【最速解説】学習eポータル 標準モデル Ver.3.00
今回は4月7日に公開された「学習eポータル標準モデル Ver.3.00」について、最速解説してみます。
(翌日の4/8に書いていたのですが、塩漬けにしてしまい、最速と言っても1週間以上経ってしまった….。)
MEXCBTの利用に伴って学習eポータルやそれらと連携するシステムが広がりつつあるのですが、一方で「学習eポータルってなに?」という疑問が無くならない、または話題になることが多くなりかえって増えているようにも感じています。
なので、大元として「学習eポータル」とは何かを規定し、今後のデジタル学習環境の在り方を示している「学習eポータル標準モデル」の最速解説をしてみます。
そもそも「学習eポータル」とは?
とは言え論点戻って、そもそも「学習eポータル」何なのか。
ICT CONNECT 21に「学習eポータル」まとめページがあるので、そこを引用させていただくと、以下となります。
イメージビデオもあるので、そちらを見ていただくと分かりやすいかも。
児童生徒や先生、保護者の窓口として機能し、あらゆるデジタル教材・ツールの入り口となる。さらに学習データのフィードバックも行うクラウド型のアプリケーション、ということになります。
では「学習eポータル標準モデル」とは?
では本題の「学習eポータル標準モデル」とは?
こういうときは学習指導要領回答Botの自己2番煎じですが、以下で聞いてみましょう。
では聞いてみます。
Q. 「学習eポータル標準モデル」とはなんですか?なぜつくられたのでしょうか?
「デジタル学習環境」というのが少し聞き慣れない定義ですが、GIGAスクールでの1人1台環境含め、1人1アカウント前提で、クラウド上のアプリと学習データが利活用されるようになる環境、って感じでしょうか。
そのなかで、学習eポータルがアプリとデータに関するハブになってくるので、そこのやりとりは標準化(みんなで同じ方式を使うように)することで、全体の効率を高め、利用者の利便性も高めていこう、という取り組みと理解できます。
Ver.2.00とVer.3.00の違いは?
先ほどのAI Botの回答にもありましたが、今回がVer.3.00ということは、Ver.2.00も1.00もあるはず。
確認すると、Ver.1.00が2021.4、Ver.2.00が2022.2に公表されており、3回目のメジャーバージョンアップ。大体、1年に1度の改訂となっています。
ではVer.2.00とVer.3.00ではどこが違うのか。大きく外から見える違いは以下の3点です。
①文書が再構成され、新たな項目が追加された
Ver.2.00とVer.3.00を比較すると、章立ては同じ7章ですが、要素が再構成されつつ、新たな項目も追加されています。個人的には要素が多くなっている割に、読みやすくなっている印象です(自分はこういう文書に慣れている、という前提ではありますが、、)。
違いを図にするとこんな感じ。
書かれている内容が分散・集約され、再構成されています。
また、「5. 運用に関する指針・要件」と「6. 学習eポータル標準モデル Ver.4.00に向けて」という章が新たに追加されています。
従来のVer.2.00がシステム間の相互運用のための「技術仕様」が主だったのに対し、Ver.3.00ではデジタル学習環境の在り方を通じた「技術以外のルール」にも言及するようになっており、次の改訂に向けた予告も追加された格好です。
この辺りは、後述する様々な立場の方が参加した専門家会議の議論が反映されたことが要因ではないでしょうか。
②対象となる製品カテゴリが追加
2つ目は対象となる製品カテゴリが追加されたことです。
以下のような図が提示されており、左にある「校務支援システム」と「学習ツール」が追加されています。
校務支援システムと学習eポータルとの連携は、児童生徒や先生などのアカウント情報の連携です。ここはOneRosterという規格を利用し、校務支援システムの名簿情報が学習eポータルとCSVで連携することが規定されています。
これは名簿を2つ登録・管理・更新せずに済むという学校現場の負荷軽減の観点と、校務と学習でID(利用者識別子)を統一できる、という裏側かつとても重要な点も担っています。
この辺りの詳細は、手前味噌ですが以下で記載していますので、ご興味あれば見ていただけたらと。
もう1つは「学習ツール」。こちらはVer.2.00ではMEXCBTだけだったのですが、今回からはそれ以外、例えばデジタル教科書やAIドリル、授業支援システムや動画教材などなど、あらゆるデジタル教材・ツールに対する基本的な連携仕様が追加になっています。
③より多様な立場の方が参加しオープンに議論し作成
3つ目の違いは作成プロセスです。Ver.2.00までは文部科学省の委託事業と連動し、ICT CONNECT21の「学習eポータルSWG」で議論されていましたが、今回は様々な立場の方が参加する「学習eポータル専門家会議」でオープンに、ある意味で批判や注文もしっかり述べられ、それも反映しながら作成が進められています。
学校現場の方々や大学の研究者、EdTech事業者や校務支援システム事業者、OS提供事業者や紙の教材の事業者、もちろん学習eポータルの事業者も参加しています。
時に鋭い指摘や批判・提言もあるなど、忌憚のない意見も出ている一方で、それらの意見が反映されて文書の内容が変化している様も見えて「予定調和じゃない会議なんだな(失礼)」と感心しています(どの目線でモノ言ってんだ)。
他にも学習eポータルSWGや校務系-学習系情報連携SWGなど、延べ91組織154名が作成に関わっています。自分はこんなに多様・多数の人が関わっている国の技術標準を見たことがありません。
