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映画『アンネ・フランクと旅する日記』
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アリ・フォルマン『アンネ・フランクと旅する日記』(2021、ベルギー・フランス・ルクセンブルク・オランダ・イスラエル 、99分)
いま語り直すアンネ・フランク
アンネ・フランクを、現在を舞台に語り直すアニメーション。
『アンネの日記』から架空の親友キティーに姿形を与え、現代のアムステルダムに降り立たせる。
この設定で、今の世界との繋がりを上手く表現している。
アンネ・フランクのことはもちろん知ってはいても、『アンネの日記』は読んだことがないまま今に至っている。
そんな私でも分かりやすいように、なおかつ十代半ばの二人に近い年齢の人たちにも入りやすいように作ってくれている。
現在と繋がる迫害
物語は、日記を媒介に、過去と現在を往来する。
アンネと家族が隠れながら生活した1942~1944年と、キティーが親友アンネを探す2022年。
物音も立てられず、文字通り息が詰まる中でも、アンネは感情を自由に表す。
姉マルゴーが羨むぐらいに。
想像の中でのアンネとキティーのやり取りは、ときに軽やかで、やはりときに押し潰されそうにもなっている。
一方のキティーは、何が起こったかを知らないまま、アンネを求めて町を彷徨う。
途中で出会う人たちは難民で、追い出されそうになると、共に手を取り苦境を乗り越えようとする。
同時に語られるこの展開も併せて、監督の主張は明確だ。
二人は永遠に生き続ける
歴史をどう伝えていくか。
いとも簡単に史実は歪められ、過去は書き換えられてしまうようにも見える。
そんな中で、ホロコーストが背景にある場合、その語り口は極めて慎重な倫理観と節度が求められるだろう。
あのような極限で書き残した言葉が、人の生を肯定してくれるものであったからこそ、アンネ・フランクと、そしてキティーはこれからも永遠に語り継がれていくだろう。
最後に、映画内でも引用され、手元のチラシにも載っているアンネの言葉を記して終わりたい。
「不思議だわ。これほど人間の邪悪な面を見てきても、今なお心の底で私は信じてる。人間の本質は”善”なのだとーー」