収録日記:2024/11/19 ~"May Your Kindness Remain"~

段差でうまく曲がれず転倒した人がうずくまっていたので、同じ自転車乗りとして思わず「大丈夫ですか?」と声をかけた。もちろん骨折とかなければ大事には至らないだろう、また普通に走り出していたのを見届ける。
宣伝・告知用(私にとっては記念でもある)に写真を撮ろうとモジモジしていたら、たまたま居合わせた方が「撮りましょうか?」と進んで申し出てくれた。自分の中では、ちょびっとした親切とも言えない親切心がカタチを変えて返ってきたのかな、と思った瞬間。

いつもと違う何だか不思議な日だった。
いま借りている部屋は半年だったか一年だったか、定期的に業者さんを呼んで水回りなど清掃してくれる方針のようで、たまたま今日がそれに当たった。なので、ゆっくり身支度と番組の準備をしたかったけれど、半ば追い出されるように出発。仕方ないので、園児たちが遊ぶ公園で日向ぼっこしつつ、ラジオを聴きながら持参したパンなどで朝食を取る。

台本の最終手直しと、選曲の詰めをしたい。書類とラップトップを広げられてWi-Fiの入るところ…あまり外でその種の作業をすることがないため、適当な場所なりお店が思いつかない。ひとまず渋谷へ。結局かなり早めに着いてしまった。でもどこもお昼時は人が多く、集中できる環境がない。あちこち探しているうちに昼食を取り損ねてしまい、肝心の収録時に空腹の音が鳴る始末。これは失敗だったね。プロ意識に欠けるかな。できるだけ最良の状態で本番に臨まないとね。
昨日からさらに気温も下がり風も冷たい。せめて温かいコーヒーでも飲むか…と久しぶりに入ったチェーン店は内装がリフォームされていた。一人だし、テーブル席よりカウンター席を選ぶ。スマホからだけどようやく選曲ができる。
多分、全ての候補曲をかけることはないだろうけど、念のため少し余らせるぐらい用意しておきたい。自分の中での約束事で、放送にのせる音楽は女性と男性の比率を半々にしている。そうすると、悲しいことだが女性の曲がいつも少し足りなくなる。今回もあと1曲が見つけられない。無理矢理イメージで結びつけられなくもないけど、どうもピタッとハマらない感覚があった。
かつて2018年の年間ベストアルバムに選出していたCourtney Marie Andrews (コートニー・メリー・アンドリューズ)というシンガー・ソングライターの『May Your Kindness Remain』が浮かんできて、そこに収められている"Kindness of Strangers"が良いかもしれない、と改めて聴き直してみる。併せて、他の曲も試聴してみると表題曲がすごく良かった。

And if your money runs out
And your good looks fade
May your kindness remain
Oh, may your kindness remain

Courtney Marie Andrews "May Your Kindness Remain"

「もしお金が尽きても
美しさが衰えていっても
あなたの優しさは残るだろう
その優しさは消えないだろう」

最後の歌唱で、感情が爆発するような箇所があり、ゴスペルに近い雰囲気もまた聴かせる要素。この曲が良いかな、と土壇場で完了。

と、番組のゲストにお呼びした方が隣の空席に座る。
こんなことってある?
局から近いカフェで、これまでも打ち合わせや時間調整によく利用していた店舗とはいえ、「偶然か必然か」。
私のお師匠さんは「偶然なんてあるのかな」と、全ての物事は必然でしかないと匂わせるような言葉をくれて、いまだにその意味を消化しきれず考え続けているのだけど、世の中の一連の出来事は起こるべくして起こっているのであって、それらを偶然とかシンクロニシティ(意味のある偶然の一致)と捉えたくなるのは私たち側のある意味で勝手な解釈なのかもしれない。

収録がうまくいったかは聴き直してみないと自分には確信が持てないけれど、お招きした方が「楽しかった」と何度も言ってくれたことに少なくとも胸を撫で下ろしている。
なんだか魂のレヴェルで高め合っているような気さえしてくる。尊敬と言うと上下の関係が発生するようにも思えて、敬愛もやや大仰なのかもしれない。慕う、が最も近いかも。お慕い申し上げます。そのような気持ちを抱かせてくれる人がいることで、誰より自分自身の心が洗われて磨かれて澄んでいく。
本当に良かったね、と思うし、まだもう少しだけ生きてみたい、と帰り道に自転車を漕ぎながら素直に思った。

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