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あの名盤、初めてちゃんと聴いてみた ~2枚目: Kate Bush『Hounds of Love』~


Kate Bush『Hounds of Love』(1985)


Kate Bush
(ケイト・ブッシュ)もなぜかほとんど通ってこなかった人で、名前こそ知ってはいたが、聴くきっかけを掴み損ねていた。
自分が音楽を聴き始めた1990年代半ば以降、アルバムを出していなかった期間があり、あまり話題がなかったからかもしれない。
2022年夏にネットフリックスのドラマで「Running Up That Hill」が使われ、時を経て何億回もストリーミング再生されていることは音楽ニューズサイトで伝えられていた。
ずっと気になっていた音楽家だったので、今回最も人気も評価も高いらしい作品から飛び込んでみた。

予め自分で設定したとおり、なるべく事前に情報を取らず、論評は読まず、耳だけを頼りにまず聴いてみた。
やや戸惑いつつも、聴き進めながら取った曲ごとのメモがこちらです。



Kate Bush『Hounds of Love』(1985)


Side-1: Hounds Of Love


Running Up That Hill (A Deal With God)
通奏低音のようなシンセサイザーと、淡々としたドラムスが曲の基盤となる。
その上に、多重録音で声を幾重にも重ねていく。
凛とした歌声。
曲の根幹としては簡潔だからこそ、展開部分がカッコ良い。
ここぞという箇所で思い切ったエコーをかけて強弱をつけていく。
ギターは唸るような音だが稀にしか鳴らされない。少なくとも今作ではエレクトリック・ギターは最重要要素ではないようだ。
決して大ヒットするような甘い旋律などがあるわけでもないが、骨格がしっかりしているからか何度でも聴ける。

Hounds Of Love
このタイトル曲もエコー大きめのドラムスとシンセサイザーが目立つ。
チェロもリズムを刻むのに加わるところが特徴的。さらに輪郭をはっきりさせていく。
どこか芝居がかったような歌と、バックコーラスと言うには自由すぎる合いの手がところどころで入る。
これもサビの部分含めて力強い楽曲。

The Big Sky
明るい曲調でピアノが主軸。すぐ歌から始まるのが端的で好印象。
少し歪ませたエレクトリック・ベースが曲を押し進めていく。
アクースティック・ギターもリズムを強調した弾き方。
やはり自由奔放な歌い方。
バックコーラスも同様で、どことなくアフリカっぽい響きも。あるいはゴスペルのように聞こえなくもない。
段々と音が重なっていき迫力を増す中で、エレクトリック・ギターに、速い調子の手拍子も加わる。
迫力のある突き抜けたような曲。

Mother Stands For Comfort
ドラムスのイントロから、ガラスが割れるような音を差し込み、ピアノとフレットレス・ベースの伴奏でゆったりとしたテンポ。
歌もやや抑え気味。
シンセサイザーは欠かせない要素で主役級の扱いだが、それぞれの音色は相当に練られていて、同じものは二度使われないようだ。

Cloudbusting
弦の編曲がまず耳を引く。
打楽器もシンセサイザーも敢えてシンプルに使っていて、その分、聴きやすくなっている。
様々に使われる声も、一種の楽器のように配置されている。
スネア・ドラムが入ってくるとともに、コーラス隊が祈りのように繰り返す。
ケイト・ブッシュ流のオーケストラル・ポップか。


Side-2: The Ninth Wave


And Dream Of Sheep
エコーの効いたピアノと歌から。
基本はゆったりとした弾き語りながら、語りや効果音などが散りばめられる。
控えめにアクースティック・ギターも鳴っている。
笛の音も。

Under Ice
低い弦の音に導かれながら、シンセサイザーと荘厳な歌が。
サイド2は特に映画的というか映像的だなと思ったら、編曲者として映画音楽で知られるMichael Kamen (マイケル・ケイメン)の名も。
雷鳴の音も轟く。

Waking The Witch
前曲からの流れを断ち切るようにセリフの囁き。
いよいよサウンドトラックのような作り。
ピアノが響く。
唐突にリズムが入る。男性の加工した低い声が怖い。
機械的なビートを特徴とするインダストリアル・ロックの原型か?
鐘の音やヘリの音など、スタジオで時間をかけて試行錯誤した跡が窺えるようだ。

Watching You Without Me
実験的とも言える曲が並ぶサイド2だが、ここでややポップ・ソングの仕様に戻ってくる。
可愛らしいシンセサイザーの音がゆったりとした曲調を作っていく。
ダブルベースも自由に弾かれる。
アンビエント・ポップとでも呼べるかも?
なぜか波の音とカモメの鳴き声も。

Jig Of Life
フィドルやパイプを中心に、一気にアイルランド音楽へ傾く。
Donal Lunny (ドーナル・ラニー)も参加している。
特に中盤は即興演奏ぽくなり、セッションそのものという感じ。
この要素がきれいに融合しているわけではないので、聴きやすくはなくぎこちなく感じる。
男性の声で語りが入って終わる。

Hello Earth
宇宙飛行士?の通信のような音声から。
バラード調でピアノとともに歌う。
壮大で重厚な、もっと言えば大仰な着想。
聖歌隊が起用されているが、これもうまく取り込むと言うより、一曲の中で異なる部分が入れ替わる構成。

The Morning Fog
一転して弾けたような明るい曲調に。
アクースティック・ギターのアルペジオと、フレットレス・ベースによるシンコペーションが目立つ。
アルバム通して中心はあくまで本人の歌で、バック・コーラスも同等の扱い。
主旋律 / 副旋律と差をつけることなく、同じ声として等しく位置づけられていると思った。



以上、全12曲。約47分。
レコード盤の名残りで、片面ずつ一塊りと捉えられていて、それぞれ副題がついている。
特にサイド2は短めの曲が切れ目なく続き、組曲のように構成されているようだ。

万人受けする分かりやすいポップ・アルバムとは言い切り難く、ゲストの選択からも想像できるように試してみたいことが多すぎたようだが、才気煥発というのは十分伝わってくる。
本人は歌、ピアノ、シンセサイザー、作曲、プロデュースまで兼ねている。

結局のところ好まれるのはサイド1からの曲になってくるだろうし、長く聴かれたりラジオでかけやすいのもこの面からだろう。

しかしこれだけのスケールで全体を見渡しアルバム一枚作り切れる人なら、他の作品も当然聴いてみたくなる。

いわゆるプログレッシブ・ロックと括られる音楽に類似点が見出せそう。
クラシックを好む人に聴かれてもおかしくないと思った。

本人はピアノを中心に曲を書いているようだから、もしピアノだけの弾き語りアルバムなんてあったら、とても私好みのものになるだろう。
探してみよう。

今回も「All Music」だけはライナーノーツ代わりに参考にしました。


細かなクレジットなどは、「Discogs」のサイトで確認。



自分のラジオ番組では8/20の放送回でこのアルバムを取り上げる予定です。

次回3枚目は何か古めのジャズにしようか、それとも90年代で聴き逃していたものから選ぶか、楽しく迷っているところです。
一応、この企画まだ続きます。

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