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韓国AI教科書10の機能
前回に引き続き、韓国のAIデジタル教科書について。今回は具体的にどんな機能が提供されるのか、実際の画面などを元に解説してみます。
ちなみに前回は以下です。2025年3月から韓国でAIデジタル教科書が提供開始されることなどを書いています。
AIデジタル教科書ってどんもの?
AIデジタル教科書がどんな機能を有しているのかは、前回の記事でも触れた「AIデジタル教科書開発ガイドライン」のなかで、「必須」「推奨」などの要求水準で規定されています。
が、ガイドラインの文言だとなかなかイメージ湧かないと思うので、実際提供される製品、ここでは検定通過が最も多かった天才教育社のAIデジタル教科書の10機能を紹介してみます。
ではいってみましょー。
1. 授業準備支援
先生の授業準備を支援する機能。対象のクラスの状態に応じて、教科書に合わせてカスタマイズされたコンテンツがお勧め。
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単元ごと・難易度別の「問題バンク」があり、組み合わせて独自のデジタル問題集も作成可能。
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2. 学習状況の可視化
「問題バンク」を利用して作られたカスタマイズされたの問題集の結果をAIが診断・評価。
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診断・評価の状況はクラス一覧で確認可能。
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数学の場合は領域・単元ごとの関係性や状況を学習マップとして可視化。
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3. リアルタイムフィードバック
英語の場合はAIとの対話による学習も可能。
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英作文の添削もAIが実施。
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AIによる発音チェックや
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「書く」「描く」もタブレットで行い、AIが判定。
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4. 授業・学習を補助するツール
授業で必要な補助教材が学習画面上で準備されていていつでも活用可能。
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タイマーやベルなど、自分なりの学習方略を助けるツールも提供。
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一斉指導時に先生の画面と強制同期する機能があり、児童生徒のデジタルノートの状況を先生側でリアルタイムで確認可能。
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5. プログラミング教育
マイクロビットと連携したプログラミング。
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Orangeと連携したデータサイエンスの学習やPythonなどの実習。
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実習のコーディングではAIがその場でコードレビューしながらサポート。
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6. 生徒管理・評価
授業への参加=出欠状況も自動で取得・集計。
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各々の児童生徒の状況を総合的に分析し、各々にあったカリキュラムを自動生成。さらにそこから先生が編集することも可能。
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確認テストなども先生側での評価項目の選択などで生成可能で、クラス・個々人の結果を集計して分析。期末評価の材料が自動で集まる。
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クラスの状態もデータから分析し、結果をAIが自動生成。
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7. 宿題・課題管理
宿題・課題も様々な学習コンテンツから選択して出すことが可能。
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課題提出状況はリアルタイムで確認可能。
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8. チャットコーチング
児童生徒は気になる点はAIチャットボットに相談が可能。
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9. 協働学習支援
クラス内でのデジタルノートの共有やデジタル模造紙でのディスカッション、チャットによるコミュニケーションにも対応。
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10. 児童生徒のモチベーションアップ
児童生徒の活動状況を見て、先生からスタンプとポイントを付与。
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もらったポイントで、児童生徒は自分だけのアバター・空間を作成可能。
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AIデジタル教科書はほぼフルパッケージ
ざっと解説するとこんな感じです。皆さん、どんな印象でしょうか?
