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音楽ドキュメンタリー『ボビー・チャールズ 極楽の歌』

ボビー・チャールズ 極楽の歌』(2024、アメリカ、73分)
監督:デイヴィッド・デュボス
原題:In a Good Place Now: The Life & Music of Bobby Charles


開催中の「Peter Barakan's Music Film Festival 2024」で鑑賞。この映画祭でのみ上映。つまり、一般公開はない。少なくとも今のところは。それも込みで、確実に押さえたい一本だった。

ボビー・チャールズが主人公のドキュメンタリーとは画期的だと思う。ポピュラー音楽界にも知られざる傑物は無数にいるが、その中でも秘宝と言えるのでは。初期の代表曲"See You Later Alligator”は聴いていた。そして1972年のアルバム『Bobby Charles』も。当然、それらについては映画でも出てくるし、話題の中心でもある。名曲誕生秘話がドラマ風に再現されるところも胸が躍るし、あの名盤がいかにして結実したかも背景から丁寧に追っている。
上映後トークショー付きの回に行ったのだが、音楽の比重が少なくインタビューが主軸になっている構成は、楽曲使用料が予算を大幅に超えていて30秒以上使えないという裏事情があったらしい。そう指摘されて確かに喋りばかりだなぁ、特に音楽評論家だったか「よう喋りはる人やなぁ」と思った人もいたが、総じてミュージシャン仲間だったり、近くにいた関係者たちの愛あるコメントは心に沁みた。特にDelbert McClintonの、人生は思い出しか残らない、だからどれだけ良い思い出を作るかだ、との言葉に打たれたし、Dr. Johnの愛嬌ある振る舞いには笑ってしまった。あんなに剽軽な余裕ある人だったのね。
ライヴもほとんど行わなかったらしく、そういった映像もない。
10代半ばから早くも作曲の才能が開花し、労働しなくても暮らしていけるほどだったが、草創期の音楽ビジネスに搾取もされ、華々しい世界からは自ら距離を置いていった。隠遁に近い生活を送り、優しく人当たり良い性格を持ちながら、急に当たり散らすような二面性も持っていたという。意識的にか無意識的にか、他人を遠ざけていたのは、おそらく繊細さゆえだろう。そのような脆さがあったからこそ、あれだけの魂に響く音楽を作れたのかもしれないのだが。
シンプルな言い回しで真実を突く歌詞、気取らない朴訥とした歌声、すぐに耳を惹き長く印象に残るメロディ。間違いなく素晴らしい才能だった。が、音楽業界とは肌が合わなかったのだろう。青臭い言い方かもしれないが、数字や人気だけで音楽を測ろうとすると、人々から愛されるこうした飾らない誠実な音楽家を見失ってしまうだろう。
原題にもなっている名曲"I Must Be In A Good Place Now"が流れるエンド・クレジットに、改めてしみじみと聴き入る。この曲だけは最後までかけようと決めていたのかな。本当に、本当に良い曲だよね。

これは必見と言える。まだ何回か上映されるので、ぜひお勧めします。


トークゲストは陶守正寛さんで、このドキュメンタリーに早くから注目されていたお一人。監督との逸話や、ボビー・チャールズについてのさらに詳しいあれこれをお話してくれました。

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