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教育ダッシュボードのつくりかた① ~何のためにを考え抜き、先行指標を探索する~

お久しぶりです。前の投稿から4か月ぐらい空いてしまいました…。
ここからまた少し、週次ペースで投稿を再開したいと思います。お付き合いいただけると幸いです。


教育ダッシュボードのつくりかたを公開する

再開1回目は「ダッシュボードのつくりかた」として、学校教育×ICTでバスワードになりつつある「ダッシュボード」はどうやってつくるのか、解説してみたいと思います。
実は私がプロダクトオーナーをやっている「まなびポケット」でも先月、ダッシュボードの機能を提供開始しています。

本来はその宣伝しなくちゃいけないのですが、、、それだとこのnoteを個人発信でやっている意味が薄れるので、サービスをつくっていくうえで考えた過程などを公開しちゃいます。
「ダッシュボードをつくらなきゃ」となっている教育委員会の方が、最近結構多い印象なので、ダッシュボードをつくるうえでのポイントや役に立ちそうなノウハウなどをまとめてみます。

ぶっちゃけ、ノウハウ開示するとまなびポケットのダッシュボードが売れなくなるかもなので会社から怒られるかもですが、、苦笑
まあでも、得られたノウハウは共有した方が社会のためってことで、それも仕方ない(?)と諦めてもらいます。

ちなみにこのダッシュボード、ちゃんと検討過程やノウハウを記載すると結構なボリュームでして、、全4回ぐらいになる想定です。
ダッシュボードを検討している教育委員会の皆さんにとっては、何らかしら気づきのあるものにしていくつもりですので、長丁場ですがお付き合いいただけたらと。

ダッシュボードが求められている背景

そもそも、学校教育においてダッシュボードが求められている背景ってなんなのでしょうか?
私はプレゼンさせていただく際に、以下のスライドを良く使っています。

DX(デジタルトランスフォーメーション)には3段階あると言われています。
学校教育に置き換えると、GIGAスクール構想はまさにツールとしてデジタルが導入される「デジタイゼーション」。そして学校現場では先生方の業務や子どもたちの学びの変化「デジタライゼーション」が起き始めています。一部では価値基準そのものの変化「デジタルトランスフォーメーション」が起きている現場も。
多くの学校現場は過渡期である「デジタライゼーション」の時期に来ていますが、ここは「人の行動の変化」を伴うため、一番変えていくことが難しい時期とも言えます。

そのデジタライゼーションを後押しするのが「データ」です。
教育現場でも「データ駆動型教育」という言葉が使われるようにになりましたが、元は2015年の経済産業省の委員会で出てきた「データ駆動型社会」という言葉で、その教育版という感じです。後の「未来投資戦略2018」で閣議決定された文書の副題タイトルにもなっています。
Society5.0という新たな社会において、データによって社会や教育の在り方が形成されていく、ということが示されています。

デジタル庁・総務省・文部科学省・経済産業省でとりまとめた「教育データ利活用ロードマップ(私もデジタル庁の中の人として関わっています)」も、そういった背景のなかでまとめらられた文書です。
文部科学省がとりまとめた「GIGAスクール構想の下での校務DX」でもデータ連携基盤=ダッシュボードが真ん中に据えられ、業務変革の中心的役割であることが示されています。

文部科学省「GIGAスクール構想の下での校務DXについて」より

人々は、ダッシュボードを目指し、夢を追い続ける。世はまさに大データ時代!!!(ドンッ!!!)という感じでしょうか(違う)。

どんなダッシュボードをつくる?の前に、自治体としての目標や課題の再確認

ではどんなダッシュボードつくるのか?
「じゃあ校務支援システムを活用してやるか」とか「PowerBIでデータを可視化するにはどうしたら良いのか」みたいな話はまだまだ先で、まずは「何のために(Why)」を洗い出していくのがおススメです。

「何のために」は皆さん色々意見があると思いますが、自分が教育委員会の担当者であるなら、まずは我が町で立てた目標や施策を再確認してみます。ほとんどの自治体で教育振興計画って立てていますよね。

組織の全体計画から「データ」で見ていくべきことを見つける、こういうトップダウンのアプローチは1つの常道なのだと思います(もう1つは現場から考えていくボトムアップアプローチですが、それは次回に)。

