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フィンランドの学力はなぜ下がったのか?

前回の「GIGA時代の新しい中心概念?自己調整学習・AARサイクルとは?」の後半で、「自己調整の学び」について

放っておくと「できる子を伸ばし、できない子には効果が薄い」になる、ということ。格差を広げる要因にもなりかねない

という考察の紹介をしたりしていました。※前回の内容は以下にて

先々週話題になった「フィンランド教育の失敗:日本の詰め込み教育はそこまで悪いのか?」という動画が、上記に近い話が内包されていたので、この動画の紹介と、自分がこれを見たあとのリアクションや感想などを書いてみます。
※今回は明確な結論がなく、ヤマなし・オチなし・意味はあるかも、ぐらいの内容なので、ゆるい気持ちでお読みいただけたと


フィンランド教育の失敗:日本の詰め込み教育はそこまで悪いのか?

話題になっていた動画は以下です。


SNS上では「タイトルで釣っている」「日本は詰め込みじゃないよ」などのツッコミも多かったですが、個人的にはとても興味深かったです。
この動画から色々考え・調べちゃったりしたので、投稿主の狙い通り・思う壺にハマった感があります。

詳細は上記の動画を見ていただくのが良いと思いますが、動画をの内容を要約(といっても字幕引っこ抜いてChatGPTに要約してもらっただけですが)を箇条書きすると以下のような感じ。

・2000年代初頭、フィンランドは国際学力調査で高い評価を受けた
・1990年代の教育改革で宿題や試験を削減し、個性重視に転換
・この改革の最中にPISAのスコアが向上するも、その後急速に低下
・改革が評価されたが、教育政策は効果が出るまでに時間がかかるもの
・つまりは個性重視の学習方法が、学力低下や格差拡大の要因ではないか
・一方で、日本の詰め込み型の教育は安定した学力維持に貢献している
・急激な教育改革はリスクがあり、小さな改善の積み重ねが重要

様々なデータやレポートから考察されていて、なるほど、と唸る部分も多かったです。
が、自分は疑り深い性格なので、こういうの見ると「本当かな?」「実態はどうなんだろ?」とか思って1次情報探ったりしたくなっちゃいます。

フィンランド政府自体はどう評価している?

ということで1次情報を、と考えたのですが、1年ぐらい前にフィンランド政府自身が報告書を公開していたのを思い出しました。
以下がその報告書で、当時読んだのですがうろ覚えで、今回改めて確認しています。

このレポートは、フィンランド政府が1950年代から現在までのフィンランドの教育政策全般を振り返り、将来の政策策定における指針を提供することを目的に作成されたものです。
このレポートのなかで、動画が述べている学力低下の要因を確認してみると(といっても生成AI読み込ませてに聞いています)以下の通り。

①教育システムの変化
1990年代にフィンランドの教育システムは中央集権的から分権的に移行し、地方自治体や学校、教師の自律性が大幅に拡大さた。この変化が学力低下に影響を与えた可能性がある。
②教育資源の減少
1990年代の経済不況時に、教育予算が大幅に削減された。このことが、その後の生徒たちの学力低下に寄与していると考えられる。
③社会経済的格差の拡大
学力低下は特に低い社会経済層や成績が低い生徒の間で顕著であり、これが学力低下の一因とされている。また、社会経済的格差が拡大したことも学力低下に関連している。
④文化的要因
テクノロジーの普及により、読書習慣や計算能力が変化し、これが学力に影響を与えている可能性がある。また、教育に対する価値観の変化も学力低下に影響していると考えられる。

こんな感じ。動画で学力低下の要因として述べているが「①教育システムの変化」ですね。
一方で、動画のなかでは「教育は因果関係が掴みづらい」とあるので、②~④の考察もしてみました。

教育予算が大幅に削減された?

「教育予算が大幅に削減された」とあるが、どれぐらい削減されているのか。レポートでは詳細の​記載がないので、ざっとWEBで調べてみるとGDP比の教育予算の減少が問題視されているようです。
具体的な数字を見るとこんな感じ。

https://graphtochart.com/education/finland-government-expenditure-on-education-total-of-gdp.php

青がGDP比率、赤が名目GDPの絶対額。
確かにGDP比率は1993年をピーク(PISAの結果で大盤振る舞い?)に減少、近年また盛り返しているようです。が、そもそもGDPも上がっているので、絶対額は緩やかに増えていそうです。

絶対額が増えたとしてもインフレしていたら意味ないので、これにインフレ率(消費者物価指数)を加味して、1990年を基準年に予算の推移を見てみます。(この辺は生成AIが本当に便利。数字計算は間違い多いので、多角度で実施して内部検証までやらせないと精度低いのが難点ではありますが。)

確かに2000年代に落ち込み・停滞していますが、その後の教育予算はインフレ率を踏まえても増加傾向です。
②の教育予算の減少、というのはちょっと怪しそうです。

社会経済格差が拡大した?

