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ドキュメンタリー『ヘルムート・ニュートンと12人の女たち』
ヘルムート・ニュートン?
名前は聞いたことあるような…という程度の認識だった。
写真家として、主にファッション誌、それも高級な、それらを舞台に女性モデルたちを撮り続けた。
確かに、ヌードが中心という以上に、敢えて物議を醸すような演出があり、毀誉褒貶あっただろうなと窺わせる写真ばかりである。
このドキュメンタリーでは本人が気さくに語る記録映像も含まれているが、被写体となった人たちを中心に、共に仕事をした関係者、そして配偶者など、女性たちのインタビューが興味深い。
複数の見解を集めていくことで、だんだんと表現者ヘルムート・ニュートンの意図や真意が浮かび上がってくる。
一見すると挑発的な作品の数々は、差別的だと非難されたことも一度だけではないようだ。
けれど用意周到な仕掛けをよく見ると、悪意ではなく遊び心に近いもので、いかに人々に議論を呼び起こさせるか、問題提起を意識していたのではないかと想像させる。
もちろん、そうした投げかけがある方がより注目されることも見抜いていただろう。
さらには、肉体美や造形美といったものを追求していて、その点においてレニ・リーフェンシュタールからの影響を指摘されたこともあった。
当時のナチス政権に協力しベルリン・オリンピックを記録した『オリンピア』(1936)という、ある意味20世紀最大の問題作と言える映画を撮った監督である。
しかし彼自身はユダヤ人であった。
青年期にオーストラリアへ亡命している。
写真家としての師は強制収容所へ送られた。
彼自身の明るい性格ゆえか、決して重苦しくはならず過去を振り返っているが、この事実が彼の人生に影を落としていることは疑いようがない。
モデルとなった女性たち、とりわけイザベラ・ロッセリーニの冷徹な分析力、シャーロット・ランプリングの覚悟など、生きた言葉が聴けるのは貴重。
まずは代表作を網羅した写真集を読んでみたいと思った。