フジロックの思い出③〜フー・ファイ、レイジ編〜 そのとき、私は神を見た
(↑前回までのあらすじ)
日本初の大型野外フェス「フジロック」に向かう洋楽好きの高校生3人組、G君とI君そして僕。初開催ゆえ誰1人として慣れていない中、会場までの移動ですでに混乱に巻き込まれる。やっとの思いで辿り着き、全力で楽しもうと参加し始めた矢先、雨は激しさを増していくのだった…
(続き)
ザ・ハイロウズの演奏はもう始まっていた。当時も日本のロックはそこまで聴き込めていなかったものの、元ザ・ブルーハーツのヒロトとマーシーがいるという認識はあったし"ロッキンチェアー"は好きだった。その曲も演奏していたように思う。スキー場ゆえになだらかな傾斜もあり、やや遠目からでもステージはしっかり見えた。ライヴを観れている興奮が湧き上がってくる。最後はサーヴィス精神からか?全裸になったヒロトは「最後まで楽しんでってねー!」とMC。良い人だなと思った。
自分は山に関して予備知識が全くなく、夏だからTシャツ一枚で何の問題もなかろうと高を括っていた。しかも両袖部分をハサミで切り落としたタンクトップ状態である。何も考えていなかった。そんなふざけた軽装で臨んだことを、その日の夜以降に後悔することになる。
今振り返ればステージは2つあり同時進行していたはずだが、そっちまで周る気力も観たいバンドも特になかったのか、メイン・ステージでの出演者たちに狙いは絞っていた。
続いての登場は極限まで待ちかねていたフー・ファイターズ。2枚目のアルバムを出したばかりで、まだパット・スメア(ギター担当)もいた時代。元々ハードコア・パンク上がりだけに、激しい内容。それ以上に観客たちの反応が凄まじく、ちょっと怖くなるぐらいの熱気だったが、自分も負けじと渦の中に飛び込んでいく。最後だったか、続けざまに1枚目からの代表曲"I'll Stick Around"をぶつける辺りもカッコ良かった。我ながらよく覚えているなぁ。
ここでほぼ満足し完全燃焼に近かったが、次はさらに凄いバンドだった。
レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン。彼らもアルバムは2枚、本国アメリカを中心に爆発的に売れ、最も上り調子だった時期だ。
自分はCDを買って最初に聴いたとき、ヴォーカルがラップだったので違和感はあったが、ギターのリフは分かりやすく入り込めるものだった。
緊迫感と言っていいぐらい張り詰めた空気が漂う。第一線でツアーし続けていただけに音の破壊力は凄まじく、正面からまともに食らった観衆たちは全エネルギーを発散するかの如く踊り狂う。自分もリズムに合わせて飛び跳ねたりしていると水たまりで跳ね上げたので、相当に雨は強くなり足元はぬかるんでいた。
人が極限まで密集すると隙間がなくなり、その上を泳いで渡れるようになる。いわゆるダイヴはこのような状況で行われる。演奏に合わせ激烈に身体を揺らしていると、すぐ近くにいた知らないお兄さんに「あんちゃん、ノリ良いな!ダイヴするか?」とこちらの返事も待たないまま身体をグイッと持ち上げられ、気づけばギュウ詰めの観客たちの上で寝転がり流されていた。空を仰ぎ見ながら信じられない体験に浸っていたのも束の間、ちょっとした空間から地面に落下する。その際に足が当たったらしく、その人もアドレナリンが出ていたのだろう暴言とともに殴りかかられそうになったが、別の観客が「やめろよ」と制止してくれた。音楽そっちのけ。
途中、観衆たちの汗と雨が熱気で蒸発したのか、スモークを焚いたような状態になりステージ前は霧に覆われて見えなくなる。それでも演奏は続いていて、"目潰し"と呼ばれるステージからのバックライトが一斉に点いたとき、あまりの眩しさで視界全てが真っ白になった。そのとき、私は神を見たのである。
水分不足もあったのだろう、自分もこのライヴで足がつり、終わったときにはヘトヘトだった。全身がぐちゃぐちゃに濡れてしまい、そのままにすると体温を奪われて危険だという基礎知識もないまま、次のザ・イエロー・モンキーを観てみようという余裕もなかった。
ひとまず休憩がてら何か食べなくてはと、友人たちと合流。しかし僕ら3人とも財布の中までびしょびしょに湿っていて、お札も慎重に取り出さないと千切れそうなほどふやけていた…。
まだ続く(この先が本番とも言える)