはり登場人物たちがみな魅力的。
10.「ナイルに死す」
映画「ナイル殺人事件」の原作。
探偵役はエルキュール・ポワロ。
かなり長いし登場人物も多いが飽きさせない。
ビジュアル的にもこれを映画化したくなるのはわかるが、この長さの小説を2時間ちょいの映画にするのは、物語の構造自体をかなり組み替えないと上手くいかないだろうと思う。
× × × × × ×
クリスティには、(特に初期に多いが)冒険活劇的な作品がいくつかあって、読み始めた頃は推理小説よりそちらの方が好きで楽しく読んでいたが、次第に物足りないと思うようになった。
だからこの10選には入れていない。
でもその手の作品のジュブナイル小説的な面白さは捨てがたいものがある。
最初に手に取るのなら、むしろそのあたりがオススメかも。
「茶色の服の男」とか「なぜエヴァンスに頼まなかったのか」とか。
× × × × × ×
いわゆる本格推理小説のファンの中には、クリスティーをあまり評価しない人がけっこう多いらしい。
「推理の論理性」とかに文句がある人が多いみたいだ。
ぼくは推理小説を読む時に、誰が犯人なんだろうなあ、と思うことはあっても、犯人を当てようと思いながら読むことは無いし、トリックとかはあまり興味がない。
よく推理小説とか映画のレビューで「途中で犯人がわかってしまった」とか自慢げに書いているのがあるけれども、あれがよくわからない。
途中で犯人がわかろうがわかるまいが、その作品の評価には関係しないと思っている。
クリスティも推理小説、というよりはサマセット・モームなんかと同じような、単純に面白い小説、という感じで読んでいる。
まあモームなんかと比べるとかなり雑でいい加減だとは思うが、そういうスキがあるところも超ベストセラー作家である理由なのかなと。