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ドキュメンタリー『TWO TRAINS RUNNIN’』
毎年恒例の「ぴあフィルムフェスティバル」でも、私の注目はピーター・バラカンさんの選ぶ音楽関連作品。今年は日本初上映のドキュメンタリーでした。
『TWO TRAINS RUNNIN’』(2016、アメリカ、80分)
監督:サム・ポラード
戦前に活動していたブルーズマンたちが、ずっと後になって「再発見」されたことは何となく知っていた。例えばミシシッピ・ジョン・ハート、サン・ハウス、そしてスキップ・ジェイムズ。伝説以上の、もはや空想上の存在ぐらいになっていたらしい。竜か雪男か、日本で言えばツチノコだろうか。当時は情報もほとんどなかったから、生存しているかはもちろん、本当に実在していたのかすら不確かだったのだろう。しかし確実に録音はあったわけで、レコードは残されている。そんな戦前ブルーズマンたちを、熱心なマニアが数少ない手がかりをもとに、ミシシッピ州まで探しに行く。1964年6月。歴史はときに不思議な偶然を演出する。ニューヨークからの3人と、西海岸から音楽探究心に溢れたギタリスト=ジョン・フェイヒを中心とした3人が、同じ日にそれぞれサン・ハウスと、スキップ・ジェイムズを見つけ出す。そして、公民権運動を後押ししようと動いた白人を含む活動家たちが、人種隔離政策を叫ぶ連中に殺されたのも同日だった。それが6月21日。白人だったとしても、黒人に味方したという理由で殺害されてしまう。その暴力性と残虐性、異常な執着はどこから来ているのか。私にはとても理解できない。
このドキュメンタリーは、政治と音楽が激しく交差する瞬間を、貴重な当事者たちの証言で再構成する。再現風のアニメーションも用いながら、当てずっぽうとも無謀とも思えた旅を追体験できる。もし、この人たちが探し出せていなかったら、1960年代以降のブルーズ再評価はなかったかもしれないし、もしかしたらポピュラー音楽の流れも大きく変わっていたかもしれない。熱狂的なアマチュアたちが実際に奇跡を起こしたわけである。20年以上の時を超えて、再びギターを手にして歌うサン・ハウス、スキップ・ジェイムズ。ニューポート・フォーク・フェスティヴァルでの勇姿も映し出される。新たにレコードも出し、そちらの戦後録音の方がよく知られているものもある。
名高い音楽伝記作家ピーター・グラルニック氏の回想も歴史の深みを感じた。現在のミュージシャンたちによるカヴァー演奏も効果的に挟み込まれる。中でもルシンダ・ウィリアムズの弾き語りに痺れた。ルーサー・ディキンソン含むノース・ミシシッピ・オールスターズもなかなか良い感じだった。
大恐慌で、1930年代はレコードを作り楽しむ余裕もなくなったのだろう。そして第二次世界大戦があった。そのまま忘れ去られる運命にあったはずの音楽は、しかし人々に活力があった60年代に「再発見」された。そこから今に至るまで、人種差別も、正当に評価もされない音楽家たちも、どのぐらい状況は変わっているのだろう?
個人的にブルーズは小出斉さんのディスクガイド本を片手に上澄みだけだがすくっていた。そうでなくても十分に楽しめる内容になっていると思うが、さすがバラカンさんが選ぶ一本だけあって容赦なく本格派である。力作だった。40代半ばになった今こそカントリー・ブルーズを聴き込みたいし、サン・ハウスによる演奏シーンの迫力には打ち震えた。
あともう一回、9/20(金)13:30~上映があるので、お勧めします。
9/11の回では上映後、作品の背景などをバラカンさんが解説。
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