とはいえ、具象がないと分かり辛いと思うので、私が小学校・中学校と育った東京都小平市の教育振興基本計画を例に「何のために(Why)」を探してみたいと思いますー
(小平市教育委員会の方々、勝手引用をお許しくださいー)。

生まれ育った東京都小平市を例にやってみる

ググってみると以下が小平市の教育振興基本計画。今年の4月に第二次として改訂されているらしい。

そこからあるべき姿や数値目標っぽいものを探してみます。
※ここからの画像は小平市の教育振興基本計画を切り貼りして当方でまとめたものです。切り貼りした画像の流れを見たい方はこちらはご覧ください。

小平市の教育振興基本計画を読むと、「社会的に自立し、地域・社会に貢献しながら、他者と共生する人」が目指す人間像。人格の完成(≒自立)と社会の形成者(≒他社と共生)って感じで教育基本法オマージュっすね。ステキ。目指す人間像の部分は、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)でいうところのミッションでしょうか。
そして基本理念は「学び・体験を通じて お互いに認め合い 励まし合い 共に生きるまち小平」。ミッションに対する具体的な在り方を示しており、これがビジョンと言えそうです。
そのうえで、3つの目標。自立・共生・貢献の3観点で整理されています。

うーむ、いつも思いますが、地方公共団体ってこういう方向性の整理をちゃんとやっていて素晴らしいですね。とかく公共団体は民間を見習うべき、みたいな論調が多いですが、この辺は企業が自治体を見習うべきところなのかな、と感じます。

さらにこの3つの目標に対し、定量的な目標値が出てきます。

目標値を見てみると、3つ目の「貢献」は学校教育以外が指標になっているので、一旦今回の「ダッシュボード」として範囲外にします。
そうすると、見るべき目標値は3つ(良いところ・得意なところがあると思う、自分を大切な存在に思う、地域とのつながり)に絞られます。

じゃあ、この3つを「ダッシュボード」で見れば良い?

いやいや、目標値はさらに細かく分解されているようなので、もう少し見て見ましょう。

さらに分解した目標値を追ってみる

残った2つの目標(自立・共生)に対し、合計10の施策が連なっています。そしてのそれぞれに目標値が設定されています。

※図が小さすぎなので、再度になりますが全体像見たい方はこちら

10の施策のうち、2つは学校教育外のようなのでこちらも範囲外にします。
そうすると、8つの施策に対し計20の目標値があることが分かりました。
これが教育データをダッシュボードとして可視化する「何のため(Why)」の1つの答えだと言えそうです。

つまりはこの20の値が、市として追いかけるべきデータ=ダッシュボードで表示するものである!!


とはいかないのが、ダッシュボードづくりの難しいところです(涙)

追いかけるべきは先行指標であって結果指標ではない

ではなぜ、この20の目標値をダッシュボードに出せばOKではないのか。
それはこの20の目標値は全て結果指標(遅行指標)だからです。

「結果指標(遅行指標)」とは、様々な行動の結果、表れてくる数字のことです。企業でいえば「売上」などの値は典型的な結果指標です。
その結果指標が表れてくる前、先行的に表れる数字が「先行指標」です。売上が結果であるなら、見込み客の数や日々の客単価の推移などです。

「データ駆動型」という言うからには、データによって行動を変えていかないと意味がないはずです。
結果の数値が表れてくる前、その要因になる数値=先行指標を把握し、状況に応じてアクションを起こし、より良い結果に導いていくことが求められています。

自分事にしてみると、私は毎年の健康診断でメタボ診断としてお腹回りのサイズを計測しています。
これは糖尿病など(結果指標)になるまえに、お腹周りのサイズ(先行指標)を測って、その状況に応じて生活習慣を改善していくためです。

生活習慣病とメタボリックシンドローム」より

翻って例えば「学力調査の正答率をあげる」という結果指標の場合は、学力調査があがる要因の状態や行動をモニタリングして、必要なら改善をしていかないといけないはずです。
なので、この20の目標値を見ているだけでは目標達成ができない。つまりはダッシュボードで見るべきデータとしては足りない、となります。