社会経済格差の拡大は確かにありそうです。社会経済格差を表す指標は色々ありますが、今回はジニ係数で確認してみます。

1990年を起点に5年毎で見ると以下みたいな感じ。

直近は抑制されていますが、確かに1990年以降は上昇=格差が拡大している傾向にあるようです。
でも、それって世界的なトレンドだったりしないかな、と疑り深い自分は思ってしまう。なので国際比較してみると

予想通り世界的なトレンドだったようです。紫がOECD加盟国の平均値、青がフィンランド。ついでに日本・アメリカ・中国も比較してみました。

これを見ると、フィンランドはほぼ世界のトレンドと同じに見えます。そして世界的に見ると格差が小さいことも分かる。
どっちかと言うと日本の上昇傾向のほうが怖い感じ(むーん)。そしてアメリカや中国は格差大きいっすね。中国が縮小傾向にあるらしいのが意外。これは別で本当か確かめようかな。

ということで、社会経済格差は確かに広がっているが、相対的には小さく、かつ世界的なトレンドとも差異が少ない。なので、社会経済格差の拡大が国際比較での学力低下の要因としては怪しい感じがします。

テクノロジーの発展が学力を下げた?

「いや、これこそ世界的なトレンドでフィンランドだけじゃないでしょ」で自明な感じがしますが、、、一応、フィンランドの学校でのICT環境整備の状況を調べようとしたのですが、定量的な数字はサクッとは調べられませんでした。

おおよそは日本に近く、2012年時点でPC教室だけでなく普通教室にPCやインターネットが整備されつつあり、コロナ禍での2020年に一気に1人1台に近い状態になったようです。

ちなみに当然、テクノロジーによって学力が下がることはありそうですし、逆に上がる研究結果もあります。

動画教材を提供するカーンアカデミーによって学力が向上することを証明した研究や、オランダで電子書籍によって読解力向上になった研究がありつつも、ノルウェーの電子書籍で読解力が下がる結果となった研究もありますし、古くは計算機使うと計算能力・数学の概念理解の低下する、みたいな研究結果もあります。

とはいえ、テクノロジーは既に実生活に入り込んでいるので除外は難しく、要は「道具をうまく使えよ」ってことなのかと。それを前提として指導・支援方法の確立が重要なんだとは思います。
ということで、テクノロジーの発展が要因、というのも怪しい感じ。

結局何が原因なの?

フィンランド教育省のレポートに記載ある4つの要因のうち、3つは怪しい。
となると、動画で述べられている通り、教育システムの変化が要因なんでしょうか?
正直なところ良く分からん、が自分の今の結論(最初に言った通り、オチなし)。でも教育システムの変化、は可能性が結構ありそうです。

フィンランドの教育政策の転換ポイントは、大枠では「学習者主体」と「権限移譲」。
日本も「学習者主体」に舵をきりつつあり、現場への「権限移譲」への声も強くなっているように感じています。

これらは「誰もが自分らしく学べる社会」の手段であると考え、自分も「どちらも進めていくべき」という考えの立ち位置です。
が、今一度足元を見て「それらをどうやって進めるのか」を考え抜く必要があるな、というのが動画を見ての個人的な感想でした。

自分は変化強いタイプなので「大きな変化を求めがち」だったりします。それをメタ認知しつつ、安易な「改革」ではなく、さらに思考を深めてアクションせねば、という自戒になりました。
いやー、その意味で個人的にはとても良い動画でした。

おわりに

ということで、話題になっていた「フィンランド教育の失敗:日本の詰め込み教育はそこまで悪いのか?」を見てのアクションや感想でした。

「PISAのスコアで広範な意味の「学力」を語って良いのか」というそもそもの感想もありますが、PISAの問題って良くできているので、これはこれでめっちゃ重要な指標だと感じています。

今回の内容は、私が「どんな感じで知識習得しているのか」を共有した部分もあるのかもな、と思っています。いやー、生成AIが出てきてから頼りっぱなしなのがバレます。

一方で、生成AIに頼っていても思考力が落ちている感じはせず、むしろ生成AIによって、思考の深さも速さも向上しているように感じます。
今回の統計調査や計算が、数十分でできてしまうのは、生成AI以前は考えられないです。
なので、テクノロジーは使い方次第なんだろうな、というn=1の実感です。

次は何書くか全然決まっていないですが、できればまた来週日曜日に。
ではまたー。

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