以下ではこの内容を動画で見ることができます(韓国語ですが)。
個人的には、日本で言うところの「学習者用デジタル教科書」「指導者用デジタル教科書」「AIドリル」「プログラミング教材」「授業支援ツール」「デジタルライブラリ」「校務支援システムの一部」がフルパッケージされているもの、という印象です。
これが提供されちゃうと、韓国国内の学校向けのEdTechは全滅になりそう、とか思っちゃいました。
が、このデジタル教科書の予算規模がかなり大きく、その辺りどんな狙いがありそうかは、次回(結局、今回で終わらなかった)で自分なりの解釈を書いてみたいと思います。
紙との併用・デジタルのみの両方に対応
今回の解説で用いた動画では触れられていないのですが、以下のマニュアルなどを見ると、紙教科書の紙面そのものも収録されていて、いわゆる電子書籍的なデジタル教科書としても活用可能です。
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教科書会社が公表している指導計画も、①紙のみ、②紙とデジタルを併用、③デジタルのみ、の3パターンがつくられているようでした。この辺りも先生方に寄りそって結構手厚くやっている印象です。
紙の教科書の再現では検定が通らない
ちなみに今回のAIデジタル教科書の開発ガイドラインには、「紙の教科書そのままではダメ」と記載されています。
日本のデジタル教科書はこれと全く逆で、法律で「紙面の完全再現でないとダメ」となっています。
極めて対照的だな、とガイドラインを読んでいて驚いたところです。
以下がその記載箇所。
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ハングルだと皆さん分からないと思うので、ここの本文だけそのまま翻訳してみます。
・既存の書籍型教科書に依存するのではなく、独立した形で開発され、個別 学習者にカスタマイズされた方法で提供する
[ePub(電子書籍)方式 ー移行→ クラウド(SaaS)WEBサービス]
・従来のデジタル教科書と同様に、書籍型教科書の版型に基づいてコンテンツを追加する方法ではなく、カリキュラムに応じてさまざまなAI機能を活用して個別のカスタム学習支援を可能にする開発・提供
これって
デジタイゼーション(置き換え)
デジタライゼーション(価値向上)
デジタルトランスフォーメーション(価値変革)
というDXの3段階に当てはめると
日本:①と②の間(紙面再現必須)
韓国:②と③の間(紙面再現NG、WEBサービス化&個別化必須)
という対比に見えてきます。うーん、この差は結構大きい。
内容面だけでなく技術面も検定の対象
日本のデジタル教科書が紙面再現を必須にしている要因の1つとして、そもそもデジタル教科書に対する検定が行われていないこと、があげられます。
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そうなっている要因はいくつかあるでしょうけど、根本的には要員不足なんじゃないかと思っています。
技術面を検定する場合は「どういった部分をどんな観点でどのような水準で検定するのか」を1から考え・実行していく必要あります。それをやりきることが、技術的にも量的にも(他にもやること山積みという意味も含め)困難なのだと思います。
この辺り、韓国の場合は前回も触れましたが、国として教育分野での技術集団「韓国教育学術情報院(KERIS)」があることが大きそうです(検定そのものはKERISがやらないみたいですが)。
日本には相応する組織がないのが、GIGAスクールでも苦しんでいる部分なのだと思っています。(逆に言えば、それでもここまでできているのもすごい)
国としての学習データの収集・分析
また、前回の記事で、以下の図を参考で出させてもらっていますが
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この一番下の学習データハブで、国としての学習データの収集・分析が行えるようになっています。ガイドラインでも以下のようにデータ項目が例示されていて
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といってもハングルだと分からんですよね(汗
上記を翻訳すると
学習時間、対象の指導要領/単元コード、学習計画の進捗度、アクセス時間、形成評価の状況、AIによる推薦で学習が進んでいるか、AIチャットの利用度合い、先生の問題作成等の頻度、生徒間のコミュニケーション頻度
などを収集・分析することになっていました。
これらをxAPIという国際規格に則り、匿名・仮名化して個人情報ではない状態にして収集し、ビッグデータとして分析していくことになっています。
この辺りも国として分析するデータ項目を明確にし、かつ国が用意・管理するデータストアで行っていくあたり、ここも「韓国教育学術情報院(KERIS)」の存在がとても大きそうです。
おわりに
ということで、今回は主に韓国のAIデジタル教科書がどんな機能を提供しているのか、について書いてみました。
前後編と前回言っておきながらですが、書ききれなかった部分があるのであと1回続きを書かせてもらえたらと。
韓国政府がこの政策をどんな意図で、どれぐらいの予算をかけて行おうとしているのか。事実と推測が混じる部分ですが、かなり戦略的な動きに見えるので、その辺りの個人的な見解を書いてみたいと思います。
ではまたー。