この変化は中身ではなくプロセスの話ですが、「標準化」という観点ではとても評価できる変化なのでは、と感じています。
基本的な考え方が整理されている
また、今回のVer.3.00では「学習eポータルをハブとしたデジタル学習環境」について、基本的な考え方が整理されています。
これは前述した「専門家会議」の第1回でも「ベースとなる考えが整理されていない」などの発言を受けての記載のようです。
記載された内容は以下の5つです。
データ連携規格等の標準化
学習eポータルおよび学習ツール選択自由度の確保
教育データの適切な取り扱い
いつでも・どこでも安心・安全に学べる環境の確保
持続可能なエコシステムの確立
専門家会議では、1は異論などはほぼ出ず、3と4はとても重要で引き続き整理が必要となり、2と5は様々な意見が出て最も議論が多かった印象です。いわゆるエコシステム・ビジネスモデルの議論で、そこを受けて5章の「運用に関する指針・要件」の章が追加されたものと見受けられます。
デジタル学習環境のユースケースも更新
学習eポータル標準モデルを通じて実現するデジタル学習環境によるユースケースについても更新がされています。
例えば「興味関心や特性をもと にカスタマイズされた 問題や学習方法で学ぶ」などでは以下のような例が記載されています。
いわゆる弱点克服の学びだけではなく、興味・関心や認知特性に応じた個別最適な学びの例も記載されていたりします。
これらは当然ながら学習eポータルだけで実現できず、学習ツールなども含めた「デジタル学習環境」で実現するユースケースとなっています。
システム間の相互運用のための技術仕様
システム間の相互運用のための技術仕様についても更新されています。ここはVer.2.00で主だった部分で、前述の通り3.00では「校務支援システム」と「学習ツール」が追加になっています。
校務支援システムと学習eポータルとの名簿連携ではOneRoster、学習eポータルと学習ツールとのシステム連携はLTI、学習ツールとLRS(Learning Record Store:学習データ保管場所)との連携はxAPIと、全て国際規格をベースに規定されています。
この辺りも詳細を知りたい方は以下もお読みいただけたらと(長文の内容で恐縮ですが、、、)
ダッシュボードに必要な6つ要素:学校教育の全体アーキテクチャの解説①|稲田 友|note
運用に関する指針・要件
そして新たに「運用に関する指針・要件」が6章として追加されています。前述されている「基本的な考え方」を元に、以下に関する指針・要件を整理しようとしています。
今回のバージョンでは、それぞれ指針のレベルが記載されており、要件という粒度には至っていない印象です。
一方で、ほぼ全ての項目で「令和5年度速やかに」という記載があり、継続的かつすぐに要件整理に入ることが宣言されてもいます。なんかこの辺もおざなりにしない感じが従来の国っぽくない。
中の人が忙しくなり過ぎて体調を崩さないか、ちょっと心配になります。お体ご自愛ください。
Ver.4.00はいつ?何が更新・追加される?
そして追加された6章に、Ver.4.00に向けた方向性も示されています。
4.00では今後のスケジュールを提示、とあるのでロードマップ的なものが追加されるようです。確かに、いつどんなことが起きる見込みなのか、今まで記載がなかったので、これはありがたい。
(ここでも「可能な限り速やかに」の記載が。中の人も体は大切に。)
また、学習eポータルおよび周辺システムが本モデルに適合していることを第三者が確認し明示することの必要性から、適合性評価に関する基本的な枠踏みを整理することが予告されています。
第三者評価って何?という方もいらっしゃるかと思いますが、例えばコロナの飲食店での対策の認証なんかも同じ概念の例でしょうか。
第三者が「ここは対策できていて安全だよ」と確認していることが明示されているため、安心して飲食が出来るのだと思います。
これは学習eポータルや周辺システムでも同じで、自己申告のみでは学校設置者も真偽が判断できず、場合によって虚偽で機能しないサービスを導入することにもなりかねません。デジタル学習環境をしっかり価値あるものとして普及させるための鍵になってくるはずです。
一方で、これが恣意的だと全く健全な市場にならず、評価の中立性は前提条件です。ただし、コストがかかり過ぎてもうまく運用できないので、かなり難しい部分です。
ここをうまくまとめることで、エコシステムの実現に近づくはずです。
そしてVer.4.00の提供時期について、専門家会議内で文部科学省は「今年夏ごろ」と宣言しています。これまで1年更新だったものが半年更新に…。
中の人に栄養ドリンクを届けないといけなそうです。いや、手伝った方が良いか。自分も付録資料1のContributorの1人でもあるので。
最後に将来像と課題
最後の7章は将来像と課題です。
ざっと目次レベルで並べてみても、こんなにあります。
うーむ、沢山ありますが、1つ1つかなり大事な内容。これらを積み上げていくことで、価値あるデジタル学習環境になること事実なので、1歩ずつ、でも可及的速やかに進めていかねば。
自分が貢献できる箇所もあるはずなので、自分事として参加し、より良いものにアップデートしていきたいです。
おわりに
以上で「学習eポータル標準モデル ver.3.00」の最速解説を終わりたいと思います。
今回は概要的な解説ですので、需要があれば技術仕様についても書いてみたいと思います。
これらが全体のなかでどう扱われるのか、は以下の全体アーキテクチャを見ていただければとも思います。
次は何を書こうか、全く決まっていませんが、、、そのタイミングに合ったことを書くことになりそうです(行き当たりばったりとも言う)。
ではまたー。