
映画『怒れるシーラ』
アポリーヌ・トラオレ『怒れるシーラ』(2023、ブルキナファソ=セネガル=フランス=ドイツ、122分)
原題:Sira
言語:フラニ語、モシ語、フランス語、英語
「イスラーム映画祭10」ついに本日から開幕。
多分1日1本ずつ、計5本を観ることになりそう。
今年は全12作品。日本初公開ものも多い中、チラシにあるそれぞれの短い作品紹介から直感で興味の惹かれるものを、無理なく行ける時間帯で選んでみた。
まず1本目は『怒れるシーラ』(日本初公開)。
※内容に触れているので、これから観る予定の方は鑑賞後にどうぞ!
舞台は西アフリカのブルキナファソ、マリ、そしてニジェールを含むサヘル地域。ここで遊牧民として小集団で暮らす主人公シーラは、宗教は異なるが相思相愛である婚約者の元へ向かっていた。
ところが道中、武装した連中に襲われ、家族は殺され自身も連れ去られ性的暴行を受けてしまう。
炎天下の砂漠をあてどもなく歩き回るうち、その武装組織の拠点へと行き着くシーラだったが…。
夜の闇に紛れてキャンプ内の水や食糧を盗んだり、トカゲ?を仕留めたりして生き抜くシーラだが、かなりゆったりとしたテンポだと思ったら9~10ヶ月ぐらいはそのようなギリギリの持久戦を続けていたようだ。彼女は怯えや苦痛も隠さないが、立ち上がらなければ命はない、と同じような境遇にある女性たちを焚きつける強さもある。銃の使い方なども教わったらしく、冒頭近くでヤギを屠殺する際に自ら進んで行おうとする場面が性格を表していて、後々の展開に説得力をもたらしている。
囚われとなっている女性たちの中には、まだ高校生ぐらいの年頃の子もいるが、彼女もまた勇気を振り絞って全員を救うために行動を起こす。シーラの母も、家畜と畑を巡る揉め事についての会議で、自分にも参加する権利はあると主張し村の男たちに混じる。
武器を持つ男ども(一部彼らに味方する狡猾な女性もいる)に虐げられ踏み躙られる女性たちではあるが、決して弱いままで屈しているわけではない。
ある一人の頭(かしら)が取り仕切る武装組織も、忠誠度は低く、人もモノも足りず、内部では裏切りも画策されていて不安定だ。
側近の立場にいる者もそれぞれ思惑を抱えている。ナンバーツーは今は勢力を伸ばしている男に従ってはいるものの、本当は心優しく、皆んなを助けたいと策を練っている。あるいはナンバースリーは理想だけは気高くても、その傍若無人な手法で事を進めようとすることで強い反感を買っている。彼のやり口は中盤ではっきり示されるが驚きである。さらには同性愛者であることも明示される。それを隠すためにいわゆる男らしさを強調しようとしていたのかもしれない。
法も確立していなければ暴力が支配し、また産業もないと人々は経済基盤が築けない。非常に厳しい、凄惨とも言える現実が映し出される。
婚約者も何とかしてシーラを救出しようと、慢性的に人員不足である組織に仲間に入りたいと持ちかけ、独力で拠点に辿り着こうと危険な旅に出る。
憎い奴らを吹っ飛ばしてやれたらいいのに、と誰もが思うだろうが実際そのような展開になるので、逆に分かりやすい復讐ものとしてまとめられそうなきらいもある。しかし、否応なく産み落とした生命を一度はもろとも…とまで怒り狂っていたシーラは、半分は自分の血を分けた子と思い直したのか、そして婚約者もまた赦し丸ごと受け入れる。
次の世代に未来と希望を託す意図は充分過ぎるほど伝わってきた。
全体にやや類型的で重めの進行、鳥の生肉を血抜きもせず食って腹を壊さないだろうか…など迫真性が薄く感じた箇所もあれど、思い切った原色使いの鮮やかな服装であったり、どんな人間でもどこにいても神への祈りは欠かさない信念であったり、全く異なる文化の一つ一つに感銘を受ける。
ほとんど黄色に近い砂漠の砂や、赤土だろうかヒビ割れた大地すら鮮明な色だ。
こういう他では観られないであろう珍しい作品を上映してくれるからイスラーム映画祭は価値があり、通いたくなる。
最後に、英語だけど参考にしている情報サイトがあるので一応貼っておきます。