「学力の先行指標が学級経営である」という分析結果

では学力調査の結果に対して、先行指標となるものは何か。
1つの例として、埼玉県が行っている「埼玉県学力・学習状況調査」の報告書を見てみます。

学力調査と質問紙調査を掛け合わせ、学力の伸びに対する因子を分析しています。以下、結果を図示したものの抜粋です。
※詳細は是非、上記リンクの原文をご確認ください

「令和2年度 埼玉県学力・学習状況調査報告書」より

学びの質によって、学びに向かう力などの資質が磨かれ、それによって学力が伸びる。その学びの質は、学ぶ集団の状況・状態=学級経営に依存する。
これって、恐らく多くの先生方からするとすんなり腑に落ちる(またはそんなの当たり前だろ)という結果なんじゃないかと思いますが(だからこそ先生方の勘と経験はデータ時代でも超大事)、ちゃんとデータで証明されたことに意味があるとも言えそうです。

小平市でも20の目標値のうち2つが全国学力・学習状況調査の平均正答率の向上でした。そうなると、埼玉県の結果を踏まえて見るべき先行指標は「学級経営の状態」や「主体的・対話的で深い学びの実施状況」になってくるはずです。

教育データの構造整理の重要性

こう考えると、多くの学校でQ-Uが採用されている理由も分かってきます。学級経営の状態を可視化することは、いじめや不登校の未然防止だけでなく、多くの自治体が目標としている学力調査の結果にも直結するためです。

一方で、どの学校でも目指している「主体的・対話的で深い学び」についての定量指標がほぼ世の中に見当たらないことに驚きます。
こんな大事なこと=データとして見るべき箇所について、データ化するための取り組みがほとんどない。教育データの構造的な整理が足りていないことの証左とも言えそうです。

そんな状況なので、まなびポケットでダッシュボードをつくるにあたっては、一般社団法人School Transformation Networkingが公表してくれているScTN質問紙の内容の体系等を参考に、教育データの構造を私なりに整理しています。大まかには以下の図のようなもです。

上記を、改めて埼玉県の分析結果と照らし合わせて見ると

  • 学習集団(=学級経営)という環境が、学びの質(=主体的・対話的で深い学び)を支え

  • それにより資質(=学びに向かう力など)や能力(知識・技能、思考・判断・表現力等)の向上に繋がり

  • 結果として学力調査の値が向上する

となり、左から右に埼玉県の分析結果とほぼ同じ内容で遷移することになります。

データによって行動を変えていく、ということは意外に難しく、人の行動変容のきっかけって多くは誰かの影響が多かったりします。つまりは、ダッシュボードの本質って、ダッシュボードを通じた人と人のコミュニケーションにあるのではないでしょうか。
そうなると、データの構造や関係性の共通理解ってとても重要なんじゃないかと思っています。

上記の図は一社ScTNの研究を踏まえた(というよりパクらせていただいた)私なりの表現なので、当たり前ですがこれが正解という訳ではないです。
ただ「何のため(Why)」を整理したうえで、何の値がどの結果に関係してくるのか、それを共通認識とするための教育データの構造を整理しておくことは、ダッシュボードを構築する教育委員会の方々にとって必須の営みだと感じています。

おわりに

久しぶりの投稿で加減が分からず、今回も5,000字を超える文量になってしまいました…。なので続きは次回とさせていただきます。

ちなみに教育データの構造整理で触れさせて(パクらせて)いただいた、一般社団法人School Transformation Networking(略称:ScTN)が公表しているScTN質問紙は、MEXCBTから無料で実施可能です。

主体的・対話的で深い学びの状況を把握する方法がない、と前述していましたが、ScTN質問紙は主体的・対話的で深い学びの状況を子どもが回答する質問紙として発表し、無償提供しています。
データ駆動型教育を考えるうえで、この部分をデータ化することは絶対的な命題と言えると思っており、是非活用が広がって欲しいと強く思っています。

その一社ScTNが行うイベントが今週開催され、私もゲスト参加する予定です。一社ScTNの理事長でもあり独立研究者の山口さんと、理事で熊本大学の苫野先生とのセッションとなっています。

私のデータの構造整理の部分なんて完全に山口さんの受け売りですし、その根底にある哲学、原理は苫野先生が整理されたものです。

かなりの人数が申し込みされているらしいですが、オンラインなので枠はほぼ無限っぽいので、このnote読んでみて少しでも「オッ!」って思った方は、是非お申込いただけたらと。
11月10日(金)19:00~のオンラインのライブセミナーです。
ダッシュボードを考えるうえで、今回のnoteの100倍、本質的な話が聞けること請け合いです!!
※山口さん・苫野さん、勝手にハードルあげてごめんなさいぃぃ

では今回はこの辺で。
また来週、宜しくお願いしますー

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